プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

追悼・皆倉信和さん 労働組合だからできた普通に働き生活するための壮絶な闘い 映画『フツーの仕事がしたい』(土屋トカチ監督)

追悼・皆倉信和さん 労働組合だからできた普通に働き生活するための壮絶な闘い
映画『フツーの仕事がしたい』(土屋トカチ監督)

ドキュメンタリー映画『フツーの仕事がしたい』公式ブログhttps://nomalabor.exblog.jp/
旬報社『DVD BOOKフツーの仕事がしたい』(旬報社・2012年1月10日刊)http://www.junposha.com/book/b317071.html

 10月19日、皆倉信和さんが亡くなりました。享年49歳でした。仕事中にセメント出荷基地内で倒れているところを発見され、一度も息を吹き返さなかったのだといいます。皆倉さんは『アリ地獄天国』の監督、土屋トカチ監督による2008年制作の映画「フツーの仕事がしたい」の主人公です。映画は日本のみならず世界中の様々な映画祭で受賞し高い評価を受けました。セメント運送会社の東都物流で働くドライバーである皆倉さんの過酷な労働環境と、その改善に向けての闘いを赤裸々に映し、現代の深刻な労働者を取り巻く搾取の問題を世に問いかけています。

ドライバーは天職
 皆倉さんは昔から車やオートバイが大好きで、高校を卒業してすぐ運転手の仕事を始めました。いわゆる普通のサラリーマンは務まらない、1日中机の前で座っているなんて無理、運転の仕事ならこうやって色んなところに行ける、と運転の仕事について語る生き生きとした表情。運転手の仕事は皆倉さんにとってまさに天職だったのでしょう。映画は労働問題が解決した後の皆倉さんの仕事風景からはじまりますが、無線を通して仕事仲間と会話をする表情がとても明るく、本当に壮絶な労使紛争を闘い抜いた当事者なのだろうかと疑ってしまうほどでした。

「完全歩合」に「償却制」、労務管理の無法地帯
 建設業界は、都心での建設ラッシュにより常にフル回転です。当然、それを支えるセメント業界も絶えず現場にセメントを届け続けなければなりません。当時の皆倉さんは500時間を大きく上回るような過重労働を強いられていました。給与体系は完全歩合制、典型的な違法労務管理です。歩合率も「会社が赤字だ」という理由で一方的に年々引き下げられ生活は圧迫されていました。ある時、セメント車の運転手が車両の転倒事故で死亡。40度の熱があるなか「有給を使うとクビ」と脅され、フラフラの状態で運転していたそうです。皆倉さんは日々の業務に疑問を持ち始めました。会社が給与体系を償却制(リースなどの経費を全てドライバーに押し付ける契約)に変更したとき、皆倉さんは連帯ユニオン(全日本建設運輸連帯労働組合)の門を叩き、会社と闘うことを決意します。

東都物流による壮絶な組合潰し
 会社側の組合に対する態度はとてもひどいものでした。会社関係者を名乗る工藤という男が皆倉さんを脅し、組合の脱退と会社の退職を迫ります。そんななか、皆倉さんのお母さんが病に心労が重なり亡くなります。あろうことか工藤は、その葬式にまで手下を引き連れ乱入し、徹底的に組合活動を妨害しにかかったのです。母が荼毘に付される中、工藤とその手下は参列した組合員や、カメラを持つ土屋監督にまで暴行を加え、3名の組合員が全治2週間の怪我を負う事態となりました。調書を取る警官にも語気荒く暴言を吐く、その姿はまるで無法者でした。

元請けも一体となった搾取の構造
 会社が工藤を労務担当役員に任命したことで、皆倉さんは抗議のストライキを敢行します。その間に、元請け会社である住友大阪セメント、フコックスへの調査、要請を行います。調査の結果、利益誘導型の過積載は元請けの指示のもとであること、元請けが危険な労務管理体制を放置していたことが明らかになりました。近年、「ビジネスと人権」というラギー博士の提言が国際的に注目を集めています。端的にいうと、違法行為を下請けに押し付ける元請けの責任を問おうという内容です。特に運送業界では、コスト削減のために下請けに非常識な運賃で仕事を発注し、その結果違法な労働が発生するということが常態となっています。下請けの違法な労務管理の元をたどっていくと元請けの儲け最優先主義にたどり着くのです。

「ここまで来たらあとは会社を追い詰めるしかないから」
 元請けに対する激しい抗議は日に日に激しさを増します。皆倉さんは闘いの途中、強烈な腹痛により倒れ、3週間ICUへ。生死の境をさまよい、難病クローン病を発症していることも発覚します。しかし、そんな事で挫ける皆倉さんではありませんでした。退院に際しても「ここまで来たらあとは会社を追い詰めるしかないから」と、再び労働環境を変える闘いに戻ります。その結果、東都運輸は事実上廃業、東都運輸の運転手のほとんどの雇用を引き継ぐ新しいセメント運送会社でようやく違法な労働環境での労働から抜け出すのです。同監督による『アリ地獄天国』もそうですが、見る者を勇気づけ、闘う強さと武器を授ける映画でした。

闘う意思を引き継いで
 皆倉さんは、先の8・23大久保製壜ストにも参加されていたそうです。「自分も会社に殺されかけた」と語った彼は、心から安心して安全に働くことができる日本の未来を夢見ていたはずです。普通に働いて普通に生活していく権利すら、自らの利益や欲望のために奪おうとする企業の姿勢を決して許してはなりません。私たちは皆倉さんの闘う意志を引き継いでいきます。改めて皆倉さんのご冥福をお祈りいたします。

稲葉一良(書記次長)

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