プレカリアートユニオンブログ

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解説動画公開! 大学非常勤講師の科研費応募をどのように実現したか:多摩美術大学ユニオンの場合

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ある大学では非常勤講師が科研費への応募ができ、ある大学では応募ができない! なぜ?

大学非常勤講師が、文部科学省の外郭団体である独立行政法人日本学術振興会が行う科学研究費助成事業に応募できるかどうかは、大学によって状況が異なります。

ある大学では非常勤講師も科研費への応募ができ、ある大学では応募ができません。多摩美術大学もまた、非常勤講師の科研費応募はできませんでした。

プレカリアートユニオン多摩美術大学支部多摩美術大学ユニオン)では、2021年から本件についての団体交渉を行い、その結果、2023年4月から科研費への応募ができるようになりました。

この動画では、多摩美術大学ユニオン支部長の小田原のどかが、非常勤講師の科研費申請を取り巻く状況を、日本学術振興会の応募条件や大学の職務規程の違いなど、その背景から解説するとともに、制度新設にいたった交渉の経緯と手法をお話しします。

多摩美術大学ユニオンの経験を、科研費に応募したくでもできない非常勤講師の方や、そのような状況を変えたいと考えている専任教員の方が、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

解説:小田原のどか
多摩美術大学支部ウェブサイト http://tau-union.com/

〈動画内で言及されている記事は以下からご覧いただけます〉

■荒木慎也「多摩美術大学彫刻学科のハラスメント問題と笠原恵実子教授の雇用を守る取り組み」プレカリアートユニオンブログ https://precariatunion.hateblo.jp/entry/2020/01/20/214716
■student.choukokuウェブサイト https://sites.google.com/view/student-choukoku/home

 

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【以下、動画内で解説している内容です】

大学非常勤講師の科研費応募をどのように実現したか:多摩美術大学ユニオンの場合
小田原のどか

■非常勤講師が科研費に応募できる大学とできない大学、その違いとは? 

多摩美術大学ユニオン支部長の小田原のどかです。彫刻家、評論家、研究者として活動しつつ、いくつかの大学で非常勤講師として働いています。

プレカリアートユニオンチャンネルに公開した動画では、非常勤講師が科学研究費補助への応募ができなかった多摩美術大学において、労働組合による交渉を経て、応募ができるようになった経緯とともに、どのような交渉を展開したのか、その方法をお話ししました。

現状、非常勤講師が科研費に応募できるかは、大学によって異なります。応募できる大学もあれば、できない大学もあります。なぜ、そのような違いがあるのでしょうか。

動画ではまず、日本学術振興会が定める科研費応募の条件を確認し、次に大学の職務規程を確認しましたが、具体的な交渉の手法を解説の前に、なぜ、非常勤講師の科研費応募を労働組合の団体交渉の議題としたのか、前提を説明したいと思います。

多摩美術大学では開学以来、労働組合がつくられたことがありませんでした。2019年に多摩美での労働組合立ち上げに私が関わったのは、教員間ハラスメントの被害を受けた女性教員の理不尽な配置転換を大学が強行しようとしたためでした。

2018年に彫刻学科の教員間ハラスメントが認定され、2019年に被害を受けた教員の学科からの追い出しを大学が強行しようとしました。この多摩美術大学彫刻科学科は私の出身学科です。ハラスメントに声を挙げたのは、当時の学生たちでした。プレカリアートユニオンを通じて、学生有志とともに大学に交渉し、不当な配置転換は阻止することができました。詳しい経緯は、美術史家でユニオンメンバーの荒木慎也さんの記事をご覧ください(https://precariatunion.hateblo.jp/entry/2020/01/20/214716)。

多摩美ユニオンを立ち上げて、昨年2022年は、2023年問題とも呼ばれる、無期転換逃れの雇止めを団交により撤回させました。また、2021年からは、大学非常勤講師が科研費申請できるようにするための団体交渉を継続しています。

多摩美術大学は「学科の独立性」を重んじる大学です。しかし、彫刻学科のハラスメントは、その独立性が閉鎖性に転じた結果、起こりました。この構造を変えるための手立てとして考えたのが、非常勤講師の科研費申請を通じて、学科を横断した共同研究の輪を広げ、学問・研究の場としての大学の在り方を、大学に関わる教員と職員、全員で再確認することでした。

共同研究を行うためには、相手の仕事に敬意を持ち、認め合うことが必要です。多摩美術大学の教員の半数をしめる非常勤講師の数の力を活用し、学科を超えた共同研究というコミュニケーションのネットワークによって、学科と学科の厚い壁を超えることができるのではないかと考えたのです。

このような背景から、非常勤講師の科研費申請についての団体交渉を続けてきました。そうして、2023年4月から、非常勤講師の科研費新たな制度がつくられることになりました。交渉に応じ、制度を変更した大学の対応には、とても感謝しています。多摩美の事例を参考に交渉を行えば、ほかの大学でも非常勤講師が科研費に応募できるようになるはずですので、ぜひ参考にしてください。

■現状確認から

現状、非常勤講師が科研費に応募できるかは、大学によって異なります。大学によって対応が異なるのはなぜなのか。まずは、独立行政法人日本学術振興会が定める、科研費応募の条件を確認してみましょう。日本学術振興会は、次の3つの要件にすべて当てはまることを科研費応募の条件にしています。

研究機関に当該研究機関の研究活動を行うことを職務に含む者として、所属する者 (有給・無給、常勤・非常勤、フルタイム・パートタイムの別を問わない。また、研究活動そのものを主たる職務とすることを要しない。)であること 

当該研究機関の研究活動に実際に従事していること(研究の補助のみに従事している場合は除く。) 

大学院生などの学生でないこと(ただし、所属する研究機関において研究活動を行うことを本務とする職に就いている者(例:大学教員や企業等の研究者など)で、学生の身分も有する場合を除く。)

注目したいのは、ひとつめの条件です。所属先において、非常勤講師が、「研究活動を行うことを職務に含む者」と定められているか、見なされているかが、非常勤講師が科研費に申請ができるかどうかを分けるポイントになります。では、非常勤講師が、「研究活動を行うことを職務に含む者」と定められているか、見なされているかは、どのように判断できるのでしょうか。

調べていただきたいのは、所属先の大学の職務規程です。職務規程には、非常勤講師の業務内容が明文化され、その存在が規定されています。例えば、多摩美術大学では、非常勤講師の職務規程には「授業およびこれに付随する業務を行う」と書かれています。他方で、関西のとある公立芸術大学では、非常勤講師は「大学における教育又は研究に従事する者」と定められています。また、東京大学の非常勤講師職務規程では、「講義又は実験の指導等に従事する者」とされています。

「大学における教育又は研究に従事する者」というように、職務内容に研究が含まれている場合は、日本学術振興会が定める「研究活動を行うことを職務に含む者」に合致しますので、無理なく科研費の応募できるはずです。もしそのような文言があるにもかかわらず、科研費への応募ができない場合は、職務規程に研究に従事するという記載があることを理由にして、大学に掛け合ってみてください。

問題は、職務内容に研究という文言がない場合、「授業」「講義」「実験」などとしか書かれていない場合です。多摩美術大学では、非常勤講師は「大学における教育又は研究に従事する者」と定められています。当初、組合を通じた団体交渉の場での大学の対応は、この職務規程を根拠に、日本学術振興会が応募条件とする「研究活動を行うことを職務に含む者」と非常勤講師はみなさないので、科研費申請はできないというものでした。

これを受けてユニオンでは、学内の研究紀要に非常勤講師が投稿できることなどの研究実態がすでにあり、紀要への投稿を認めていることからも、大学は非常勤講師の研究活動を認めるという内容で反論をしました。しかし、大学の態度は変わりませんでした。それは、職務規程に記されていない研究の実態を認め、非常勤講師を「研究活動を行うことを職務に含む者」として扱うことで、研究の対価を要求される懸念が、大学にあったからだと思われます。

そうであれば、次なる交渉の選択肢は、非常勤講師の職務規程を変更し、「授業およびこれに付随する業務を行う」を、「授業およびこれに付随する業務、または研究を行う」などの内容に変え、研究という言葉を職務規程に入れるようにするということでした。しかしこのように職務規程を変更することは、大学の懸念をいっそう強めることになります。

そこで注目したのが、日本学術振興会が定める応募要件の、「有給・無給[…]の別を問わない」「また、研究活動そのものを主たる職務とすることを要しない」という箇所です。つまり、職務規程は変更しないまま、無給の研究員制度をつくり、非常勤講師が研究を行えるようにすれば、科研費の応募要件を満たせることになります。

こうして多摩美術大学では、特定研究員制度がつくられ、希望する非常勤講師が申請を行い、大学に承認されることで、給与の発生しない研究員として扱われることにより、職務規程を変更せずに、科研費への応募ができるようになりました。

■まとめ

科研費の応募できない大学非常勤講師の方は、ご自身所属大学の職務規程に研究に「研究に従事する者」など、「研究活動を行うことを職務に含む者」であると示す文言があるかどうかをご確認ください。

「研究活動を行うことを職務に含む者」と規定しうる文言が職務規程にある場合は、その職務規程を根拠に科研費申請の応募条件を満たしていることを大学に掛け合いましょう。職務規程に研究という文言がない場合は、無給の研究員制度の新設を大学に掛け合いましょう。

これは、多摩美だけではなくほかの大学でも使える手法です。科研費に応募できない大学に勤めている非常勤講師の方は、ぜひ多摩美の事例を参考に、大学に掛け合ってみてください。とはいえ、個人としての要望だけでは、制度新設までの大学の対応を引き出すことはできないかもしれません。その場合は、ぜひ労働組合を頼ってください。多摩美術大学ユニオンの母体であるプレカリアートユニオンは、誰でも一人から入れる労働組合です。理不尽な状況は労組で変えることができます。

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