プレカリアートユニオンブログ

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残業代逃れをしようとする使用者を食いものにする煽動的な1冊。『運送業の未払い残業代問題はオール歩合給で解決しなさい』(向井蘭・西川幸孝著/日本法令)

残業代逃れをしようとする使用者を食いものにする煽動的な1冊


運送業の未払い残業代問題はオール歩合給で解決しなさい』は向井蘭弁護士・西川幸孝社労士による共著です。本書は長時間労働や残業代未払いが社会問題になっている運送業労務管理にオール歩合の導入を提案する1冊です。とても刺激的なタイトルですが、案の定、問題だらけの1冊でした。率直にレビューしたいと思います。
■「未払い残業代問題はオール歩合給では解決しません」
 まず、結論から、「未払い残業代問題はオール歩合では解決しません」。これには2つの意味があります。まず1つめは、既に発生している未払い残業問題について、後から制度を変えたところで何の役にも立たないという意味です。当然本書ではそんな乱暴な主張はしていませんが、誤解を生みかねない、未払い残業の請求を受けた事業者が手に取りたそうなタイトルを付けるのはいかがなものでしょうか。もう1つは本書に従って労務管理をしたとしても必ずしもそれが適法とはならないということです。これについては後述します。
■同意が得られない不利益変更に労働契約法10条が適用される?
 本書の最大の問題点の1つは不利益変更に関する記述です。オール歩合制への変更はほとんどの場合、労働者にとって大きな不利益を伴いうるもので不利益変更ならば当然労働者の同意が必要です。本書ではそのことに触れた上でどのように同意を取るかなどのノウハウを記します。心理効果などを用いて少しでも同意を取り付けやすくする解説などがされている点等には疑問を感じますが、ここまではそうおかしい内容ではありません。
 問題は、「同意が得られない場合は労働契約法10条が適用される」というタイトルで労働者から不利益変更への同意が得られないケースについて解説している点です。労働契約法10条の考え方(就業規則変更による不利益変更)は同意が得られないときに適用されるものではありません。そもそもが個別の同意が必要なケースならば同意なしに制度変更が有効と見なされる余地はほとんどありません。
 一定の留保を持たせた書き方で、即ち違法を指示しているとまでは言えませんが、故意を疑うほど誤解を与えかねない表現です。タイトルに始まり、一事が万事この本ではこのような危ない誘導が随所でなされています。
■本書の労務管理は「正しい方法」などではない
 また、オール歩合の理論や数式についても「一応」辻褄が合うように計算はされており、使用者側の常套手段ともいえる否定された「判例がない」ことなどを背景に自信満々に主張していますが、まだ裁判で真っ正面から否定されていない新手のやり方なだけです。
 明らかに労働者保護の労基法の趣旨や歩合給算定の根拠に反するものであり、今後裁判で否定されるリスクの大いにある内容だと感じました。このやり方に従ったところで、払わなければならない残業代の支払いを逃れることはできるとは限らないという点を強調したいと思います。
 トラックドライバーの長時間労働やそれに伴う健康被害、事故の増加は深刻な社会問題になっています。社会的に解決しなければならない課題はそれらであって、長時間労働をさせた上での帳尻あわせが必要なのではありません。このような本を参考に脱法的な労務管理をする経営者に対し、私たちユニオンは徹底的に闘うということを著者や悪質な労務コンサルタント諸氏に改めて伝えたいと思います。
 稲葉一良(書記長)

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