プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

正規/非正規にかかわらず、働きながら労働条件をよくする方法 連載4

職場で仲間をつくろう! 職場に労働組合を作ろう!
正規/非正規にかかわらず、働きながら労働条件をよくする方法

連載4 仲間を募って準備会結成。加入通告へ
大平正巳(プレカリアートユニオン執行委員長)

アルバイトのトラックドライバーの飯田さんと組合オルグの鈴木さんが二人三脚で労働組合を作る(※事実を参考にしたフィクションです)
[名前]飯田和彦
[年齢]36歳
[性別]男性
[職業]トラック運転手(フルタイムの配送アルバイト)
[その他]ひとり暮らし。専門学校卒業

 飯田さんは、組合担当者の鈴木さんと打ち合わせた項目を調査てみました。調査は自分の給与明細や同僚の話など周辺情報の整理・公開情報・インターネットを利用し収集、決して無理をせずに行いました。

職場の環境
①働き方の規則を定めた就業規則は労働者に開示されているか。
②残業を合法化する36協定は結ばれているか。
就業規則・36協定の従業員代表は選出されているか。また、それは誰か。

①については、就業規則は飯田さんが事務所の壁やタイムカードの周囲、社内LANなどを調べた限り、開示されていなかった。
②については、36協定の存否はアルバイトである飯田さんの情報把握力では確認できなかった。
③もまた、不明であった。

労働者の環境・法令順守度
①労働時間は何時から何時までか。休憩時間は保障されているか。
②給与の基本日額は幾らか。対する割増賃金は適正に計算されているか。
雇用保険は適正に加入されているか。
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・31日以上の雇用見込みがあること。
社会保険は適用されているか。
・1日又は1週間の労働時間が正社員の概ね3/4以上であること。
・1ヶ月の労働日数が正社員の概ね3/4以上であること。
⑤有給休暇制度は労働者に周知されているか。アルバイト・非正規を含めて使用できているか。
・入社した日から6か月間継続勤務していること
・全労働日の8割以上出勤していること

①については、出勤は午前4時〜午後1時。または午後3時〜午前0時の2パターン。後片付けなどで必ず1時間ほど残業がある。休憩は60分とされているが、忙しく実際はとれていない。上司から取るように指示もない状態。
②については、日給は8800円。時給1100円+交通費。残業代は定時以?降分は計算されているが割増はなかった。時給が1時間分ついているのみ。
③については、アルバイトは雇用保険社会保険に加入させないと採用時に言われており未加入であった。
④についても、上記説明のため当然、未加入。
⑤については、有給休暇は社員も存在を知らない状態。社員もアルバイトも休むと無給の欠勤扱いになっている。

会社内の労働者構成
①会社の中で、アルバイト・非正規労働者の比率と配置はどうか。
②会社の中で、アルバイト・非正規労働者の仕事内容は正社員と比べてどうか。
③会社の中で、労働者の採用についてどのようなルートがあるか。
④会社の中で、アルバイト・非正規労働者の正社員登用の制度はあるか。
⑤会社の中で、アルバイト・非正規労働者を指揮監督しているのは誰か。

①については、飯田さんが調べた範囲では会社内は事務所を除くと、正社員半分、非正規アルバイトが半分。最近は半年単位の有期契約労働者への転換が始まっている様子。職員数はドライバー約100名、事務職約25名程度。
②現場労働に関しては全く同じ配送業務を行っている。管理業務は正社員が配置されている。
③採用については、正社員アルバイト共にハローワーク、常時求人誌で募集を行っている。基幹的社員の募集は毎年、新卒を募集している。採用の可否は社長が決裁している模様。
④については、飯田さんの実感、社員の話によると、会社はアルバイト・非正規社員の正社員登用は例外を除きない。制度としてもない。会社は?基幹的社員を除き、有期雇用・非正規化を進める方針の模様。

会社の役員構成と取引先情報
①社長以下の役員は誰か。
②メインの取引先はどこか。また、会社が取引先に占めるシェアはどの程度か。
③メインバンクはどこか
④会社の資産状況
・登記簿、インターネット情報

①については、社長は創業者の2代目。役員は社員から登用されたメンバーがほとんどであることから、実権は社長に集中。
②メインの取引先は大手スーパー「アルプス社」。この会社の物流を引き受けることで、「アルプス社」の成長と共に拡大した会社。現在も「アルプス社」の仕事が8割を占める。首都圏に限れば、「アルプス社」の生鮮品配送の6割を担っている。
③メインバンクは、ネット会社概要によると都銀B銀行。
④資産状況は不動産登記簿情報によると、借入枠に余裕があることから安定とみられる。社屋、物流センターは自社物件であることが判明。

■組合オルグからのアドバイス
 事前の調査は細かく行うに越したことはありません。ただし、調査を行うことで会社に組合結成を察知されては元も子もありません。決して無理をせず、集まる範囲の情報徹底して収集分析しましょう。

 上記のポイントに即して自分の働く職場を点検してみたところ、会社の様子が見えて来ました。

調査結果を持ち鈴木さんの元を訪ねた
 飯田さんは、鈴木さんに調査結果を報告した。二人で、検討した結果、今まで飯田さんには見えてこなかった会社の状況と労働者の?処遇に関する意図が見えてきました。
 分析の内容は、取引先も大手であり、シェアも高い。資産も豊富で?あり、銀行からの借り入れも安定している。この会社は経営的に安?定している。労働者の処遇については、差別化が進んでいる。採用?のルートを分析すると、基幹的社員については新卒採用を行っている。その他、ドライバーに関しては中途採用であり有期雇用契約となっていることから、現場労働者の使い捨て体制に移行を目指している。つまり、経営は安定しているにも関わらず、現場労働者は非正規化を進め、いつでも合法的に切れる社内体制造り、いつでも高収益体質の企業を目指している。
 アルバイトなど非労働者へは、法的に必要最低限の雇用保険社会保険にも加入させていない。残業代に関しては、正社員も含め割増賃金を支払っていない。具体的には深夜手当(1.25%)時間外割増賃金(1.25%)が未払い。さらに休憩時間に関しても取得できていないことから実労働時間に組み入れられる可能性が高い。
 会社として基本的義務である、就業規則の周知、労働条件の書面での提示、36協定が未締結である可能性がある。以上のことを法的に整理すると以下のようにまとめられた。
労働基準法第15条違反 労働条件の書面での明示していない。
労働基準法第24条違反 賃金を全額払っていない
労働基準法第36条違反 36協定を締結せずに残業を行わせている可能性がある。
労働基準法第37条違反 時間外の割増賃金を支払っていない。
労働基準法第39条違反 有給休暇を取得させていなかった。
⑦労動基準法第106条違反 就業規則を労働者に周知していない。

どのように仲間を増やすか。要求を定め具体的に動く
 飯田さんは、鈴木さんと相談して仲間を増やす動きを始めることにしました。要求は正社員化であることに変わりはありませんが、この間の調査を土台に、正社員も一緒に入れる組合を目指し、さしあたり会社に法律で定められた水準を守らせるという現実的な内容にし、飯田さんが無理せず話せる職員をリストアップし接触を開始することとしました。あわせて、飯田さんと担当の鈴木さんで二人三脚で取り組みを進めるため定期的な会合を設定しました。組合員を広げる取り組みとして、最初は日常的に会話があり、この会社の収入で生計を維持しているアルバイトで、労働条件に不満を持っていそうな人物を3名ピックアップしました。

信頼できそうな仲間に組合加入を訴えてみた
 翌日から飯田さんは仲間づくりをはじめました。最初は、日常的に付き合いがあり、仕事以外でも会話をしたことがあるアルバイトで、この仕事で生計を維持しているという菊地さんに感触をみるため?話しかけてみました。いきなり本題を話して情報が会社に拡散することを恐れたためです。
 最初は「給与に残業代が入っていないことをどう思うか」と聞いてみました。反応は「自分もおかしいと思っていた」、「会社に聞いてみたことがあるが、時間外は払っていると言われてそのままになっている」ということでした。飯田さんは、「自分もおかしいと考えている」ことを伝えるに話を留めました。飯田さんは、日常的に付き合いのあるアルバイトドライバーに質問の内容を相手の様子をみながら変えつつ問いかけを行いました。
 例えば「雇用保険がついていないことをどう思うか」や「有給休暇をとったことがあるか」などです。最初は、事前に決めた対象者に接触し、関心を探る程度に留めました。

■組合オルグからのアドバイス
 職場組合で仲間を増やすには勇気が必要です。日常の付き合いとは別の視点で同僚をみる必要があります。最初は、日常の関係を元に対象者を探しますが、接触の切り口は労働条件を具体的に掴み解決の可能性を提示することが必要です。

反応の良かった同僚と社外で話す場を持った
 手始めに、最も反応のよかった菊地さんに勤務後に大切な相談があるから食事でも行こうと誘いました。幸い菊地さんは了解してくれたので思い切って組合設立について打ち明けることにしました。この段階では相手の印象も考え組合に鈴木さんはまだ同席は頼みませんでした。
 飯田さんは、約束の時間に現れた菊地さんに率直に調査に基づく会?社の問題点、そして自分の問題意識を打ち明けました。菊地さんの反応は「そうは言っても会社が変わるとは思えない」と話していましたが、会社は違法行為を行なっており、組合として交渉を行なえば改善が見込めること。労働組合には労働三権利があり、攻撃を受けても担当の鈴木さんをはじめとした上部団体もあり不当労働行為として反撃出来る事など闘いの方法を説明する中で、共感を示してくるようになりました。菊地さんも、会社が変わらなければ、現場?で働く労働者も今後の生活設計に展望はなく、歳をとっても不安定な生活から抜け出せないことを理解しており組合参加を約束してくれました。

■組合オルグからのアドバイス
 訴えかけを行う最初の一人を見つけるのは大変だと思います。全く、対象となる仲間が思いつかない場合も当然あります。その場合でも対象者を見つける方法はあるので諦める必要はありません。これまでの経験からも組合担当者と相談し、まさに労働組合の視点で職場の同僚を分析することができれば必ず仲間は見つかります。

組合設立準備会が4名になった
 これまで担当の鈴木さん、飯田さんに加え菊地さんが準備会の会議に加わりました。
 ここから更に反応の良かった2名に訴えかけを行いました。その作?業には飯田さん、菊地さん、必要に応じて担当の鈴木さんも入って加入を受け付けました。結果、そのうちの一人島田さんが加入に応じてくれました。島田さんは、この職場に魅力を失いもう退職しようと考えていたところでしたが、貯蓄もなく退職後の生活に不安があるため辞めるに辞められない状態だったことが判明しました。彼は、職場に改善もさることながら未払い給与や残業代の支払い、雇用保険の遡及適用という要求に魅力を感じて加入を決意したそうです。もう一人の方は、会社と揉めることに不安を感じ加入にはいたりませんでしたが、影で応援してくれることは約束してくれました。

■組合オルグからのアドバイス
 飯田さんのケースはうまく最初の仲間が見つかったケースです。しかし、ここで大切なのは、加入に至らなかった仲間との関係です。一言で言うと「良い関係で分かれる」ということです。加入に至らない理由は様々です。今後、一緒に闘うこともある仲間ですから、理に加入を進めたり、揉めたりする必要はありません。関係が悪くなると会社に情報が漏れたり、以後の仲間集めに悪影響します。

訴えかける対象者が見つからなくなった
 非正規労働者につきまとう問題として、会社内に信頼出来る人間関係が少ないという問題があります。飯田さんたちも仲間を増やす?上で同様の問題に直面しました。130名あまりの会社で組合員数3名は要求を実現するためには非力だからです。とはいえ、その他のアルバイト・非正規社員、正社員とは人間関係が薄く情報秘匿の面から訴え掛けにふみきることができません。

会社内に波風を立てる方法/遵法闘争を決断
 会社内ドライバーの過半数、最低3分の1の組織化を目指して、担当の鈴木さんと飯田さんたちは相談の結果、会社内に広く訴えを行うことを決めました。
 さらに、組合公然化の基準となる組合員数は全社員の過半数、最低でもドライバーの3分の1と設定しました。過半数は会社と有利な労働協約を結び、労働条件の改善を獲得するために決定的な基準。ドライバーの3分の1は、会社の営業に対し決定的な影響を与えられる基準です。
 具体的には、組合がストライキを行なった時にスーパーへの生鮮配送業務が完全に成り立たなくなる数がドライバーの3分の1という分析から目標が設定されました。ただし、漠然とビラを撒いてもインパクトが弱く加入が進むとは判断し難いと考え一つの方法を選択しました。
 労働組合はユニオンなどに加入すれば一人でも組合としての権利を有します。しかし、あくまで一人の力は弱く会社の労働条件を改善させるのは困難です。
 労働組合の力は数の力です。先に出た労働協約は会社と労働組合の約束を書面化したものですが法律以上の効果を持ちます。例えば、アルバイトの正社員化などは法的に確たる決め事はありませんが、組合が過半数を組織し労働協約に正社員化の道筋を盛りこめば、法的拘束力を持ったものになります。
 また、労働組合団体行動権争議権)を持っており、普通の労働者が業務を妨げれば威力業務妨害、損害賠償などを会社に求められますが、労働組合は免責されます(刑事免責)。この力を使えば、ストライキなどの方法を使うことで労働者の要求を会社に認めさせることが出来ます。労働組合を利用し切ろうと考えると、組合員を増やすことは必須条件となります。
 選択した方法とは飯田さんが先発して組合として公然化し、会社の不法行為の是正を求めるという方法です。飯田さんも覚悟を決め、他のメンバーも役割を担うことを了解しました。

具体的な作戦は?
 飯田さんは、具体的な作戦を立てました。
・飯田さんは、会社の不法行為の是正を求め会社に団体交渉を求めつつ、会社が法律の順守に応じない場合は公的機関への訴えを行うなど遵法闘争を開始する。
・要求は前項不法行為の是正、支払いをメインとする。併せて、有休休暇の取得申請を行う。
・他の組合員は非公然(組合員とは公表しないこと)とし飯田さんの行動に対する労働者の反応をリサーチ。社内で賛同者集めを行うこととする。
・公然化した後で、全社員向けに説明会を行う。非公然組合員はそこに賛同者を連れて参加し対会社的にも公然化する。
※その場合、極力職場で信頼を集めている労働者を意識して誘うことが重要。
・組合の打ち出しは、労働条件向上は勿論だが、具体的には会社に割増賃金支払いや社会・雇用保険の適用など法令の順守を求めるかを全面に立てる。
・不当労働行為には録音なども行い徹底的に反撃する。非公然組合員も情報収集を行う。
※上記行動を行うことで、これまで繋がりがなかった職場の人間の関心を集め目標ラインに向け組織化に繋げることを実現する。

■組合オルグからのアドバイス
 通常は、少数の準備会で会社分析と社内の組織分析に基付く仲間の拡大を行い、結成準備前のタイミングで一気に組織化を進める方法が一般的な組織化手順です。今回、飯田さん達の場合は社内組織、全般的人間関係にタッチ出来ないアルバイト・非正規労働者が主体であることから、一般的正社員がとる方法とは違ったアクションを行なうこととなりました。非正規労働者が組織化を行う場合は、これまでの経験とは違う様々な手法を検討、実施する必要があるのです。

会社に組合加入通知書と団体交渉申入書を提出
 会議で方針を決めた翌日、飯田さんは担当の鈴木さんと一緒に勤務前に事務所に赴き、会社(社長宛)に労働組合加入通知書と団体交渉申し入れ書、要求書を提出しました。要求書の内容、作成方法については次号に掲載します。