プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

大量解雇に抗してパート労働者がスーパーを占拠。生活と誇りを守るために闘った女性たちの姿を描く。『明日へ』(プ・ジヨン監督)レビュー

『明日へ』(プ・ジヨン監督)
https://eiga.com/movie/82754/

 『明日へ(原題:カート)』は、2014年、韓国で公開、実話に基づいた映画です。本国での大ヒットを受けて、日本でも翌2015年に上映されました。物語は急遽行われた大手スーパーでの大量解雇と、それに立ち向かう労働組合との闘いを描いています。問題の背景はもちろん、悪質なブラック経営を行う使用者、不当労働行為など、問題の持つ構造は、日本と驚くほど似通っています。

 全非正規社員の不当解雇を強行!
 韓国は歴史的にも儒教の影響が強く、未だに強い男尊女卑の文化として色濃く残っています。その結果、多くの女性は、非正規やパートでの就労を余儀なくされています。サービス残業に、パワハラや悪質なクレームに耐えながら、彼女たちは生活のために懸命に働きます。本作序盤、会社はスーパーで働く全非正規労働者に対して契約期間中の不当な解雇を強行します。ちなみに、スーパーの非正規労働者はなんと全て女性、非正規差別が男女差別を含む構造的な差別であるという側面も全く日本と同じです。

 労働組合結成!それでも話し合いに応じない経営陣
 不当解雇を突きつけられた彼女たちは、黙って泣き寝入りをしたりはしませんでした。「契約期間中の解雇は違法だ」と、解雇された多くの仲間とともに労働組合を結成し、会社側に団体交渉を申し入れるのです。しかし、会社は団体交渉を拒否。韓国でも団体交渉拒否は不当労働行為として禁止されています。彼女たちは2週間もの間、毎日会議室で待ち続けましたが、会社は交渉の席に着こうとすらしませんでした。

 ストライキを敢行、スーパーを占拠!
 団体交渉を拒否された彼女たちが次に取った手段は、ストライキでした。ストを通告すると、会社は代わりのアルバイトを雇うという違法行為で妨害を画策します。ストの一団はアルバイトを追い出しレジを封鎖、そのままスーパーを占拠します。「組合をやめたら正社員にしてやる」、という脱退工作や「立ち退けば、すぐに話し合いに応じる」との会社の提案も一蹴し、スーパーの占拠は長期間に渡り、それによる損害も日に日に増えていきます。会社は警察を使いストライキを強引に鎮圧します。

 「他人事だと思っていた」
 ストの裏で、会社はスーパーの売却を進めていました。契約社員として転籍させられるなど、一方的な労働契約の不利益変更が今度は正社員たちに突きつけられます。それまでは「他人事だと思っていた」彼らも合流し、ストを破られた組合は息を吹き返します。正規非正規、男女の別を問わず、スーパーで働いていた労働者たちが一致団結したのです。

 「解雇した労働者たちを復職させるように」
 闘いは大規模化し、激しさを増していきます。そんななか、中央労働委員会が会社の違法行為、不当労働行為に対する「救済命令」を出します。命令の内容は「解雇した従業員たちを復職させるように」という労働組合にとって全面勝利ともいえる命令です。集会の場で委員長がそれを伝えると、会場は歓喜に包まれ全面に祝勝ムードが漂います。

 分裂工作、暴力弾圧を経て感動のラストへ
 ここから、一気に問題は解決と思いきや、会社は中労委の命令を逆手にとり「一部の従業員のみを復職させる」と、組合員たちに分裂工作を仕掛けてきます。さらには、暴力で威圧・弾圧し、強制的に労働組合を排除するなど徹底抗戦の構えを崩しません。仲間が傷つき、そして組合の力が少しずつそがれていくなか、彼女たちがとった行動とは……。少し思わせぶりですが、ラストは敢えて秘密にしておきます。
 この映画では、組合の闘いと並行して、母子家庭の貧困問題が描かれています。貧困が子どもたちや家庭に深刻な影響を与えていく様は、観ていてとても胸が詰まりました。現在、同様の労働問題・貧困問題が世界中で起こっています。問題の本質はどれも同じです。この作品を通して、国境を超えた強い団結が今求められていることを強く実感しました。
 稲葉一良(書記次長)