プレカリアートユニオンブログ

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スト中の炭鉱労働者と支援するレズビアン&ゲイの会。連帯の本質を描く。映画『パレードへようこそ』(マシュー・ウォーチャス監督)レビュー

『パレードへようこそ』(マシュー・ウォーチャス監督)

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 「パレードへようこそ」は2014年公開、マシュー・ウォーチャス監督による映画です。1984年、イギリスのサッチャー首相が打ち出した20箇所の炭鉱閉鎖に抗議するストライキを支援したLGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)という、ゲイ&レズビアンの活動家の実話に基づく物語です。当時、激しい偏見と差別、弾圧に晒されていたゲイの青年が、炭鉱労働者への国家弾圧を見て「僕たちと同じだ」と、支援に乗り出します。団結、連帯、友情に愛、様々な「絆」について考えさせられる作品でした。

「品位に欠けるみだらな行為」?
 そもそも、数十年前まで、イギリスでは男性同士の性行為は違法でした。1885年「品位に欠けるみだらな行為」として、具体的に男性同士の性行為が違法とされました。スコットランドでは1980年まで、北アイルランドでは1982年まで男性同士の性行為を違法としてきたのです。物語は、1984年から5年を舞台に描かれています。地方によっては少し前まで違法とされていた同性愛ですが、当時イギリスでどれだけ偏見と迫害に晒されていたか想像がつくでしょうか。

「彼らには差別主義者の敵がいないだけ」
 ロンドンに暮らすゲイの活動家マークは、炭鉱夫の置かれている状況は自分たちと同じだと考えます。「彼らには差別主義者の敵がいないだけ、政府と警官とタブロイド紙からいじめられている状況は同じだ」、そう仲間たちに発信します。ロンドンでのゲイの権利を訴えるパレードの打ち上げでそんな彼を中心にLGSMは組織されます。早速、全国炭鉱労働組合に連絡をとりますが、何度連絡をしても「後で掛け直す」と言われ、支援をすることすら断られてしまいます。そこで彼らは「炭鉱に直接連絡をする」という手段を思いつきます。ウェールズの炭鉱町ディライスの役場に連絡をとると、寄付が受け入れられることとなります。

「Lはロンドンの略?」
 寄付が受け入れられることとなった数日後、ディライス炭鉱を代表してやってきたダイは「Lはロンドンの略だと思っていた」と驚きますが、初めて訪れるゲイ・バーで一切の偏見なく心からの感謝のスピーチをし、支援の輪を広げることに成功します。「皆さんからもらったのは、お金だけではなく友情だ」という彼のスピーチは映画序盤のハイライトシーンです。「巨大な敵と闘うとき、遠くで見ず知らずの誰かが支えてくれているということが大きな力になる」。団結すること、連帯することの意義をストレートな表現で伝えています。

偏見が理解・共感へと変わっていく
 LGSMによる支援は多額に及びました。支援者への感謝パーティを企画するヘフィーナは、周囲の反対を押し切り、彼らをパーティに招くことを決めます。初日こそ彼らがスピーチをすると次々と席を立つ人が現れましたが、次第に町の人々と心を通わせていきます。偏見の塊のような物言いや態度が少しずつ、互いへの好奇心や理解、共感へと変わっていきます。町を後にする頃には、LGSMのメンバーはすっかり街の人々と打ち解けていました。

ストには負けたが絆は残った
 結果として、炭鉱の人々やLGSMの奮闘虚しく、ストライキは労働者側の敗北で幕を閉じました。しかし、そこでの絆が潰えたわけではありません。1985年6月29日ロンドン・ゲイ・プライドには多くの炭鉱労働者が駆けつけました。行進の先頭を炭鉱労働者が歩き、ストライキを支援したLGSMに連帯の意を表したのです。ストの翌年には労働党大会に動議が提出され、規約に同性愛者の権利を盛り込む議案が提出されました。過去何度も廃案になったこの議案が可決されたのは、全国炭鉱労働組合による全会一致の支持によるところが大きかったとされています。

 映画が扱っているテーマはとてもシリアスなものですが、観ていて思わず引き込まれてしまうような「楽しい」映画です。言葉だけでない「連帯」の本質に触れることのできる映画だと感じました。
 稲葉一良(書記次長)