プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

社会正義のために闘う「アメリカの元気な労働運動」 10月25日・26日、日本労働弁護団主催のシンポジウムに参加して

アメリカの元気な労働運動と交流しよう!」シンポジウム(日本労働弁護団主催)に参加して

アメリカでは昨年以降、労働運動が大きく飛躍しています。ストライキに立ち上がった労働者の数はなんと50万人にも及ぶといいます。労働組合への評価も好意的なものへと変わり、世の中の期待を大きく集めています。日本労働弁護団が主催し、APALA(アジア太平洋アメリカ人労働者連合。AFL-CIO内のアジア・太平洋諸島系エスニックのグループ)の代表団を招いて、「アメリカの元気な労働運動と交流しよう!」をスローガンに10月25日、26日と2日間にわたって、東京都内で開催されたシンポジウム、交流会に参加しました。

【1日目】ビジネス型学校教育に抗議するアメリカ教員のストライキ
 初日はアメリカでの教員ストライキについて、ストライキを行った指導者の方々を招きお話を伺いました。

アメリカでは公教育が破壊されている
 アメリカでは、公設民営による公教育が数値化・画一化され、貧富の差がそのまま教育格差につながるという問題が発生しています。これにより、格差が固定化、世襲化してしまうことはもちろん、芸術やスポーツなどの分野における教育の機会が、貧困家庭の子どもたちから奪われています。アメリカの公教育は民間企業による、効率や収益を重視したビジネス型学校教育により深刻なダメージを受けているのです。

教員の「使い捨て」
 教育の画一化・数値化に伴い、教師の仕事もまた画一化・数値化しています。企業は、短期間のプログラムで、極めて効率よくインスタント食品のように教員を育成することができ、従来教員に求められてきた人間性や倫理観などが置き去りにされてしまっています。教職が誰にでも出来る仕事に貶められてしまっているのです。その結果として、合理化による教員の待遇の低下や使い捨てが深刻化、大きな社会問題となっています。

シカゴの教員スト
 その結果、アメリカの様々な州で、教員たちが抗議のストライキを行いました。ストライキは大衆の支持と共感を得て、アメリカ全土に広がっていっています。2012年11月、実に25年ぶりに大規模なストライキを敢行、予定されていた業績連動給の導入を見送らせるなど、一定の成果を収めました。このストライキで自宅待機になった児童は35万人にも上ったのだといいます。

ロサンゼルスの大規模教員スト
 ロサンゼルスでも今年1月、3万人以上の教員による大規模なストライキが行われました。9日間にも及ぶストライキの結果は教員たちの大勝利に終わります。学級規模の縮小、養護教員や図書館司書などの増員、賃金(引き上げ)などが実現されました。ロサンゼルスでの教員ストライキも実に30年ぶりだったとのことです。

大成功を収めることができたのは地域のための運動だから
 大成功を収めたロサンゼルス教員ストですが、その成功の最大の要因は、自分たちのためだけでなく、地域のため、社会のために立ち上がったという点にあります。集会には、組合員の数を大きく上回る4~5万人が参加したのだといいます。教員たちは自分たちの問題が自分たちだけの問題ではないことを切々と訴え、地域の住民の支持を得ました。教育の破壊は、生徒はもちろん、その家族にも大きな影響を与える社会問題だという認識のもと、地域全体でストを闘いぬき勝利したのです。

ピケのラインを超えたのはわずか数%
 驚くべきは、ストライキの参加率の高さです。期間中ピケのラインを超え、授業を行った教師は5%、生徒は僅か3%ほどだったといいます。そのほとんどが、障害などのため教育に際し特別な配慮の必要な生徒とその教師たちでした。ストライキの参加者は、生徒たちを載せたバスが近づくと通るための道を開け、決してその進行を妨げなかったそうです。優しさと思いやりに満ちたエピソードです。ストライキの成功を支えたのは、社会正義の実現への組合と地域のみんなの強い思いなのだということを実感しまた。

【2日目】労働運動を元気にする~実践的組織化テクニック
 2日目は、全体での集会の後、分科会が行われました。参加した分科会では、組織化の方法論について活発な意見交換が行われました。

アメリ労働組合の成熟した組織化論
 アメリカの労働組合は職場の過半数を超えなければ団体交渉権を得ることはできません。そのため、労働組合が力を持つために、何を差しおいても重要になってくるのが組織化なのです。参加した分科会は教員労組の方も多く、日々の組織化の苦労を語りアメリカの実践的な組織化テクニックに興味津々でした。

ビジネス型組合からの脱却
 ビジネス型組合が増えている、これは日米労働組合共通の問題と課題なのだといいます。組合からサービスを受けようとする組合員が大多数を占めるこのスタイルでは、強い組織を作り上げることはできません。サービスの利用者にとって、サービスを提供する母体(執行部)は他者であり、自分とは関係のないことと考えられてしまうからです。こういったビジネス型労働組合からの脱却を図るため、執行委員らが労働の現場に足繁く通い、現場の声を聞いて、その現場毎のリーダーを育て「わたしたち」たちの目指すものを丁寧に作り上げていったのだといいます。

自動販売機とスポーツジム
 ビジネス型労働組合自動販売機のようなものだといいます。それはお金を払ってサービスを受けるだけの関係で、集団活動でも組織化でもありません。本来の労働組合のあるべき姿とは、スポーツジムにおけるジムと会員の関係性なのだといいます。スポーツジムでは毎月決まった会費を払い続けます。当然のことながら、ジムの会員でいるだけでは身体は強くなりません。自分で主体的に足を運び、目的を持ってトレーニングをすることで初めて強くなることが出来ます。労働組合も自らが問題に向き合い主体的に動くことで、はじめて本当の闘う力を手にすることができるのです。

ソルティング
 具体的な組織化のテクニックとして「ソルティング」というテクニックを紹介されました。パンのイースト菌はほんの少しの塩を入れることで、飛躍的に膨張します。その「塩」を職場に送り込み、職場でのイースト菌(問題意識や希望)を大きくしていくというテクニックです。まずはオルグ(組織者)を職場に送り込み、送り込まれたオルグは職場の様々な声を聞くと同時に誰がこの職場のリーダーなのかを突き止めます。リーダーとは狭義的な指導者という意味ではなく、この人のところに行けば情報がもらえる、と皆が思っている人のことを指します。そして、リーダーと個人的な関係を構築しコアグループを獲得し、周囲にアプローチを掛けることにより組織化するのです。これらの実践的なテクニックについて、組合では学校を作り、ロールプレイをすることで習得していくのだといいます。

若いオルガナイザーを育てる
 またアメリカの労働組合は、特に若い世代のオルガナイザーの育成に力を入れて取り組んでいます。労働組合運動に於いてはリーダーの存在感がとても大きく、長期的・持続的に運動を展開していくには、スムーズな世代交換がとても大切なのだといいます。ただし、次々と代替わりを行うのではなく、20年は活動できるリーダーの育成を目指すのだといいます。長くリーダーを務めたものは後進の育成に当たり、一般組合員が執行委員の選挙に出る活動を推進し、スタッフとしてのオルガナイザーを教育していくことに力を入れていくのだといいます。個人の力と組織の力、その両方が揃って初めて強い組合になるということを再認識できました。

 2日間にわたり行われたシンポジウムには、合計で約140人が参加しました。分科会の後は再び全体集会が行われ、主催者挨拶では「日米で労働組合が抱える問題は共通だということを学びました。アメリカの労働運動にできて日本の労働運動にできないわけがない。今回のシンポジウムからたくさんのことを学びました。活動をしていく勇気を、そして、ヒントを貰いました。日本は古くから「社会労働運動」をやってきた、それをもう一度復活させればいいだけ。それを皆さんと一緒にやりたいと思います」、と日本労働運動再興へ向けた決意が語られました。そして、日本とアメリカそれぞれの労働者が、互いに強くなり共に社会正義のために闘う、国を超えた団結を確かめ合いました。
 稲葉一良(書記次長)

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