プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

抵抗としての助けあい。『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた』(雨宮処凛著/かもがわ出版)

抵抗としての助けあい

 2020年4月7日、安倍首相(当時)は7都府県に緊急事態宣言を行い、同月16日に対象を全国に拡大した。「ステイホーム」に慣れてきた4月末、ある夜コンビニへ行こうと外に出ると、一人の男性の姿が目に留まった。雨なのに傘をさしていない。「もしかして、帰る家がない?」。それから、外に出るたび道行く人に注意するようになった。いくつもの大きな荷物を抱えた人、季節外れのコートを着ている人などなど、明らかに路上に放り出されて間もない人たちの姿が飛び込んできた。中高年も若者も女性もいた。

■追い詰められた人たちのSOS
 コロナ禍では非正規労働者がまっさきに首を切られ、解雇・雇止めが相次いだ。それまで貧困とは縁がなかったが、休業を余儀なくされ、収入を断たれた自営業者、フリーランスも及んだ。短期間で一気に追い詰められた人たちのSOSが雨宮処凛さんはじめ支援団体に寄せられた。
 雨宮さんによれば、2008年のリーマンショック時に比べて、今回のコロナ禍のほうがはるかに深刻だという。年越し派遣村との違いの1つは、女性のホームレス化。リーマンショック時派遣切りにあったのは製造業で働く男性で、派遣村にやってきた99%が男性だったという。2つ目は若者が多いこと。派遣村には20代はほとんどおらず、30代もわずかだったが、今回はかなりの割合を若者が占めているという。シングルマザー家庭、貧困家庭で家族に頼れないというのだ。これらから、「家族というセーフティネットが機能していない」とみる。

■コロナ禍のマイノリティ、外国人の貧困
 さて、私は今回、外国人の貧困の一端を垣間見る機会があった。故国で迫害されて日本へ逃げてきたが難民認定されない人たち、バブル期に来日して3K(※)現場でずっと働いてきた非正規滞在者などだ。これらの人たちは就労不可、社会保障制度・公的支援から排除。健康保険がないのでめったに病院へ行けない。コロナ禍の特別定額給付金10万円も支給の対象外であった。
 異国で無権利状態の彼らは、家族で暮らすことが
多く、さらに同胞の支援がなければ生きていけない。例えば、埼玉県川口市蕨市にはトルコから逃げてきたクルド人約2000人が暮らす。コロナ禍前まではお金のある者がない者を食べさせ、居候させるなど、助け合って生活してきた。しかし、コロナによってコミュニティに亀裂が入ると、住む場所を失ったり、満足に食べられない人たちが続出した。コミュニティとは地縁血縁による「絆」社会、菅首相はじめ自民党の人たちが大好きな「共助」の世界だ。それは雨宮さんの言葉によれば「共倒れするまで助け合え」という意味であるが、「絆」もお金がなければ維持できない。

■「助け合い」が最大限のカウンター
 自助も共助も限界に達しているのに、「こうなったのは自分のせい」と自己責任論は社会にしみついている。本書で改めて実感したのは、生活保護に対する強烈なスティグマだ。片山さつき議員(自民党)とメディアによるバッシング。さらに、申請させまいとする役所による数々の水際作戦。生活保護は権利なのに、自ら辞退させてしまう圧力。
 雨宮さんは訴える。「だからこそ、今、私たちは『助け合い』を実践している」。それは「『自助』を強調する政治に対しての最大限のカウンターであり、弱者を見捨てる政治への必死の抵抗でもある」と。
 また、雨宮さんがかかわる市民団体「反貧困ネットワーク」などによる「新型コロナ災害緊急アクション」では寄付を集め、「緊急ささえあい基金」を発足、昨年4月から1年間で5000万円以上を支給してきた。民間が生活困窮者に多額の金銭支援することの異常さを「政府は自覚してほしい。そして、恥じてほしいと思う」とも訴える。

■声を上げれば、政治は動く
 コロナ禍から1年。雨宮さんたちの激務は続いているし、感染も貧困も収まっていない。しかし、助けあいが抵抗であるなら、「このままじゃ嫌だ!」と感じた人たちも加わって一緒に声を上げていけば、本書の続編ができるのではないか。
なぜか自信を持ってしまうのは、5月18日に改悪入管法が廃案になったからだ。緊急事態宣言下であるにもかかわらず議員会館前では市民がシットインを行い、メディアも問題点を大きく取り上げた。声を上げれば、政治は動く。
 いったいどんな助けあいがあるのか、自分に何ができるのか。それを知る意味でも本書を読んでほしい。
※3K・・・労働環境・作業内容が「きつい (Kitsui) 」「汚い (Kitanai) 」「危険 (Kiken) 」であることを意味する

レビューアー:松本浩美(まつもと・ひろみ)
1964年生まれ。フリーランス校正・執筆に従事。近年は外国人労働者の問題について取材を続ける。

www.kamogawa.co.jp

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