プレカリアートユニオンブログ

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長時間労働と睡眠不足が命を奪う。『過労死 その仕事、命より大切ですか』(牧内昇平著/ポプラ社)

長時間労働と睡眠不足が命を奪う。

『過労死 その仕事、命より大切ですか』(牧内昇平著/ポプラ社


 過労死という言葉は、2000年代初頭には、海を越えて「karoshi」という英語まで生み出すに至りました。働き方改革により、残業時間の規制が強化され過労死対策が進められていますが、まだまだ日本の労働者は働き過ぎで、過労死ラインを超える労働が業種を問わず行われています。『過労死 その仕事命より大切ですか』は、朝日新聞記者の牧内昇平氏による過労死遺族への濃密な取材を一冊の本にまとめたものです。労働者本人にとって、遺族にとって過労死とはどんなものなのか、何故命が失われてしまったかを鮮明に描き出しています。
■過労死といっても原因は実に様々
 一口に過労死といっても、実際には様々なケースがあります。例えば、長時間労働、イジメや極度のハラスメント等で精神疾患に罹患してしまい、その結果自ら死を選ばざるを得ない状況に追い詰められてしまうものや、長時間労働により睡眠時間が圧迫され脳血管疾患で死亡するケース、虚血性心疾患で死亡するケース、極度の睡眠不足が続いた末の交通事故など、一概にこうだとひとくくりにはできないところが過労死の特徴です。レビューでは職場の人間関係が悪かったケース、良かったケースをピックアップして比較していきたいと思います。
■飲食店での苛烈なハラスメントの末の「自死
 「ステーキの食いしんぼ」で働く古川和孝さんは、2010年11月8日、屋上に通じる非常階段の踊り場で命を絶ちました。この頃の古川さんは、超長時間労働が常態化していたことに加え、そう大きく年も変わらない「上司」からの熾烈なハラスメントに苦しんでいました。ハラスメントは言葉だけにとどまらず、暴力も日常的に振るわれていたといいます。
 古川さんは父親の勧めで会社に入り、一時期は一緒に働いていましたが、父親は会社のブラックな体質により自ら退社しています。退社後、父親は古川さんの悩みを聞き時に励ましてきました。ある日、古川さんが「辞めようかな」と口にしたところを、考え直すように伝えたことが本当に悔やみ、今なおそのことに苦しんでいます。職場の仲間も、朝礼などで暴力を振るわれ罵倒される古川さんを誰も助けることができませんでした。長時間労働に加え、劣悪な職場環境により命を奪われてしまったのがこの事例です。
■「熱血教師」の過労による死
 一方で次に紹介する事例は、誰からも慕われやりがいを持って仕事に取り組んでいた熱血中学体育教師「義男さん」の過労死です。教師の仕事には、文字通り休みはありません。授業の担当だけに留まらず、部活の顧問に生活指導など義男さんは寝る間を惜しんで全身で生徒と向き合いました。補導される生徒がいれば引き受けに行き、遅くまで相談に付き合い、教師という仕事を、そして何より生徒たちを心から愛していました。365日仕事から完全に解放される時間はなく、睡眠も1日概ね5時間程度しか取れないことが続いたと言います。
 そんな義男さんは「頭が痛い」とクリニックを受診中、くも膜下出血に倒れそのまま帰らぬ人となりました。現状、現在中学教師の6割程度が過労死ラインを超えて働いています。熱心な教員は良い教育のためにいくらでも惜しみなく時間を使います。一生懸命なのが悪いのではなく、働き過ぎを防ぐ仕組みがないのが問題だと著者は主張します。
 その他にも様々な事例が紹介されていますが、仕事のプレッシャーだったり、不規則な勤務体系にとどまらず、裁量や比較的自由な時間が比較的大きい場合であっても、過労死は起こってしまいます。これら全てに共通しているのは、長時間労働とそれに伴う睡眠時間の不足です。「あのときこうしていたら助けられていたかも知れない」、過労死遺族の悲しみは想像を絶するものがあります。どんなに近くにいても、過労死から労働者を守ることは本当に難しいことなのです。長時間労働是正のための闘いは、命のための闘いなのです。
 稲葉一良(書記長)

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