イギリスの社会派、巨匠ケン・ローチの作品はこれまでもいくつか紹介してきましたが、今回はリバプールの港湾労働者の闘いを描いたドキュメンタリー『ピケをこえなかった男たち リバプール港湾労働者の闘い』のレビューです。イギリスのリバプールで1995年に起きた500人もの港湾労働者の解雇問題は、当時メディアからほとんど無視され、組合の上部団体からも見捨てられた闘いでしたが、そんななか、ケン・ローチは闘いの様子を記録し、闘う労働者たちを励まし続けました。
■500名の労働者の解雇■
1989年、イギリスでは港湾労働法が廃止されました。これによって何か起こったかというと、雇用の日雇い化です。リバプールを除き、すべての港湾労働者が解雇され、日雇い労働者へと置き換えられてしまいました。
1995年、そのリバプールで、ある労働者が解雇されてしまいます。組合はピケを張り、会社と対峙、そのときピケ破りをせず闘った「ピケをこえなかった男たち」500人が解雇されました。上部団体から支援もなく彼らの闘いは困難を極めますが、懸命に闘い、世論や仲間そして、上部団体にも訴えを続け、ついには大規模ストライキを決行し経営側に大打撃を与えるに至ります。
■労働運動としての映画作品■
実は、この映画、ストライキを決行したところまでで終わっているのです。というのも発表されたのは1997年。おそらく、まだ労使紛争の最中だったのではないかとも考えられる時期です。この作品の真価は多くの関係者による生の証言と、なぜともに闘うのか、なぜこの闘いが必要なのかを語る姿だと思います。監督のケン・ローチは、作品としての映画の終わり方をどうするかという視点よりも、記録をしながら生活と尊厳をかけ、新自由主義政策による階級破壊の攻撃と、それに必死で闘う労働者とその家族をひたすら励まし続けたのです。この作品は、報道からもほとんど意図的に無視され続けたこの闘いを世に知らしめ、労働者たちを勇気づけるためのものだと感じました。
■過当競争に飲み込まれる■
映画で扱っているのは労働組合の根源的なテーマでもある「労働力をいわゆる商品にせず、集団で交渉して条件を決定し、労働者の賃金を過当競争に巻き込まない」ということです。日本でも本作公開の翌年、派遣法の規制緩和が行われ、さらに1999年には労働者派遣がネガティブリスト化により原則解禁となりました。その後、日本の労働環境がどのように破壊されていったかはみなさんもご存じの通りです。多くの正社員は派遣社員に置き換えられ、労働者の生活水準はみるみる低下しました。この時期のイギリスも戦後に勝ち取った労働者の福祉や権利を、政府が巧みに強行に奪い去っていった時代といえますが、これは日本をはじめ世界各地でも起きていたことだったのです。
■サービス主義に基づく商品のたたき売り■
その後、2000年代になると盛んにグローバル化が叫ばれるようになります。グローバル化とは、労働者の権利を制限し格差拡大を容認する新自由主義社会化に他ならず、今や、社会のすべてのものがサービスに置き換わり、過当競争にさらされています。いわゆる買いたたきの原理が労働にあてはめられてしまっているのが、まさに現代の労働者を取り巻く環境です。会社がよく「労働法を守っていたらやっていけない」と主張するのは、正しくは、労働法を守っていたら(過当競争に勝てず)やっていけないということなのです。新自由主義は企業の遵法意識すら揺るがし、ひたすらに格差の拡大を招くものなのです。
労働組合には労働者供給事業を行うことが認められています。職場で多数派を取り、業界を横断的に組織し、業界と集団で労働力のやり取りをし、労働力の供給を担う産別運動は、関西生コン支部の大弾圧でわかるとおり、資本側の大きな脅威です。私たちも、広く業界を組織し、産業そのものに影響力を持つ労働運動をめざし、日々の活動を行っていきたいものです。
稲葉一良(書記長)
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