プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

移民の清掃労働者が糧と尊厳を求め立ち上がる。映画『ブレッド&ローズ』

 『ブレッド&ローズ』は2000年イギリス製作の映画です。以前もこのコーナーで取り上げた『家族を想うとき』の監督でもある、社会派の巨匠ケン・ローチ監督による初のアメリカ撮影作品です。移民労働者の貧困と差別、そして、労働組合と企業の闘いを描いています。実際にあった労働条件改善運動をモチーフにした作品で、タイトルの「ブレッド(パン)」は生きるために最低限必要な糧、「ローズ(薔薇)」は人間らしく彩りのある人生を生きるための尊厳を意味しています。

メキシコからの「不法移民」マヤ
 主人公のマヤは、メキシコからの移民です。移民といっても所謂「不法移民」。ロサンゼルスに住む姉のローサを頼って、アメリカにやってきます。移民の問題は、とても深刻で複雑化しています。マヤたちが違法と知りながらも国境を越えなければならない背景には、故郷メキシコでの貧しい暮らしがあるのです。現在のアメリカ政府は、移民達にその人権を否定するような弾圧を加えていますが、一概に「不法」移民だから「悪」だとレッテルを貼ってしまうのはあまりにも乱暴なことです。アメリカの歴史は移民の歴史でもあります。現実問題として、マヤたちのような移民たちは極めて低賃金で不安定な仕事を強いられ、それに依存して経済が成り立っている一面もあるのです。

人としての尊厳を奪われた清掃員たち
 マヤは、ローサの紹介で彼女と同じビルの清掃員の仕事に就きます。ハードな仕事でしたが、それでもマヤたちには「恵まれた」仕事でした。入職早々、マヤは事務手数料だと清掃員の管理者から1ヶ月分の賃金を搾取されてしまいます。清掃員たちは、管理者の気分次第でいとも簡単に即日解雇されてしまう事が日常茶飯事だったりと、極めて不安定な就労環境に置かれていました。清掃員の多くは移民、社会構造には巧妙に差別が組み込まれているのでした。また、ビルのテナントの従業員やホワイトカラーたちにとって、清掃員は「透明人間」であり、清掃中でもまるでそこに存在しないかのように彼らの存在は無視され続けるのが常でした。清掃員はひとりの「人間」として扱われていないのです。

低待遇や雇用の不安定の解消を訴え立ち上がる!
 また、待遇面でも清掃員達は極めて低賃金での労働を強いられ、保険にも入れない状況でした。「80年代は今よりもっと賃金が支払われていたし、健康保険にも入っていた」と組合の若きオルグであるサムはマヤたちに呼びかけます。日本にいるとなかなか実感できないことですが、80年代以降アメリカを含むほとんどの先進諸国では、給与水準が年々上がっています。それが80年代と比べて低く保険もないのだというのだから、彼らの待遇がいかに劣悪なものであったかが伺い知れます。組合に入って会社と闘うべきだと言う呼びかけに対し、はじめは組合活動に懐疑的だった清掃員たちも、仲間の解雇を受け、会社と闘う意志を固めます。

組合の壮絶な闘い!そして…
 組合は、清掃会社そのものだけではなく、会社に仕事を委託するビルのオーナーにも不当な待遇に対する責任があるとして、様々な抗議活動やデモを展開します。オーナーの会食や法律事務所の記念パーティーに乱入して、清掃員たちの置かれた現状と待遇の改善を訴え続けました。組合活動が盛り上がりを見せると、会社は組合活動に参加したと目される従業員たちを全員解雇。マヤも解雇されてしまいます。清掃員たちは、怒りを胸に立ち上がります。ビルを目指し、大勢のデモ隊が「パン」と「薔薇」を求め突き進んでいきます。

 この映画は、アメリカの移民の闘いを描いた作品です。極めて不安定な就労環境や生活を強いられる彼らは、正しくプレカリアートだといえます。物語は完全なハッピーエンドでは終わらず、社会に課題を投げかけるような幕引きです。プレカリアートの団結と闘いについて、様々なことを考えさせられる名作でした。

稲葉一良(書記次長)

movies.yahoo.co.jp