職場で仲間をつくろう! 職場に労働組合を作ろう!
正規/非正規にかかわらず、働きながら労働条件をよくする方法
連載3 労働組合の担当者と話をした 大平正巳
[名前]飯田和彦
[年齢]36歳
[性別]男性
[職業]トラック運転手(フルタイムの配送アルバイト)
[その他]ひとり暮らし。専門学校卒業
解決したい内容を相談した
飯田さんは、約束した日に労働組合事務所を訪問しました。対応に出てきたのは電話で約束した鈴木さん。労働組合で相談活動をしているが、本業は別にあり、普段勤務する会社でも労働組合活動をしている人物でした。
飯田さんは自分が解決したい内容を一番に相談しました。今の会社で、安定して働きたい。ぜひ、正社員になりたい、と。
鈴木さんからは、労働者が労働組合を結成するか、労働組合に加入すれば会社に団体交渉を申し込むことができること。申し込めば貴方に労働組合としての法的権利、保護が得られること。会社にこの話し合いを拒否する権利はなく、組合、飯田さんとの話し合いに応じなければならないこと。どんな要求であっても、交渉の舞台に持っていくことは可能であることを話してくれました。
アルバイト・非正規労働者が正社員になりたいと希望する例は多いのですが、いきなりその要求を実現できるかは会社と労働者の力関係によるとの見解が示されました。しかし、飯田さんが真剣にその要求を実現するために努力するなら、労働組合は貴方を支援するとも言ってくれました。
闘うなら選択肢は二つある
そして、飯田さんが選べる道は二つあると説明してくれました。
①飯田さんが本来受け取るはずであった、残業代などの未払い給与の清算と雇用・社会保険の適用を求め直ぐに交渉を開始する方法。
②飯田さんが求める正社員化を獲得するため、職場に仲間を増やし、働きながら地位と待遇の改善改善を求める方法。
①の場合は職場で一人の闘いとなり、対会社との力関係も弱く獲得出来る要求の幅も小さくなる。②の場合、時間はかかるが対会社との力関係は強くなり、会社の仕組みを変える、つまり安定就労、正社員化を実現することも可能となるということでした。
飯田さんは、乗りかかった船だから、当たり前の要求を実現する以上のことをしようと、労働組合に加入することを決意しました。職場に仲間を増やし、会社を変えるという道を選択したのです。加入には加入申請書に必要事項を記入し、加入金と組合費を納め、組合規約を承認すること。その上で執行委員会(役員会)承認を経る必要があるとのことでしたが、とりあえず労働組合に加入を果たしました。
労働組合に加入して不払い残業代や雇用・社会保険の遡及加入を求めることは正当な行為です。飯田さんが①を選択した場合でも充分得るものは多かったと思います。
要求実現に向けて作戦会議がはじまった。
とりあえず組合でともに要求実現のために動く窓口は鈴木さんになりました。これから二人三脚で動くことになる関係です。労働組合では組合員当該と鈴木さんのような担当者が組になるやり方が一般的です。
鈴木さんが言うには、いまやるべきことは職場の労働条件点検であること。職場に違法な点はないかを発見し、次に、飯田さん本人の要求は勿論、なかま(同僚)の要求を集約(拾い集める)ことが必要とのことでした。つまり、正社員化を目指すにしても、不安定な正社員では意味がなく、安心して働ける保障をかちとった上に本当の正社員化、要求実現があるとの話でした。職場点検の目的はこれから闘う為の材料を集め仲間を増やすための武器集めとのことでした。
そこで職場点検のポイントは以下の内容でした。
≪職場の環境≫
① 働き方の規則を定めた就業規則は労働者に開示されているか
② 残業を合法化する36協定は結ばれているか
③ 就業規則・36協定の従業員代表は選出されているか。又、それは誰か
就業規則とは労働者の働き方を定めたものです。労働基準法第12章 雑則 第106条により、労働者が誰でも見ることが出来る場所に公開又は開示されていなければなりませんが、少なくない企業で労働者には非公開となっています。また、労働基準法第36条では労働者に残業をさせるには協定を結び労働基準監督署に提出しなければなりません。これも、無締結の企業が少なからずあります。まず、自分たちの会社がまともかどうかの判断基準として確認作業を行なってみてはどうでしょう。くれぐれも会社に悟られないように気をつけて。
労働者のおかれた環境・会社の法令順守度
労働者のおかれた環境・会社の法令順守度は、以下のような項目で確認できます。
①採用時に雇用契約書は交付されているか。
②労働時間は何時から何時までか。休憩時間は保障されているか。
③タイムカードなどの記録は完備されているか。(あればコピーを採ること)
④給与の基本日額は幾らか。対する割増賃金は適正に計算されているか。
⑤雇用保険は適正に加入されているか。
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
・31日以上の雇用見込みがあること。
⑥社会保険は適用されているか。
・1日又は1週間の労働時間が正社員の概ね3/4以上であること。
・1ヶ月の労働日数が正社員の概ね3/4以上であること。
⑦有給休暇制度は労働者に周知されているか。アルバイト・非正規を含めて使用出来ているか。
・入社した日から6か月間継続勤務していること。
・全労働日の8割以上出勤していること。
みなさんが会社から受け取った書類を全て集めてください。雇用契約書が無ければ募集公告でもかまいません。働く上でどのような契約が結ばれたのかを確認することが、現状が適正・適法なのかを判断する大切な材料になります。
会社内の労働者構成
会社内の労働者構成は、以下のような項目で確認できます。
① 会社の中で、アルバイト・非正規労働者の比率と配置はどうか。
② 会社の中で、アルバイト・非正規労働者の仕事内容は正社員と比してどうか。
③ 会社の中で、労働者の採用についてどのようなルートがあるか。
④ 会社の中で、アルバイト・非正規労働者の正社員登用の制度はあるか。
⑤ 会社の中で、アルバイト・非正規労働者を指揮監督しているのは誰か。
社員構成を調べると、みなさんが働く会社の人事方針が見えてきます。アルバイト・非正規労働者にどの程度業務を担わせているかは、後に改正パート法などを活用し正社員化を迫る時に武器となります。また、社員比率が低ければ会社が正社員を絞り、人件費を抑制する方針であることが読み取れ、組合の組織化力点を決めることが出来ます。
会社の役員構成と取引先情報
会社の役員構成と取引先情報は、以下のような項目で確認できます。
・社長以下の役員は誰か。
・メインの取引先はどこか。また、会社が取引先に占めるシェアはどの程度か。
・メインバンクはどこか。
・会社の資産状況はどうなっているか。
役員構成は法務局で登記簿謄本をとればわかります。日常的に見える役員以外にどのような役員が経営に関わっているか、社外役員がいるかは職場分析に必要な情報です。会社の資産状況については、登記簿と同じく会社の不動産登記簿謄本をとれば抵当関係まで一定掴めます。メインバンク・業界シェアについては会社ウェブサイトやインターネットで検索すると良いでしょう。インターネットの活用法としては会社名・社長・役員名をgoogle検索してみると思わぬ情報が取れることがあります。以前関わった案件では、経営譲渡の書類一式が入手できたこともあります。
上記のポイントに即して自分の働く職場を点検してみたところ、会社の様子が見えて来ました。次回は、点検結果から職場組合員複数化へ進みます。