プレカリアートユニオンブログ

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ユニオンをレッテル張りしながら会社に違法行為を勧めるトンデモな内容。『ブラックユニオン』(新田龍著/青林堂)

ユニオンをレッテル張りしながら会社に違法行為を勧める
トンデモな内容。『ブラックユニオン』(新田龍著/青林堂

 「ブラックユニオン」は青林堂から2019年に刊行された、新田龍氏による著作です。本書は、「ブラック企業」と化してしまいがちな会社を「ホワイト企業」にして、悪の労働組合「ブラックユニオン」からの不当な攻撃から守る術について記している体裁をとっています。しかし、実際に読み進んでいくと、日本の真面目な労働運動を「ブラックユニオン」とレッテル張りして攻撃しながら、企業に対してはブラック企業化を推進、更には労使の対等すら否定するような内容となっています。
 ■「合法的なリストラ手法」として「退職勧奨」を推奨?
 著者は、日本の解雇制限がとても厳しい中、実際にリストラを行うことが出来ている会社がある理由について「解雇」ではなく「退職勧奨」を行っているからだと記しています。追い出し部屋を使って積極的に自己都合退職に追いやるのも、人事権を行使すれば極端な場合を除いて法的にも認められる、「非常に強力な退職勧奨をおこなう」ことによって裁判に持ち込まれても負けない仕組みを作るべきとも主張しています。いくら執拗な退職勧奨を行っても、社員がどれだほどの精神的苦痛を得たかは判断が難しいしどんな説得を行ったかなど知る由はないから「上手くやれ」、というのです。これらの悪質な退職勧奨・強要が裁判で無効になるケースは年々増加しています。「裁判で負けない」は明らかな誤りと言えます。著者は無知と思い込みから、社内の密室で徹底的に社員を追い詰めて自ら辞めるように仕向けろと使用者に勧めているのです。
 ■「何があっても残業をさせない・許可しないという」覚悟?
 また、著者は働き方改革について経営者が覚悟すべき事は「残業をさせない・許可しない」という強い意志を持つことただ1つだけと豪語しています。退職勧奨の件と同じく、これも明らかな誤りです。
 残業の許可制は多くの「残業代未払い」の温床になっています。「命じてないから残業ではない」として使用者はサービス残業を強いますが、そんな理屈は全く通りません。さらに、同じ章で新田氏は、仕事のスピードを上げ労働密度を高めることで、終業時間になる頃には社員を「精根尽き果てる」「もうこれ以上仕事できない」という状態にするべきだという主張をしています。
 これは安全配慮を無視した精神論であると同時に、そもそも社員が疲弊することと仕事の成果が出ることには何の因果関係ありません。「疲れなければ仕事じゃない」はいかにも昭和的な労働観に思えます。新田氏の、とにかくめちゃくちゃ働かせて残業が出ても認めず隠蔽しろともとれる主張は、ブラック企業をなくすどころか、ブラック化を推奨しているようにしか聞こえません。
 ■「教科書的な対応を疑え!」と不当労働行為を教唆 
 ユニオン対策についても、新田氏は独特な「勘違い」を披露しています。特に酷いのは「要求書」は突き返してもよいという主張です。仮にユニオンが「不当労働行為だ!」と騒ぎ立て労働委員会に訴え出ると言い出すとしても「短期間で労働委員会の命令が出ることはないので、安心して良い」というのです。また、「不毛に終わることが多い団体交渉に時間とエネルギーを費やすよりも最初から労働委員会に任せる」のも手であるとさえ主張しています。同氏がもし社労士などの士業なら、「首切りブログ」よろしく懲戒請求ものの問題発言です。
 他にも、著者の「トンデモ」な主張は、ほぼ全編にわたり展開されています。「ブラック企業であるかどうかなど、当事者以外のほとんど全ての人にとって関係ない」と言ってみたり、巻末付録の就業規則モデルには「”顛末書”で反省・謝罪を求め」など、基本的な労務の知識すら覚束ないことも披露しています。新田氏は「ブラック企業アナリスト」という聞き慣れない肩書きを名乗っていますが、まずは分析(アナライズ)するための、正しい知識を身につけるべきと考えます。
 稲葉一良(書記次長)

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