プレカリアートユニオンブログ

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30年変わらない「企業中心」社会への問題提起。『企業中心社会を超えて‐現代日本を〈ジェンダー〉で読む』(大沢真理著/岩波現代文庫)

30年変わらない「企業中心」社会への問題提起
『企業中心社会を超えて‐現代日本を〈ジェンダー〉で読む』(大沢真理著/岩波現代文庫

 私たちの暮らす世の中が、企業を中心に構成されていると聞いても、多くの方は何の疑問も抱かないでしょう。大沢真理著『企業中心社会を超えて』は1993年に時事通信社から刊行された「企業中心」社会の歪みをジェンダーの視点から捉えた1冊です。

■企業中心社会は男性中心社会
 日本社会は、男性が働き女性は家で家事をすることを前提に成り立っていました。この男性の労働が、戦後の復興、オイルショックなどを経て、大企業中心のものになっていきます。この企業中心社会による構造的な差別により、多くの女性が、不当に将来の可能性を狭められ、賃金・キャリアにおける差別を受け続けています。企業中心社会とは男性中心社会のことなのです。当時の統計では、男性と女性の賃金格差は世界でも極めて深刻化しており、女性が就ける職業職種も極めて限定的なものでした。本書では、パートが身分であるということをいち早く主張しています。

社会保障にも生じる格差
 また、年金制度などの社会保障も大企業に勤める人々を特に手厚く優遇したものになっています。福祉政策を見ても、家父長的ジェンダーに依拠したものが多く、家庭の経済基盤を男性が支えることが大前提になっています。そんな社会のなかで、社会保障の網の目からこぼれ落ちてしまう女性たちがいることを本書は指摘します。

■問題は今も変わらず
 およそ30年前に執筆されたこの本が提起した企業中心社会の問題は、はたして過去のものでしょうか。現在でもまったく根本的な問題は解決に至っていないということを、著者は巻末に付記しています。本書を読むことで、非正規差別にシングルマザーの貧困、私たちが今現在解消していかなければならない問題の源流に触れることができます。

※本レビューは、2020年に岩波現代文庫からあらためて出版された同書を読み執筆
稲葉一良(書記長)

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