プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

山田結婚相談所「非正規は結婚できないって本当ですか、山田先生。」 第8話 男が家事をしないのは、残業があるからって本当ですか、山田先生。

山田結婚相談所「非正規は結婚できないって本当ですか、山田先生。」
道用和男
第8話 男が家事をしないのは、残業があるからって本当ですか、山田先生。

前回までのあらすじ
山田が所長を務める山田結婚相談所に、友人の木下藤吉郎(29歳,派遣労働者)がやって来た。去年の年収が140万円だった木下は結婚できるのかどうか不安だという。そこで山田はある調査結果を示した。東京都では独身女性の66%が結婚相手に年収400万円以上を望み、39%が年収600万円以上を望んでいるという。そこで木下は安月給でも結婚できる「木下プラン」を提案した。このプランは夫婦二人で働いて年間250万円ずつ稼ぎ、家事も夫婦で同じくらい分担するというものだ。
しかし女性の賃金が低いため、夫婦共稼ぎでも年収500万円に達しないことを山田は示した。また出産・育児期の女性の退職によって夫婦共働きが続かないことを示した。調査によると出産退職した女性の65%が家事・育児負担を理由にし、また家事・育児の9割を妻が負担している。そして赤ん坊を育てている母は仕事・家事・育児に1日約10時間も費やしていることがわかった。
それを聞いて木下は「僕は家事を分担する」と発奮したが、女性が求めているのは家事分担よりも経済力なんだと山田に水をかけられた。国際比較調査によると日本女性にとって結婚生活で大切なことは第1に誠実さ、第2に十分な収入であり、「夫は収入を得る責任を持つべきだ」という考えに日本人夫婦の約9割が賛成している。そして山田は言った。結婚生活には十分な収入が必要で、夫にはそれを稼ぐ責任があると、日本人は男女ともに考えているのだと。

   経済力だけでなく、妻は夫に家事分担も求めている。
木下:ところでさっき(第7話)の調査で「結婚生活で大切だと思うことを選んでください」っていう問いがありましたよね。その問いに「家事・育児の分担」を選んだ女性はどれくらいいるんですか。僕のプランでは非常に重要なんですよ。
山田:日本女性で「家事・育児を分担しあうこと」を選んだ人は48.1%いて3番目に多いね。けっこう高い比率だな。もっと少ないと思っていたんだが、思い違いだったなあ。ということは、これを選んだ女性たちは、「夫が主たる稼ぎ手であるべきで、さらに家事・育児も分担するべきだ」って考えているってことか。これは男にとってキビシイ要求だなあ。
木下:ってことは、家事・育児をする男には結婚の可能性があるってことですね。
山田:少しはね。でも半数以上の女性が「十分な収入があること」を選んだんだから、多くの女性は、「十分な収入と、家事育児の分担が結婚の条件です」って考えているんだろうね。まあ、そういう女性に木下くんが選ばれるには、もっと稼がないとね。正社員になれたらもっと稼げるんだけどねえ。

   残業を2時間すると、家事・育児の分担は難しい。
木下:でも正社員になったら、残業、残業で家事・育児の分担なんて無理でしょ。先生もさっき言ってましたよね、正社員だと毎日2時間くらいは残業があるって。
山田:そうだね、それくらいあるね。連合総研が調査した数字があって、それによると男性正社員の場合、1か月の間に1時間でも残業※1した人は55.2%いて、その残業時間の平均は43.0時間だそうだ(連合総研「第24回勤労者短観」2012年12月※2)。1日あたりの平均を計算すると20で割って2時間9分となる※3。まあ、だいたい2時間だね。
木下:そんなに残業してたら家事なんて無理ですよ。男性正社員の弁護をする気はゼンゼンないんですけど、1日10時間も働いたら家事なんかできませんよ。家に帰ったらもう、ゆっくり休むだけって感じですね、僕だったら。電車に乗ってる時間も長いし。
山田:ああ、通勤時間のことだね。ある調査によると東京圏では、平日の通勤時間は平均1時間37分だっていう話だよ※4。これは往復の時間だから、片道だと約49分だね。(NHK放送文化研究所編『日本人の生活時間2010』NHK出版,2011年)
木下:仕事時間10時間と通勤時間それから昼休みの1時間をたすと12時間37分にもなりますよ。男性正社員の1日を考えてみると朝8時11分に自宅を出て、9時に出社、夜8時に仕事を終えて、家に帰り着くのは8時49分ですよ。これじゃヘトヘトで、家事なんか無理ですよ。だから僕のプランでは男でも年収250万にしたんですよ。残業しないで帰って、家事ができるようにね。
山田:確かにね。夜9時近くに帰るんじゃ、家事だけじゃなくて育児も無理だろうね。9時すぎにお父さんは晩ご飯をとることになるんだろうけど、この時間じゃ子供と一緒に食べるっていうわけにもいかないだろうし、家族と一緒に過ごす時間はほとんど無さそうだよなあ。
ある調査によると1歳半から6歳までの幼児は、その52.8%が夜9時頃までに寝ているそうだ※5(ベネッセ次世代育成研究所「第4回幼児の生活アンケート報告書」2011年3月)。つまり約半数の家庭では、お父さんが家に帰ってきた頃にはもう子供たちは寝ていて、顔を合わせることも無いってことだね。朝も時間に追われてあわただしく出てゆくだけだろうしね。これでは子育てはお母さんに任せっきりってことになるだろうねえ。

   男性社員の4割近くが、1日2時間以上の残業をしている。
木下:親は無くとも子は育つっていう言葉もありますけど、どうなんですかねえ本当のところは。でもこんなふうに2時間も残業してる人はどれくらいいるんですか。さっきの話では残業をしている男性は正社員だと55%くらいだって言ってましたけど。
山田:連合総研の調査じゃなくて「労働力調査」を見てみよう。これだと週49時間以上働いた人の人数がわかるからね。労働時間が週49時間ということは、週休2日で計算すると1日平均9時間48分で、残業時間は1時間48分となる。2時間ぴったりではないんだが、まあ見てみよう。
まず男性社員※6で週49時間以上働いた人は863万人いる。1週間に1時間でも働いた男性社員は2548万人だから、計算すると33.9%の男性社員が週49時間以上働いているってことになる。週35時間以上働いた男性社員(2275万人)に限ると、その割合は37.9%となり、じつに4割近くの男性社員が1日平均2時間弱は残業しているってことがわかる。(総務省労働力調査平成24年平均」)
木下:男性社員の4割近くかあ。それだけの人が毎日9時帰宅ってことかあ。なんかツライなあ。

   男性社員の16%が、1日12時間以上働いている。
山田:もっと辛い人たちもいてね。1週間の労働時間が60時間以上っていう人たちがいるんだ。その人数は364万人で、割合で言うと、1週間に1時間でも働いた男性社員のうちの14.3%を占めている。週35時間以上働いた男性社員に限ると、そのうちの16%にも上るんだ。(総務省労働力調査平成24年平均」)
週60時間ってことは、週休2日で計算すると1日平均12時間ってことだ。つまりこの人たちは毎日12時間以上も働いてるってことになんだ。さっきのようにこれに通勤時間と昼休みをたすと14時間37分になって、毎日こんなに長時間、この人たちは拘束されているんだ。
1日の残り時間を考えてみると、仕事から帰ってきたらあと9時間23分しかない。睡眠時間が7時間30分だとすると、残りは1時間53分で、あとは食事をとったり風呂に入ったりして、それだけでほぼ1日が終わってしまうって感じだろうね。
木下:それじゃあ何のために生きているのかわかりませんね。肉体的にもシンドイでしょうけど。
(第9話につづく)

※1:資料での表記は「所定外労働」。
※2:調査対象者は、首都圏および関西圏に居住する20歳から64歳までの民間企業に雇用されている者である。
※3:調査が行われたのは2012年9月で、9月の日数30日から土日祝日を除くと仕事日は20日となる。
※4:同資料によれば大阪圏の通勤時間は1時間28分、規模の小さな町たとえば人口5万未満の市町村では1時間3分である。
※5:調査対象者は、首都圏の1歳6か月〜6歳就学前の乳幼児をもつ保護者である。
※6:男性社員を資料の分類用語で記述すると、「非農林業で働く一般常雇の男性」となる。「一般常雇」とは、役員を除く被雇用者のことで、短時間労働者(パートタイマー)はこれに含まれるが、臨時雇いや日雇いはこれに含まれない。

参考文献:森岡孝二『就職とは何か―〈まともな働き方〉の条件』岩波新書,2011年

追記:「労働力調査平成24年平均」によると女性社員(非農林業で働く一般常雇の女性)の場合、週49時間以上働いた人は202万人いて、週1時間以上働いた人は1727万人だったので、その割合は11.7%である。また週35時間以上働いた人は1110万人だったので、その割合は18.2%である。