プレカリアートユニオンブログ

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アートの領域に横たわる伝統的家父長制とそれによる差別・性搾取の構図を暴き出す。『ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害』(猪谷千香著/中央公論新社)

アートの領域に横たわる伝統的家父長制とそれによる差別・性搾取の構図を暴き出す


『ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害』(猪谷千香著/中央公論新社


『ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害』は、美術業界に根深く横たわる女性差別の問題、そして、ギャラリーストーカーの問題に切り込んだ1冊です。著者は、産経新聞文化部記者などを経た後、ドワンゴニコニコ動画のニュースを担当。2013年からハフポスト日本版でレポーターとして、さまざまな社会問題を取材。2017年から弁護士ドットコムニュース編集部で記事を執筆(本書より引用)などの経歴を持つ猪谷千香氏。
 近年特に問題となっている若い女性作家を狙った画廊内外での付きまとい行為「ギャラリーストーカー」の問題とその構造の分析に始まり、美術業界の構造的な性搾取、背景にある著しいジェンダーの不均衡、そのような不均衡が生まれた歴史的背景について解説し、連帯し声を上げる女性作家たちの姿と業界の変革について取り上げた1冊です。
■画廊はまるで無料のキャバクラ!?
 本書の前半部(1、2章)では、若い女性作家のギャラリー展示に付きまとい、作品を買う、個展に通うなど熱心な客として接近し、SNSなどで粘着する、ダイレクトメッセージを執拗に送る、直接接触を試みるなどのストーカー行為を行う「ギャラリーストーカー」の存在と、それらの行為が野放しにされる理由について、具体的なエピソードを交え解説されています。本書の帯には「画廊はまるで無料のキャバクラ!?」の文字。サッと血の気が引いたような感覚を覚えました。
■ギャラリーストーカー=SSWおじさん?
 音楽業界でも、主に小規模なライブハウスなどを中心にチケット、CD、グッズなどを購入し熱心な客として若い女性「シンガーソングライター」に接近し、粘着行為を行う、他の客の迷惑を顧みずひたすら話しかけ続ける、撮影を続けるなどの行為を繰り返し、まるでライブハウスを安いキャバクラのように捉える(ライブハウスは一般的に有償で酒類を提供する)「SSWおじさん」が近年問題になっており、刺殺事件を含む凄惨な事件にまで発展するケースも出てきています。
 彼らの多くに悪意がなく、自分は純粋に音楽を楽しみ応援しているんだと感じていることも含め、その構造がどこまでも酷似しているのです。同じ表現者として強く感じるのは、彼らの「応援」や「粘着」、そして時として行われる「説教・アドバイス」に作家・アーティストやその作品に対する敬意・リスペクトを感じることが全くないということです。どれだけ応援されても、作品の価値を脇に置き若い女性だからでは表現者に対して失礼がすぎます。
 以降紹介されるジェンダー不均衡とその背景、歴史的経緯についても業界ごとに差違はあれ、根底には家父長制に基づく性差別意識が横たわっており、舞台・映画などの性暴力問題などとの近似性も見てとれ、それらが日本のアート全体を覆っているのだと痛感する内容でした。表現と性搾取の問題について、この1冊を読んで皆で考えてみませんか。
 稲葉一良(書記長)

 

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