全国ユニオン女性委員会・プレカリアートユニオン共催「労契法20条・パート労働法を駆使した非正規労働者の処遇改善」 梅田和尊弁護士を招いての講演会に参加して
11月15日、全国ユニオン女性委員会とプレカリアートユニオン共催の講演会が行われました。テーマは、労契法20条とパート労働法を駆使した非正規労働者の処遇改善。旬報法律事務所の梅田弁護士を講師に招き、2時間に渡り行われました。平日であるにも関わらず、多くの方が参加し、近年大きな問題となっている非正規差別にどのように立ち向かっていくかを学びました。
日本の非正規差別は世界的でも有数
パートタイムの非正規労働者と正社員との賃金格差は今や日本の大きな社会問題となっています。フルタイム労働者を100とした時のパートタイム労働者の賃金水準は56.6、およそ倍といってもいい格差が見られます。同数値はアメリカこそ59.6ですが、例えば、フランス89.1、ドイツ79.3、オランダ78.8、イギリス70.8となっており、世界的に見ても賃金における日本の非正規・パート差別は顕著だといえます。
各種手当に見られる不当な差別
賃金水準のみならず、日本での非正規差別は、各種手当において更に大きくなっています。通勤手当に関しては雇用形態が有期であるか無期かに関わらず約8割の事業所で支給されていますが、その他の手当、例えば、家族手当、退職手当、住宅手当などはほとんど支給されていないのが現状です。
進むパート化・非正規化
なぜ待遇にここまでの差が出てしまうのでしょうか。その理由として、多くの会社がパートタイム労働者の担っている仕事の内容や職責は軽易だと主張します。しかし、実態がそうでないのは皆さんも御存知のとおりです。仕事内容が全く同じであるにも関わらず、不当な賃金差別を受けている非正規労働者は、悲しいことに、今日では特に珍しくもない存在になってしまっています。仕事や責任が違うのだともっともらしい理由をつけて、企業は人件費の抑制・削減のため、正社員から非正規へ、フルタイムからパートタイムへと雇用の転換を積極的に行っているのです。
「私的自治」の名の下、差別を容認
かつて、このような非正規・パートタイム差別については「私的自治」の原則が適応されていました。労働契約は契約書を交わして双方納得した労働条件なので基本的に国家がこれに干渉しないというものです。しかし、この考え方は契約を結ぶ際の労使の力関係を全く無視しています。非正規・パート差別の改善は非常に難しいものでした。
契約法&パート法の改正
このことに一石を投じたのが、2012年の労働契約法改正です。労働契約法20条では、機関の定めの有無により合理的な理由なく待遇に差があってはならないということが定められました。これ以降、有期労働者に対する待遇差別に関してはこの20条を根拠に裁判で戦われるようになります。続く2014年のパート法改正では、労働時間による待遇差別の禁止も明文化されます。この2つの改正はとても画期的なものでした。例えば、無期雇用になったら労働契約法20条の保護を受けることができなくなるといった問題等は残りましたが、有期雇用・非正規労働者の差別は違法であると示されたことの意義はとても大きいものでした。
2018年パート有期法改正(2020年4月1日施行)
そして2018年、働き方改革関連法の成立により「パートタイム労働法」が「パートタイム・有期雇用労働法」へ改正、2020年4月1日より施行されます(中小企業に対しては2021年4月1日より適用)。この改正により、パート法に定める「差別的取扱いの禁止」が有期労働者にも適応されることとなりました。また、待遇格差の内容と理由の説明義務規定が新設され、「労働条件は個々の待遇ごとに比較すること」や「不合理か否かを判断する時の考慮要素を限定すること」についての明言もなされるなど、非正規・パート労働者の差別是正のための法整備は一段と進んだといえます。
静岡支部クローバー分会が立ち上がった
プレカリアートユニオンの静岡支部クローバー分会では、昨年12月、非正規雇用のパート職員たちの年末一時金(年末賞与)1人5000円支給を要求し団体交渉を行いました。会社はこれを拒否、分会はこれに抗議して街頭宣伝などを行い闘ってきました。非正規労働者への差別処遇は、労働契約法20条、パート労働法、同一労働同一賃金に照らし合わせしも問題があるとして、クローバー分会の賞与支給を求めるパート社員と、未払い賃金の支払いを求める正社員、約20名は、差別待遇を改善すべく、訴訟に立ち上がりました。
判例では「賞与」差別が違法と認められたケース
賞与をめぐる待遇差別に関する判例は、とても厳しいものです。「賃金の対価の後払い、功労報奨、生活費の補助、労働者の意欲向上などの多様な趣旨を含みうる」(長澤運輸事件最判)ことから、その格差が違法であると実際に認められたケースはないに等しいという厳しい実情があります。やはり、支給に際しての会社側の裁量権は相当にあると判断されてしまうのだそうです。そんな中、唯一格差が違法と認められたケースが「大阪医科大学事件」です。
大阪医科大学事件における画期的な判決
大阪医科大学で賞与をめぐる格差が違法と判断された理由を見ていきましょう。大学は、正社員に一律で年間、基本給の概ね4.6ヶ月分の賞与を支払っていました。これらの賞与額は基本給のみに連動し、年齢や成績に連動するものでも業績に連動するものでもありません。裁判所はその賞与を「在籍していたということ、すなわち、賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する」ものであり「そこには、賞与算定期間における一律の功労の趣旨も含まれる」と認定しました。賞与算定期間内に就労していたのはアルバイト職員も同じです。結果的にアルバイト職員に対して正社員の6割の賞与支給が妥当であるという判断が下されました。
クローバー分会は大阪医科大より有利な条件が揃っている
大阪医科大学の判例は極めて異例且つ画期的なものでしたが、実はクローバー分会の賞与問題は、大阪医科大学より更に良い判決を引き出せる条件が揃っているのだと梅田弁護士は解説します。クローバーでは、正社員に一律給与の1ヶ月分の賞与を年2回支給しています。大阪医科大学と同じく、年齢・成績・業績のいずれにも連動していないものです。さらに、パートと呼ばれていても時間はフルタイム。仕事内容も正社員と同じなのです。大阪医科大学の場合、原告はアルバイトのみだったので、仕事内容について正社員と同じであることを立証するのが困難だったのですが、クローバーは正社員も共に訴訟を起こしています。仕事内容の証明は容易いことなのです。パートタイマーにも、正社員と同じ年2回1ヶ月分の賞与の支払いを求めての裁判がまさに今始まろうとしています。
勝利判決をもって格差是正の武器にしたい
今回のクローバー分会の闘いが勝利を収めることは、単に私たちプレカリアートユニオンの闘いの勝利を意味するに留まりません。来春に改正パート有期法が施行されるに際して、「賞与の面でも不合理な非正規差別を許さない画期的な判例」を勝ち取ることは、労働運動全体にとって大きな意義のあることなのです。「勝利判決をもって格差是正のための武器にしていきたい」講演会の質疑応答の最後、清水委員長はそう決意を表明しました。
稲葉一良(書記次長)