プレカリアートユニオンブログ

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【手記再掲】とちぎテレビ開局15周年記念番組「雷様剣士ダイジ」、命を削ったクリエーターたちが未払いとパワハラ被害

とちぎテレビ開局15周年記念番組「雷様剣士ダイジ」、命を削ったクリエーターたちが未払いとパワハラ被害

 色々な年代の様々な像があると思いますが、誰もが一度は「ヒーロー」というものに憧れたことがあるのではないでしょうか。悪を挫いて弱きを助く。そんなヒーロー像に憧れ、子どもから大人まで様々な勇気を与える存在、それが「ヒーロー」だと僕は思います。
 そんななか、栃木県で有名なご当地ヒーロー『雷様剣士ダイジ』の制作スタッフが、実に一年近い賃金の未払いと障害者スタッフに対するパワハラ被害を受けています。

テレビ制作現場の闇
 組合員の方はすでにご存じの方もいらっしゃると思いますが、テレビ番組や映画などは華やかな表舞台にフォーカスされることがほとんどです。しかし、影となる裏方の部分は過重労働を強いられるケースが多いです。なかには非人道的な扱いを受け、劣悪な労働環境から心身ともに社会復帰が難しくなるほどの傷を負う人がいるほど。
 また、テレビ局や制作会社の社員ではない「フリー」と呼ばれるフリーランスのスタッフも多くいます。しかし、指揮命令系統は発注元のテレビ局や制作会社が担うことが多く、お世辞にも公平とは言いがたい契約の強要や、報酬額を伏せての発注、ひどい時には契約書すらないまま仕事を発注されることも多々あります。
 優越的地位の乱用が蔓延る業界のなかで必死に食らいつき、いい制作をしよう、いい番組を作ろうというクリエイターならではの高い志のもと、「干される」恐怖と闘いながら仕事をしているのです。もちろん、残業代なんて出ません。なんせ優越的な地位のテレビ局や制作会社が提示する「成果報酬」ですから。
 全てが全てそのケースではありませんが、例え社員であろうと、その劣悪な労働環境は基本変わりありません。私が居た栃木の制作会社では昇給はほとんどなく、残業代も出ない固定給でした。

雷様剣士ダイジ
 2013年末、当時制作会社社員だった私に一つの仕事がきました。栃木県を舞台に繰り広げるいわゆる「ご当地ヒーロー」の制作です。この手の制作には珍しく、地方局での2クール(6ヶ月)テレビ番組放映が決まっておりました。子どもたちが大人になっても、思い出の中で生き続けるヒーローを作る。そんな仕事ができるんだ!と、当時は誇らしく思いました。
 そして間も無く「雷様剣士ダイジ製作委員会」が立ち上がったのです。

 ディレクターや脚本、編集、技術、MAなど色々な担当のスタッフが製作委員会へ加入し、ロケやイベントに帯同するスーツアクターや、本編で使用する声優などは近くの専門学校の学生に「授業の一環」として無償で(?!)キャスティングしていきました。また、キービジュアルの撮影やデザイン、ロケハン、ティザーや本編の撮影など様々な仕事が進んでいき、放送日の決定、番宣(番組宣伝のCM)の納品、放送に際しての特集番組が組まれたり、とにかく膨大な仕事量をタイトなスケジュールでこなしていく日々です。

 そう、この「雷様剣士ダイジ」は『とちぎテレビ15周年記念番組』だったのです。

 余談ですが、栃木県の方言だと雷様と書いて「らいさま」と読みます。これは、栃木県の県庁所在地である宇都宮市が、夏場の夕立や雷が多い地域であることから『雷都』と呼ばれており、地元の人たちが親しみを込めて「雷様=らいさま」と呼んでいる事が由来しております。また、これまた栃木県の方言で、大丈夫の意味を「ダイジ」と言います(大事と同じ意でも使います)。ですので、ここでもぜひ「雷様剣士ダイジ」を「らいさまけんしダイジ」とお読みいただければ幸いです。

地元に愛されるヒーロー
 ほどなくして雷様剣士ダイジは世に出ていくのですが、予想以上の反響を得ることとなります。もともと6ヶ月だった放送契約が1年となり(最終的には現在に到るまで6年にわたって放送)、イベント出演やタイアップCM、様々なグッズ制作、幼稚園の無料訪問なども決まり、人気を不動のものにしていきます。
 また、放送している番組内容も、悪を成敗するヒーロー像こそ踏襲したものの、主に栃木の地産・名産を食べてパワーアップし、地元ならではのランドマーク・名所でエネルギーを蓄え、キャラクターやヒロインを使って物語るという独自の切り口で、県民に向けて紹介する先鋭的な情報番組の側面も持ち合わせていました。ゴールデンタイム放映の効果も相まって、毎週親子や孫子で見られるお茶の間番組としての地位を築いていったのです。
 休日や祝日には様々なイベント会場でゲスト出演いたしました。キャラクター達が演じるヒーローショーでは常に子ども達が最前列を飾り、元気な掛け声でダイジを応援し、主題歌を歌い、最後はお客さんとみんなでダンスを踊る。毎年開催していた「ダイジフェス」なる冠イベントは、来場者数が毎回会場キャパシティ限界の3000人以上に上るなど、大きな注目を集めていきます。
 それもこれも、制作スタッフが命を削って作っていった作品なのです。

とちぎテレビに押し潰されていくヒーローたち
 前述の通り数年に渡り多大な人気を博し、名実ともに地元のスーパーヒーローとなった「雷様剣士ダイジ」ですが、その組織は徐々にひび割れていきます。
 熾烈を極める業務は現場スタッフの心身を削っていきました。朝が早いロケから帰社後も夜遅くまで仕事を強いられる技術スタッフ。週に1回の放送スケジュールにも関わらず編集、MAはほぼ1人でこなさないといけないスタッフ(ヒーロー番組という特性上CGや効果音を多く使う為、編集や音に関わる作業は通常の番組の比にならない作業量となります)、週末のイベントの為に打ち合わせや準備をこなし、イベントはキャラクターの中に入って演じるスタッフetc……。みんな休みが満足にとれなかったり、早朝から深夜までの拘束、徹夜で作業なんてことも珍しくありませんでした。もちろん残業代など出る事はありません。フリーも社員も一律いくらのギャラですから。
 割に合わない給与やギャランティのせいで退職を申し出るスタッフが相次ぎました。しかし組織にそぐわないスタッフや待遇の改善を求めたスタッフに対してはパワーハラスメント(密室で5時間以上に渡り叱責するなど)を行い、意味の分からない配置転換や無理な事業計画、放送計画などを押し付け、責任も現場スタッフに押し付ける、自分の息のかかったスタッフを無理やりプロデューサーに投入し、制作会社社員として所属させるなど横暴な行為が横行したのです。
 そこには立場として制作会社、さらには製作委員会の上位に位置するテレビ局「とちぎテレビ」の存在、そして制作会社をコントロールして我が物とするとちぎテレビ社員プロデューサーの存在がありました。
 プロデューサーは、日常的に車椅子を使用しなければいけない当該組合員のスタッフに対して「あなたを障害者だと思わない。健常者と変わらず接する」と言い放ち、無理な業務や大量の業務を押し付け、スタッフのミスは全て責任を押し付け叱りつけるという日常的なパワーハラスメントをしていました。

 私も制作会社社員であった際、契約満了を申し付けられてフリーへと転身させられた挙句、実際は実質的な雇用にも関わらず、前述のとちぎテレビプロデューサーに「予算がないから外れてくれ」と突然の退職を突きつけられました。所属制作会社ではなく、上位に位置するとちぎテレビ側の社員から仕事を取り上げられた事が納得いかなかったことを覚えております(その後数週間後に、作業できるスタッフがいないので戻って欲しいと懇願されましたが待遇は変わりませんでした)。しかしその後も、賃金の遅れや未払いが改善されることもなく、スタッフがいなくなる分業務量は増え、前にも増して拘束が増える一方、予算が無いから賃金自体を支払えないという無茶苦茶な理由で賃金の未払いを続けておりました。

 なぜその様な状態でも番組やイベントを続けなくてはならなかったのか。
 とちぎテレビは優越的な地位を利用し、ダイジ製作委員会の幹事会社に私が所属していた制作会社を指定しておりました。継続可能な予算もなく、とちぎテレビ側からの追加出資もない。しかし、番組を続けていく事は既定路線。
 賃金の未払いやパワーハラスメントが横行するなか、とちぎテレビ側のプロデューサーは事実を知りながら黙認し、なんの問題解決もしないままダイジ製作委員会の扉を閉めようとしました。さらには制作会社へと責任転嫁をした挙句、これまでにかかった多額の制作費を清算しようともしませんでした。スタッフがとちぎテレビ側に申し出た団体交渉では「全ては幹事会社である制作会社の責任。」と一切の責任を認めないにも関わらず、とちぎテレビでの放送が終わって1年以上経つ今現在も、当時スポンサーだった銀行でタイアップポスターを掲示したり、町役場の封筒などにダイジのキャラクターを使用したりしております。

 私はダイジを作ってきたスタッフたちはみんなヒーローだと思っています。みんなで命を削って一つの大きなヒーローを創り上げたのです。一人一人が小さくて、大きなヒーローなのです。強大な悪に屈しそうになった刹那に出会ったヒーロー「プレカリアートユニオン」の力を借りて、私たちは現在も闘うことができるのです。

ヒーローは悪に打ち勝つ。

 吉田祐一(プレカリアートユニオン組合員)

2020年2月

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株式会社とちぎテレビ(略称:とちテレ)
〒320-8531栃木県宇都宮市昭和2-2-2
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