プレカリアートユニオンブログ

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多摩美術大学で非常勤講師と嘱託職員の無期転換逃れの雇止めを撤回させました 小田原のどか(多摩美術大学支部支部長)

多摩美術大学で非常勤講師と嘱託職員の無期転換逃れの雇止めを撤回させました
小田原のどか(多摩美術大学支部支部長)


 2019年に結成され、2021年10月に支部化された多摩美術大学支部(※1)は、さほど活動の蓄積があるわけではありません。しかし、これまですべての事案を団体交渉によって解決しており、2022年は2件の雇止めを撤回させました。
 それらはいずれも、先日東海大学で決行されたストライキの背景にある、無期転換逃れの雇止めです。2013年の改正労働契約法の施行から10年が経ち、大学や研究機関で無期転換逃れの雇止めが横行しています。
■無期転換逃れの雇止めが横行
 多摩美も例外ではなく、芸術学科にて10年以上有期雇用を更新してきた非常勤講師、無期転換請求が可能となる有期雇用の更新5年目を目前にした嘱託職員に対し、それぞれ無期転換逃れの理不尽な雇止めが通達されていました。
 多摩美ユニオンでは、雇止めを通告された組合員の雇用を守るため、団体交渉を続けてきました。当初大学は、非常勤講師の雇止めに関しては、本人に解雇されてしかるべき理由があるのだと主張しました。
 その理由として芸術学科が示したのは、13年間のうち2度ほど、学内成績評価基準の「Sは履修者の5%程度」を超えた2名の学生にS評価をつけ、これを是正する態度が見られないというものでした。
 組合員の非常勤講師は、過去に担当授業で2名の学生に最高評価であるS評価をつけたことへの学科からの問い合わせに関し、「大学がすべきことは、絶対評価といいつつも人数上限が事前に決まっているという矛盾したS評価の規定を教員に厳守させることではなく、矛盾を解消し評価の透明性を学生に示すこと」ではないかと回答し、学生にとってあやふやな成績評価制度の改善を提案しています。
 これは多摩美術大学における成績評価の構造的な問題を指摘するものであって、大学を愚弄する意図や、悪意を持って学生に不当な評価をつけた訳ではなく、また誠実に仕事をしなかったということでもありません。
 また、成績評価に関する2回の問い合わせは学科の助手からのメールで行われたもので、解雇を前提とした厳重注意などではありませんでした。そもそも、それらの問い合わせがあった翌年も、雇用は更新され続けています。
 本来であれば、改善提案として受けとめるべきものを反抗的態度と捉え、排除の正当化として持ち出す芸術学科と多摩美術大学の姿勢は、全体主義的であり危険な傾向だと言わざるを得ません。学科と大学には、そのような態度が果たして芸術を学ぶ場にふさわしいものであるのか、自問していただきたいと思います。
■団交によって雇止め撤回
 団交の結果、雇止めは撤回することができ、正式に学科から本人に対し、雇用継続が確定したという連絡がありました。また、嘱託職員の無期転換逃れの雇止めについては、団交の結果、無期転換をさせないために設定された雇用期間を撤回させ、契約を更新することができました。
 いずれも現時点ではいったんの解決を見ていますが、安心はできません。複数の大学で、無期転換後の非常勤講師のコマ数をゼロすることが起こっています。また、まだ学内には、誰にも相談できず、不本意ながらも雇止めをのんでしまった非常勤講師や嘱託職員の方がいるはずです。
 多摩美支部では、この問題を学内の教職員とともに多くの方と共有するため、2022年10月6日はプレカリアートユニオン顧問弁護士で旬報法律事務所の佐々木亮弁護士、高橋寛弁護士を招き、大学非常勤講師の無期転換逃れについての無料のオンライン学習会を開催し、問題の周知を図りました。
 理不尽な雇止めに対しては、異議を申し立て、これを撤回することができます。遅すぎることはありません。ぜひ多摩美支部に相談してください。
■労働者代表選出について是正勧告も
 また、今回、無期転換逃れの雇止めを解決するなかで、多くの事実が明るみに出ました。まず、多摩美術大学において労働者代表の選出が適正に行われていなかったことです。これについては、八王子労働基準監督署公益通報を行い、労基署による調査の結果、大学に是正勧告が出されました。
 多摩美術大学が法令を遵守した経営を行う上で、労働者の過半数代表を適正に選出することは、言うまでもなく重要です。また、ここでの代表選出とは、働き方の違いにより一度も顔を合わせたことがなくとも、多摩美術大学に勤める全員が対等な労働者であり、仲間なのだと認識すること、また、労働者の権利について改めて考える機会であることに意味があります。
 このたび、労基署から是正勧告が出され、大学が労働者と適正な労使関係を築いてこなかったと明らかになりました。それは、そうした機会が奪われてきたことにほかなりません。また、無期転換の前例がこれまでにないことも明らかになりました。これはつまり、職員に対し、クーリング期間を設けて再度雇用するなどの無期転換逃れを行ってきた証左ではないかと推測しています。
 多摩美術大学で働くすべての労働者の権利を重んじることは、多摩美術大学で学ぶ学生にとって非常に重要です。教職員の権利が毀損されていることが明らかな環境では、安心して学ぶことはできません。そのような環境は、端的にハラスメントの温床であるからです。
 多摩美術大学における、よりいっそう充実した学習環境、労働環境を実現するため、多摩美支部ではこれからも、個別の事案を解決とともに、より広く問題の背景や根幹を周知する活動を継続していきたいと考えています。
 小田原のどか(多摩美術大学支部支部長)
※1 プレカリアートユニオン多摩美術大学支部結成の背景は、2019年に起こった学内の教員間ハラスメントの被害者である女性教員の不当な配置転換(学科からの追い出し)です。ここでの配置転換も団交により防ぎ、当該教員の雇用を守ることができました。詳細は次の記事を参照してください。
[詳細:https://precariatunion.hateblo.jp/entry/2020/01/20/214716]。

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