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帝京大学中学校・高等学校非常勤講師雇止め裁判 差別を容認する不当判決 5月31日・東京地裁

帝京大学中学校・高等学校非常勤講師雇止め裁判
差別を容認する不当判決 5月31日・東京地裁


学校法人帝京大学を相手取り、帝京大学中学校・高等学校を雇止めされた非常勤講師が原告となり、雇用契約上の地位確認と、いわゆる「コマ給」による授業以外の付帯業務の未払い賃金などを請求していた訴訟で、東京地方裁判所が、法人の労働条件明示義務違反(労働基準法15条違反)は認定したものの、それ以外の請求を棄却する判決



 帝京大学中学校・高等学校を雇止めされた非常勤教員が原告となり、学校法人帝京大学を相手取って、雇用契約上の地位確認と、いわゆる「コマ給」による授業以外の付帯業務の未払い賃金などを請求していた訴訟で、5月31日、東京地方裁判所が、法人の労働条件明示義務違反(労働基準法15条違反)は認定したものの、それ以外の原告の請求を棄却する判決を出しました。
 教育現場での非常勤講師に対する差別を容認し、雇用を不安定化させる不当な判決です。
 授業以外の付帯業務の未払い賃金請求については、雇止めをされる前に原告の組合員がプレカリアートユニオンに加入し、団体交渉によって労働時間であることの根拠を掘り下げることができていれば、結論が変わった可能性もあります。私立学校教員の「コマ給」問題については、組織化をしながら在職での交渉、請求に取り組んでいきます。
 この裁判で原告代理人としてご尽力いただいたのは、旬報法律事務所の鴨田哲郎弁護士、鈴木創大弁護士です。
 非常勤教員の待遇について問題提起をしたこの裁判の意義と判決で示された課題について、鴨田哲郎弁護士に解説していただきました。

弁護団のコメント】
帝京高校事件判決についてのコメント
弁護士 鴨田哲郎

1.雇止めの当否
 非常勤の教員の雇止めについて、裁判所はかねてより、労働者に厳しい判断をしてきた。
 製造業では、生産にかかる費用(人件費を含む)をできるだけ抑制するための方策として、いわゆる「カンバン方式」(在庫を持たない、一般道を倉庫代わりに使う)が採られてきたが、これを人的に実現しようとするのが、いわゆる非正規の活用である。
 製造業では、臨時工、期間工などの名称によって景気の変動に合わせ、バッファーとして、いつでも切れる労働者を抱えた。これに対して、企業の都合だけで雇用の有無が決められるのはおかしいと立ち上がった労働者の闘いによって、東芝柳町事件判決(最 昭49.7.22)や日立メディア事件判決(最 昭61.12.4)が勝ち取られ、雇止め法理(解雇権濫用法理の類推適用)として、判例となり、労働契約法19条となった。
 しかし、同条には2つのクリアすべき壁がある。
 第1は、19条の適用の有無で、⑴不更新が実質的に正規労働者の解雇と「社会通念上同視できる」か、⑵更新期待に合理的理由があることのいずれかに該当することである。第2は、19条が適用されるとして、不更新(解雇)に合理的理由・社会的相当性がないことである(解雇も合理的理由があれば、有効である。労契法16条)。
 本件の場合、第1の点でハネられた。更新の回数が少ないことや更新期待の事実の立証が十分にできなかったことが理由とされた。更新手続きの不透明さも主張したが、裁判所の受け入れるところとはならなかった。

2.いわゆる「コマ給」問題
 正教員であれ、非常勤の教員であれ、まずは授業をキチンと行うのが本務であり、その本務を全うするためには、準備(各回の授業の準備、テストの作成・採点、成績評価等)(以下、付随的業務という)が必要であり、そのために時間を要することは明らかである。しかし、非常勤の給与は1授業(1コマ)当たりいくらと決められ、準備(付随的業務)のために要する時間に対する給与の定めはない。
 労働契約上、給与を請求するには根拠が必要であり、根拠となりうるのは合意か法令の存在である。
 学校側は付随的業務に対して別途給与を払わない(その点も含めてコマ給を決めている)のは、歴史的慣行といい、払うとの合意が存在しないという。
 しかし、これを歴史的慣行として、認めるのではなく、是正を求める方向での運動が起こっており、合意はないとしても、この不当な扱いを法的に是正できないかが争われている。しかし、現時点でこの点でストレートに使える法令は存在しない。コマ給の対象が1授業に限定されているとの立証が出来ればよいが。
 労働契約上、ある時間に対して賃金を支払うか否か、いくら払うかは合意(通常は給与規定や労働契約書の記載)の問題であって、その当否を裁判所で争うには、法的根拠がいる(例えば、タダ働きの時間が法外残業に該れば、法37条により割増賃金の請求ができるが、法内、所定内であれば、根拠となる法令がない)。現時点では、払うべきとしか主張できず、残念乍ら、これだけでは裁判所は説得できない。

3.非正規の差別
 コロナ対応期間中、正教員は出勤させ、100%の賃金を支払ったのに対し、非常勤は一律に休業させ、60%の賃金しか支払わず、あるいは、非常勤に対しては一律に賞与を支払わないのが、民法536条2項やパート法8条(旧労契法20条)違反と主張した。
 これに対し、学校側は、正教員は授業や付随的業務以外に、学校運営業務(担任、部活、各種委員会の委員や諸会議への参加等)を担っていると主張し、裁判所は、正教員は「幅広い業務」を行っていると認定し、不合理な差別には該たらないとした。
 率直に言って、この点では、事実、データの収集が困難であった。例えば、原告ら非常勤の教員は、職員室も異なり、正教員の日常を見る機会がほとんどなく非常勤間のコミュニケーションも少なかった(自分の担当するコマ以外出勤しない)。専任の教員で担任を持っていない者を特定し、これと対比するなど具体的な違いのなさが主張できないとなかなか難しい。

4.明示義務
 本件で唯一、認められたのが、労働条件明示義務違反である(残念乍ら、損害賠償までは認められなかったが)。
 労基法15条は、労働契約締結に「際し」ての明示義務を定めている。「際し」とは、具体的にいつなのかについて、教科書(菅野、水町、西谷など)では深く検討はされていない。しかし、契約締結「後」(契約書にサインした後、あるいは「ここで働きます」と返答した後)に明示されても、イメージしていた労働条件とは異なるとして、解約する労働者はまず、いないであろう。労働条件の明示とは、労働契約を結ぶか否かの判断に資するために必要なのである。「際し」とはこのように解釈すべきであろう。
 なお、求人の際に給与条件について誤解を与えるような不適切な説明をしていたことは労基法15条1項違反にあたり契約締結過程における信義則に反するとして、これによって労働者が受けた精神的損害について不法行為としての損害賠償を命じた裁判例として、日新火災海上保険事件・東京高判平成12・4・19がある。

 


帝京大中高・裁判闘争判決について

大友美智雄(組合員)


 2019年に定年退職した私は、4月から帝京大中高と言う高校に非常勤講師として勤務することになった。教科は、古典、一週16コマで賞与はなしということであった。
 ところが、勤務を続けてから3年後に教頭から「来年度の授業はない」と言われたのである。理由は言われなかった。直後に国語科の教科責任者から「カリキュラム通りに授業を進めてほしい。試験時にミスがあった。」などと言われた。私はカリキュラムが、教科書にない教材を挙げているからその通りにすることは不可能であること、定期試験時のミスは教師なら、誰でもすることで、そんなことで解雇された教師はいないのではないかと反論し、安易な非常勤講師の更新拒否を批判した。
 帝京では非常勤講師は、外部から採用される講師と内部から定年退職してなるものに分類される。私に対する更新拒否の背後には、よそ者の非常勤に対する差別が潜んでいるように思えた。
 しかし2024年5月31日の判決は、そうした背景まで踏み込まないものであった。私の仕事が主に授業を中心とするものであり、専任のように、クラス担任、校務分掌を担当しないものであり、更新の回数は2回で雇用期間は3年であり、労働契約が今後も更新されると期待させる言動を学校側がしたと認められる証拠はない。人事権の乱用にも当たらない。したがって 労働契約上の権利を有する地位のあることの確認請求と以後の賃金の支払い請求その余の争点について判断するまでもなく理由がないというものであった。この点について今後反論してゆくことは、困難だろう。
 
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 判決は、「原告は、付随業務に対する賃金の支払いを求めたことはない。」とか賃金の「根拠を尋ねたとは認められず、授業単価について被告に異議を述べたとも認められない。」と述べている。これは一年契約の仕事の厳しさを知らない議論である。私が時給の根拠を尋ねたり、付随業務の支払いを要求したりすれば即座に(別の理由によって)更新拒否をされるであろう。だから尋ねられなかったのである。面従腹背、これが悲しい講師の勤務態度なのである。
 また判決は付随業務を実施したことについて賃金支払いを合意していない、付随業務を実施した時間を裏付ける的確な証拠はないと述べる。しかし予習なしで教師は授業ができないという事実は、問題として残る。他の仕事と違って教師は準備なしでは仕事ができない。その点が問題なのである。判決はこの点について、手続き問題にこだわり、素通りしてしまっている。

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 以上述べた事柄によって残念ながら控訴は、しないと考えている。納得はしていない。判決には不満である。しかし今後はこうした判決を踏まえて次の人生に向かってゆきたい。今まで支援してくださった皆様ありがとうございました。組合には恩返しをしてゆきたい。
 

 

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