プレカリアートユニオンブログ

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山田結婚相談所「非正規は結婚できないって本当ですか。」 第7話 「妻は夫に経済力を求めているって本当ですか、山田先生。」

山田結婚相談所「非正規は結婚できないって本当ですか、山田先生。」
道用和男
第7話 妻は夫に経済力を求めているって本当ですか、山田先生。

前回までのあらすじ
山田が所長を務める山田結婚相談所に、友人の木下(29歳,派遣労働者)がやって来た。結婚できるのかどうか不安だという。そこで山田はある調査結果について話した。東京都では独身女性の66%が結婚相手に年収400万円以上を望み、39%が年収600万円以上を望んでいるという。そこで年収140万円の木下は、安月給でも結婚できる「木下プラン」を提案した。このプランは夫婦二人で働いて年間250万円ずつ稼ぎ、家事も夫婦で同じくらい分担するというものだ。
しかし女性の低賃金のため、夫婦共稼ぎでも年収500万円に達しないことを山田は示した。また性別に関係なく労働を評価するために、男女雇用機会均等法の罰則強化や同一価値労働同一賃金の法制化を提案した。それから木下プランの問題点として出産・育児期の女性の退職を挙げ、育児休暇を取らせない労務管理の実例についてもふれた。調査によると退職した女性の65%が家事・育児負担を理由にし、別の調査によると家事・育児の9割を妻が負担しているという。また赤ん坊を育てている母はテレビ視聴や趣味・交際の時間を削り、仕事・家事・育児に1日約10時間も費やしていることがわかった。

赤ん坊を育てている母は、テレビや趣味の時間を削っている。(つづき)
木下:自分の楽しみを我慢して家事・育児をやんなきゃなんない、それも長時間。いやー、キツイなあ。さっきの(第5話での)「家事・育児に専念するために仕事を辞めた」ってのが、だんだん分かってきました。いくら正社員で給料が良くっても、仕事を辞めないと体が持たないでしょうね。
山田:だから育児休暇が必要なんだ。でもさっき見たように一部の経営者は、いやほとんどの経営者かもしれないが、育児休暇を取らせなかったり、取れそうにもない雰囲気を作ったりしているんだ。厚生労働省はファミリー・フレンドリー企業として毎年、育児休暇などが取りやすい企業を表彰しているんだが、こんなキャンペーンをやらなくちゃならないほど育児休暇は取りにくいんだって思うよ。
木下:また法律を変えたり、取り締まり機関を作ったりしなくちゃなんないって話ですか。
山田:大変だけど、そういうことだ。それから経営者に労働者の権利を認めさせるには労働組合も必要だね。立派な法律や制度があっても、守らない経営者がいるからね。育児休暇を取らせないなど違法な労務管理をする経営者に対しては、労働組合が交渉したり圧力をかけたりして正してゆくっていう方法もあるんだ。

   日本女性が夫に求めているのは、誠実さと経済力。
山田:木下プランの話に戻るけど、この統計(第6話の『平成23年社会生活基本調査』)を見ても「男は外で仕事。女は家庭を守る。」っていう性別役割分業規範が、意識の面だけでなく、行動の面でもしっかりと定着しているんだってことがわかるね。夫婦の分業パターンがこのままだと、木下プランの「夫も妻と同じくらい家事・育児をやる」ってのは、ほぼ実現不可能だろうね。これが木下プラン第2の問題点だと思うよ。
木下:問題ないっすよ。みんながやんなくても、僕はやりますから。
山田:けど日本の女性が夫に求めていることは家事の分担ではなくて、第一に経済力だってことは話したよね。家事分担への期待は低いから、木下くんがいくら家事で頑張っても結婚にはたどり着けないと思うよ。
木下:そうなんっすか。そんな話があるんですか。男性に期待する年収が400万とか600万とかっていう話は聞きましたけど。
山田:そうか、まだ話してなかったか。すまん、すまん。えーと、20代と30代の男女を対象にした国際比較調査があってね、日本と韓国、アメリカ、フランス、スウェーデンの結婚や子育てに関する意識調査なんだが、そのなかに「結婚生活を円滑に送っていく上で、大切だと思われることを、この中から3つまで選んでください。」っていう問いがあるんだ。
    で、回答比率が最も高かった選択肢は5か国とも同じで、「夫または妻に対して誠実であること」なんだけど、回答比率第2位の選択肢にそれぞれの国の特徴が表れていて面白いんだ。たとえばアメリカでは「性的魅力を保ち続けていること」で40.6%、フランスとスウェーデンでは「家事・育児を分担しあうこと」で、それぞれ39.4%と46.1%。そして日本と韓国では「十分な収入があること」で、日本が53.4%、韓国が67.2%となっている。
それで日本の女性について見てみると「誠実であること」が60.6%、「十分な収入」が51.6%となっていて、他の国と比べるとその差が非常に小さいんだ。日本女性にとっては「十分な収入」が「誠実であること」とともに非常に重要なんだってことがわかるね*1。話は少しずれるが、なんと日本男性ではこれが逆転していて第1位が「十分な収入」で55.7%、第2位が「誠実であること」で55.1%なんだ。男性のほうが性別役割分業規範に縛られているんだなあ。それとも誠実さはさほど重要じゃないと思っているのかな。(内閣府『平成22年度少子化社会に関する国際意識調査』2011年)

「誠実であること」「十分な収入があること」              (%)
女性 男性 総数
誠実さ 十分な収入 誠実さ 十分な収入 誠実さ 十分な収入
日本 60.6 51.6 55.1 55.7 58.3 53.4
韓国 83.7 67.6 81.5 66.7 82.6 67.2
アメリカ 86.8 33.0 85.7 40.9 86.3 36.9
フランス 80.8 13.5 80.9 17.8 80.8 15.5
スウェーデン 85.5 12.6 84.3 16.3 84.9 14.5
内閣府『平成22年度少子化社会に関する国際意識調査』より作成

山田:そして選択肢には「夫と妻双方が仕事をもつこと」というのもあるんだが、これを選んだ日本女性は5.5%しかいない。他方アメリカ、フランス、スウェーデンでは13〜17%いて、欧米女性と比べると日本女性は「夫婦双方が仕事をもつこと」が大切だとは思っていないようなんだ。

夫と妻双方が仕事をもつこと     (%)
女性 男性 総数
日本 5.5 4.3 5.0
韓国 7.3 6.6 7.0
アメリカ 17.3 13.0 15.2
フランス 17.3 10.7 14.3
スウェーデン 13.6 10.6 12.1
内閣府『平成22年度少子化社会に関する国際意識調査』より作成

山田:他の調査でもそれが表れていて、さっき(第1話で)も話したが、「夫は収入を得る責任を持つべきだ」という考えに対する賛否を、日本とスウェーデンの夫婦*2に尋ねた調査があるんだ。日本では90%前後の夫婦が「賛成」「まあ賛成」と答えている。つまり9割の人が「男性が主たる稼ぎ手である」と考えているんだ。(家計経済研究所編『現代核家族のすがた』2009年)
それに対してスウェーデンでは「反対」「やや反対」と答えた人が多く、例えばフルタイムで働く女性では86%が「反対」「やや反対」と答えている(内閣府経済社会総合研究所スウェーデン家庭生活調査』2004年)。
つまり日本では結婚生活には十分な収入が必要で、夫はそれを稼ぐ責任があるんだと、男も女も考えているんだよ。(第8話につづく)