プレカリアートユニオンブログ

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ノマドたちの厳しい現実描きつつ、 広大な自然を背景に物質主義への疑問も。『ノマドランド』(クロエ・ジャオ監督/2020年/アメリカ)

ノマドランド』(クロエ・ジャオ監督/2020年/アメリカ)

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 物語は2008年のリーマンショックで主人公のファーンが家を失い、家財を売って手に入れた1台のバンに生活に必要なものを詰め込んで生活を始める所から始まります。ノマドの生活は厳しく、冬の凍える寒さを凌ぎ、駐車場の警備員に起こされ車をどけるように注意を受けるなど、自由気ままで気楽な生活といったイメージは序盤から打ち砕かれます。ファーンは街を転々としながら、非正規の仕事に何とかありつくことでその日その日の生活を送っています。アマゾンの倉庫で働いているとき、先輩のノマドであるリンダから有名なノマド・ユーチューバー、ボブのキャンプに誘われます。
■孤独を抱えながら繋がり合うノマドたち
 ボブのキャンプを通じて、ファーンはたくさんのノマドの仲間と交流し繋がりを持ちます。末期癌に冒され余命宣告を受けながらも最後まで自分らしく生きたいと願いノマド生活を続けるスワンキー、父親として巧くやっていく自信が持てず家を飛び出したデヴィット、ノマド生活を送るのは高齢者が多く、皆、居場所のなさや孤独を胸に抱えています。物語はファーンが彼らと交流し、夫の死を乗り越えていく様子を中心に進んでいきます。時折、見られる雄大な自然風景の描写が神秘的でさえあり、豊かさとは何か、生きるとは何かという哲学的なテーマを投げかけるようでもあります。
新自由主義社会の画一的な価値観に疑問を投じた作品
 「ノマドランド」は日本をはじめ、世界中の国々で高く評価されています。この作品では、格差社会により追い詰められ、仕事や住む場所を失ってしまいノマドとならざるを得なかった高齢者達の生活の厳しさが描かれていますが、その中に物質主義への疑問とそれを離れた先にある自由・豊かさについての視点が確かに存在しており、それが見る人の心を動かす力となっているように感じます。本作で描かれているノマドたちは、新自由主義社会においては典型的な負け組と位置づけることができるでしょう。しかし、その虚しいゲームに勝ったから何だというのか、本当にそれだけが人間の幸せなのかという、強烈な問いかけが日々を自分らしく生き抜くノマドたちの姿を通じて見るものに投げかけられます。
 ノマドたちの生活の厳しい現実を描くと共に、物質主義を離れたところに人の幸せがあることを描くことで新自由主義社会への強烈な批判を行う本作、見る人の視点によって様々な意味合いを持つことでしょう。作中、ファーンは、「ホームレスではなくてハウスレス」という言葉を使っています。建物がないだけで、家(拠り所)はあるということです。反対に建物はあるが家はないという状況が新自由主義社会の行き着く先ではないでしょうか。
 稲葉一良(書記長)

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