映画『エリン・ブルコビッチ』(スティーブン・ソダーバーグ監督/アメリカ/2000年)
この映画は、環境運動家のエリン・ブロコビッチ氏が闘ったPG&E社による環境汚染問題をモチーフにした、実話に基づいた作品です。主演はジュリアロバーツ。本作での名演により、国内外の様々な賞を受賞しました。映画はスティーブンソダーバーグ監督により2000年にアメリカで制作され、エリン・ブロコビッチ氏本人もカメオ出演をしています。訴訟の国アメリカというイメージも強いですが、この汚染問題はアメリカで初めて公害に対する大規模民衆訴訟に対し多額の賠償金が認められた歴史的な闘いでした。
■主人公エリン シングルマザーの貧困
主人公のエリンはシングルマザーです。2人の子どもを育てながら仕事を探す毎日ですが、なかなか上手くいきません。多くのシングルマザーがそうであるように、エリンもまた、育児との両立の難しさ、職歴のブランクなどの構造的差別を原因とする出口の見えない貧困に苦しんでいたのです。そんなある日、彼女は交通事故の被害者になってしまいます。その際に弁護を引き受けたのは弁護士のエドワードでしたが、事故から少し経ったある日、エリンは彼の事務所で半ば強引に働き始めます。
■不可解な事件ファイル
エリンが割り当てられた仕事は、訴訟書類の整理でした。数多くの事件資料の中から、彼女は不可解な書類を見つけます。不動産の売買に関する事件のファイルに、どういうわけか関係書類として診断書等の医療関係書類が入っていたのでした。「住宅の売買」と「診断書」に何の関係があるのか、彼女は直接関係者の元を尋ね、調査を開始しました。調査を進めていくと、PG&E社による用地確保のための地上げ問題の裏に、会社による深刻な水質汚染等の公害の問題が隠れている事が段々とわかってきます。彼女は、直接、退去を迫られている被害者の元や水道局、専門機関等を尋ね、公害と住民への健康被害の因果関係を丹念に調べていきます。
■嘘の説明で住民達を騙すPG&E社
公害の原因となったのは強い毒性と発がん性を持つ「六価クロム」でした。会社は、この六価クロムが工場内で使われているという事実を住民たちにひた隠しにしていました。それどころか、使用しているのは人体に無害の「三価クロム」で、むしろ身体にとてもいいものであると嘘の説明会まで開き住民たちを長年にわたって騙し続けていたのです。当然、被害は数戸だけではなく、町全体に広がり、多くの原因不明の重病人が出ていました。エリンはこれらのことを受けて、公害の証拠を集めるためにも、また多くの人々を救うためにも、巨大な原告団を組織して会社と闘う必要があると考えます。長い時間をかけて直接、住民達を1軒1軒訪ねて、持ち前の人当たりの良さで根気よく仲間を増やしていきます。
■巨大な原告団に
最終的には、被害を受けた住民の多くが訴訟の原告になり、アメリカ史上最大規模の公害訴訟が始まりました。訴額は数億ドルにも上り、決して大きな事務所を運営していたわけではなかったエドワードも、事務所の命運と自身の弁護士人生をかけてこの前代未聞の大規模公害訴訟に取り組みます。結果として、住民側は画期的な大勝利を得ることとなります。賠償額は実に3億3000万ドルにも及び、アメリカ全土に大きな衝撃と影響を与えました。
私たちも「ブラック企業の違法行為をそのまま放置しておくことは社会に公害を垂れ流すことと同じです」とビラや演説などで、日々繰り返し訴えています。公害も労働法無視の違法な働かせ方も、体内にダメージを蓄積させ、確実に身体や生活をむしばんでいくという点では同じであると考えます。そして、その根幹も同じです。経営者がコンプライアンスや従業員他、周囲の暮らしや環境への影響を顧みず、ひたすらに自身の利益の追求に偏重した結果、これらの「人災」が起こっていることがほとんどです。巨悪と闘うために人々が連帯することの大切さと可能性を強く感じました。
稲葉一良(書記長)