表現の現場における評価する側・される側の男女比
数字で一目瞭然。ハラスメントへの影響も
表現の現場調査団がジェンダーバランス調査中間報告
12月9日、厚生労働省の会見室で、表現の現場調査団による活動報告と、ジェンダーバランス(男女比率)調査中間報告の記者会見が行われ、プレカリアートユニオン多摩美術大学支部の組合員でもある、彫刻家・評論家・アーティストの小田原のどかさんを含むメンバーが、表現の現場でのハラスメントの実態報告と、それらに影響を与えている、選定や評価をする側の男女数の不均衡などについて報告を行いました。
表現の現場調査団は、2020年11月に表現に関わる有志によって設立され、表現の現場における様々な不平等を解消し、ハラスメントのない自由な表現の場を目指して、5年間継続して調査活動や社会海瀬の取り組みを行うことにしています。表現の現場とは、特定の分野ではなく、アート、デザイン、演劇、映画、映像、建築、写真、イラスト、漫画など幅広く表現に関わる現場を指し、冒頭で、舞台俳優の端田新菜さんは、「表現の現場では今もなおハラスメントやジェンダー不平等、雇用問題が起き続けている。私たちはそうした現状を分野を横断して調査し明らかにし、現状を是正するため」活動していると紹介しました。
これまでに表現に従事するあらゆる人を対象に、ハラスメントの実態調査を実施。スノーボール調査(母集団から無作為に回答者を数人を選び、これらの回答者に次の回答者を指名してもらうことを繰り返す)で、1449人から回答を得たなかで、「何らかのハラスメントを受けた経験がある」と回答した人は1195人に上り、不本意に身体を触られた人が503人、性行為を強要されたことがあると回答した人は129人に上ったとのことです。調査結果は、『表現の現場 ハラスメント白書2021』としてウェブ上で公開されています。https://www.hyogen-genba.com/surveys
■審査員と大賞受賞者には男性が多い美術賞
今回中間報告がされたジェンダーバランス(男女比率)に関する調査は、表現の現場で起こるハラスメントの大きな原因として、各機関やイベント等で行われる選定は評価をする側とそれを受ける側のジェンダーバランス(男女比率)の不均衡に注目。表現を学ぶ学校における教える側と教わる側においても、男女数の不均衡は顕著であるため、2021年4月からの各分野の知名度の高い賞やコンクール、コンテストにおける審査員と受賞者、教育機関における教員と学生のジェンダーバランス調査を行ったものです。2022年3月頃に最終的な調査結果を発表するそうです。
教育機関と美術分野のジェンダーバランス結果については、アーティストの宮川知宙さんが報告しました。主要な芸術系の大学15校の平均をみると、学生では男性28%、女性72%であるのに、教授では男性88%、女性12%と、教える側は男性が多く、教わる側は女性が多い、という不均衡が見られ、「ジェンダーに関わる作品に対する無理解」や深刻なハラスメントに発展するケースもあったと指摘しています。
美術の賞でも、審査員には男性が多く、それを反映するかのように大賞の受賞者に男性が多いという傾向が見られました。一方で、CAF賞、シェル美術賞、VOCA展という若手を対象とした賞となると、副受賞者やノミネート作家は女性の方が多くなる傾向があり、「女性作家のノミネートは多い一方で対象は取りづらい、審査員は常に男性が多数を占めている」と指摘しました。
文芸のジェンダーバランス結果については、小田原のどかさんが報告。五大文芸誌(『群像』、『新潮』、『すばる』、『文學界』、『文芸』)主催の文芸賞・評論賞と文芸賞三冠(芥川賞、野間文芸新人賞、三島由紀夫賞)を分析しました。五大文芸誌の文芸賞のうち、小説などの賞の審査員のジェンダーバランスは、どれもおおむね男性6割、女性4割となっていて受賞者のジェンダーバランスとほぼ一致するか、逆転して女性の受賞者が多くなるものも。一方、評論を対象とした賞は、審査員・受賞者ともに、ほぼ100%男性が占めていると指摘しました。選ぶ側の男女比が、選ばれる側の男女比に影響していることが一目瞭然です。
■結婚・出産で映画業界を去る女性たち
映画のジェンダーバランス結果については、主要な映画賞、コンペティションの6つについて、「審査員については男性80%、女性20%と男性が多勢を占め、男性主幹による評価が積年常態化している状況が明らかになり、受賞者は男性85%、女性15%とさらに差が開いた」と指摘。報告を行った映画監督の深田晃司さんは、映画業界に15年間いて、ジェンダーバランスの悪さとハラスメントの状況の悪さを実感している、実態を可視化したいと述べました。新人や学生にひらかれたコンペティションのなかには一次審査員の男女比を50:50とする取り組みがある一方で、「学生や新人に有望な女性監督が多いにも関わらす年齢やキャリアを重ねるうちに減っていく厳しい状況にも目を向けるべき」「例えば、共に映画業界に関わっている夫婦が出産をした場合、ほとんどの場合、仕事を辞めていくのは妻である女性の方。そこで数年のキャリアの断絶を経たことで映画業界への復帰が困難になる女性もいるはず。そういった状況の改善を個々人の努力のみに委ねるのではなく、多様な働き方を維持するための制度作りが早急に求められる。」と述べました。このあたりは、労働組合の役割だと思います。
■「素直」に選べばジェンダーギャップを持ち込むことに
賞について、男女関係なく素直にいいものを選んでいる、という意見についてどう考えるか問われた評論家の荻上チキさんは、「文学研究においては、かつて評価されなかった作品が現在の社会的達成から評価され、再発見されることが多く、当時はマイノリティである方の作品が再発見されることが多い。一方、当時、女性の妖艶さが生き生きと描かれていると評価された作品の暴力性が後に問題になることもある。当時の評価体系そのものが歪んでいたことを発見していくことを繰り返し明らかにしている。素直に今の価値観で評価すれば、素直に今の社会的価値観をそのまま投影し、ジェンダーギャップや差別や偏見をダイレクトに持ち込む作業になる。だからこそ評論する側は素直に評価するのではなく、そうした価値観はどこからくるかを言語化する。現在の体系で評価する側が気づくことができない価値がある。多くの方が男女を気にせず素直に評価しているとしても、ある作品群を評価し、ある作品群を低劣だと評価する、見えない価値観を内面化している。それは今まで男性優位の作品で育ち、男性優位の評論に触れて、そうしたものを評価すると学習した結果、自分もその価値観を再生産している。今まで何をもって素直と言ってきたのか色々な見方をすることが必要」などと答えました。
清水直子(執行委員長)
※表現の自由調査団は、今後のハラスメント実態調査(量的調査)やリーフレット制作のためにクラウドファウンディングを行っています。
※同日の記者会見を報告したこちらの記事は、表も掲載されており参考になります。