プレカリアートユニオンブログ

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実践的な内容で、労働組合でも活用できる。日本加除出版株式会社刊『難しい依頼者と出会った法律家へ~パーソナリティ障害の理解と支援』

『難しい依頼者と出会った法律家へ~パーソナリティ障害の理解と支援』(岡田裕子/編著・日本加除出版株式会社)

 パーソナリティ障害という言葉を耳にしたことはありますか。一昔前までは、変わった人、迷惑な人、困った人などといった言葉でコミュニケーションに問題のある特性が括られて来ました。パーソナリティ障害という概念ですが、発達障害などとともに最近ようやく世に広く認知され始めたのを感じます。今回は、コミュニケーション上の問題を抱えた相談者に対し「法律家はどう向き合うべきなのか」といった目線で書いた本書をレビューしていきたいと思います。

パーソナリティ障害を法律家目線で書いた画期的な一冊
 パーソナリティ障害とは、ものの考え方や行動の仕方などが、一般の人と比べて著しく異なり、対人関係及び学業や職業などの社会生活に支障をきたしている状態をいいます。この本のユニークかつ画期的な点は、「法律家」の目線で様々なパーソナリティ障害をもつ「相談者」に対し、どのように接しその権利を正しく実現させていくのかという着眼点で書かれているところです。パーソナリティ障害を理解するという切り口のみによって書かれた書籍と比べ、より一歩踏み込んだ実践的な内容だと感じました。法律家とは本書では弁護士のことを指していますが、私たち労働組合における労働相談や個人的な相談など、様々な分野で実際に活用していくことができる内容です。

具体的な事例を交えてわかり易く解説
 全3部構成からなり、その最も多くの頁を第2部パーソナリティ障害の類型と対応法に割いています。境界型、自己愛性、反社会性など、それぞれのパーソナル障害の類型ごとの具体的な事例に即して、弁護士の対応の「どこが」「どうして」「どういけなかったのか」を問題点として挙げ、具体的にどのような対応が望ましかったのか相談者の特性に即した回答を例示する形で展開していきます。読み進めていると思わず、「こういう事あったな」などと共感してしまうようなリアルな事例ばかりでした。一読するだけでそれぞれの類型に対する大まかな理解把握をすることができました。

相談を受ける側にも起こる心理効果
 問題のある行動を取ってしまうのは相談者だけではありません。パーソナリティ障害を抱えた相談者とのやり取りによって、相談を受ける弁護士のメンタルが振り回されてしまうことも多いのだそうです。その結果、時には衝動的になり相談者を突き放した態度をとってしまったり、言いたいことを率直に言えなかったりと誤った対応をしてしまうケースがあります。相談を受けた側の心が掻き乱されてしまうことで、相談者を傷つけてしまうことや、十分にその権利を実現することが難しくなってしまうことも多いというのです。これはまさしく盲点で、本書で一番重要だと感じたところです。我慢して、「いい人」を演じて相談を聞くのではなく、相談者に振り回されないように意識する必要があると感じました。相手の特性を見据えて、相手を理解する気持ちを持ちつつ飲み込まれないように対応していくことはとても難しいことですが、労働相談においてもとても重要なことだと思います。

誰にでもある傾向
 加えて本書では、パーソナリティ障害により問題となるのは一般の人と共通の特性であり、ある特定の患者にのみ異質な特性があるというわけではないと解説しています。つまり、誰しもが大なり小なり同じ問題や感情を抱えているということになります。その行動自体の理解することができなかったり難しかったとしても、なぜそのような行動に出るのかという根本のところに思いを巡らせ、共感を示したり寄り添う姿勢が大切なのだと繰り返し説かれていました。また、近年パーソナリティ「障害」という訳語は不適切なので見直そうという動きもあります。

一人でも多くの労働者に手を差し伸べたい
 パーソナリティ障害を抱えた労働者が様々なコミュニケーションの問題により、労働問題の当事者になってしまうことは決して少なくありません。一人でも多くの労働者に手を差し伸べ共に闘っていくためにも、私たち労働組合がこういった問題に対して関心を抱き理解を深めることはとても有意義だと思いました。例によってですが、組合事務所に置いてありますので、みなさんぜひ手にとって読んでみてください。

稲葉一良(書記次長)

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