プレカリアートユニオンブログ

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【外村大氏による特別寄稿】「露呈した都人権部の抱える問題――2024年7月9日の会見報告」(後編)

2022年に起こった東京都人権部による飯山由貴(プレカリアートユニオンアーティスト支部)の映像作品《In-Mates》の上映不許可事件に際して、プレカリアートユニオンでは抗議を継続しています。東京都による歴史否定と差別があらわとなった本件について、《In-Mates》出演者で東京大学教員、歴史学者の外村大氏から特別寄稿をいただきました。関東大震災から101年目を迎えるにあたり、今年も9月1日の日没後に都庁前で抗議行動を行います。ぜひご関心を持っていただき、抗議にご参加ください。


【特別寄稿】
「露呈した都人権部の抱える問題――2024年7月9日の会見報告」(後編)
外村 大

前編はこちら→

precariatunion.hateblo.jp

■4、職務への誇りと誠実さの欠如
 7月9日の会見では、果たして、人権部職員に、真摯に職務に取り組もうという姿勢や、仕事に対する誇りが、そもそもあるのかどうかという疑問も生じた。《In-Mates》上映中止事件はそれなりに報道機関が注目し、記事にしている。当然、5・12メールの内容についても報道されている。ヘイトスピーチ問題、関東大震災時の朝鮮人虐殺の史実継承に関連した書籍等でも、この問題に触れているものもある。そこでは、人権部に対する疑問、批判が語られている。それが、東京都の人権行政、都人権部への信頼が失われる原因となるであろうことは、十分に予想される。
 もし、現在の人権部職員が、自分たちの仕事を大切と考え、誇りを感じているのであれば、なんとか、信頼回復に努めようと考えるであろう。そうであるならば、当事者であり、そうであるがゆえに厳しく人権部を批判して来た飯山に会うことを好機として捉えて、飯山の考えを改めて聞き、もし飯山が誤解しているようなことがあれば誤解を解くための努力をする、釈明すべき点は釈明する、という行動に出るはずである。もちろん組織の様々な事情で、語れないこともあるかもしれない。しかし、それでも最大限、話を聞いて問題解決に動こうとする姿勢、努力が示されてもおかしくはない。
 ところが、7月9日当日、人権部の課長2名は、「話すことはない」という対応を続けた。“ああ、人権部はやはり、歴史否定もするし、朝鮮人差別の認識を持っているのだな”と考える人がいてもおかしくないのだが、それに対して、そうではないことをアピールしようとする姿勢もほとんどなかったのである。これは、自分たちの名誉回復など考えていない、それをやらなくてよい、という判断に基づいているだろう。つまり、人権部の課長たちは、人権部の仕事などどうでもいいと思っている可能性が高い。
 また、会見の最初の要望書についての説明において、飯山はこれまで、人権部が報道機関等に説明している文書には複数の誤りがあることを指摘していた。人権部が自分たちの仕事を大切に考えているのであれば、どこが誤っているのかを聞いたうえで、実際に間違いであれば関係者に訂正を伝えるであろうし、間違っていないという認識であれば、間違いではないと説明するべきであろう。しかし、人権部側は、誤りがあるという飯山の指摘にまったく反応しなかった。これもやはり、人権部の課長たちの仕事に対する態度を示している。間違いがある、いい加減であると言われても、それでよいと考える程度にしか、自分たちの仕事について考えていないのである。
 付言すれば、この日、人権部職員は、十分にこれまでの経緯を把握して、飯山との会見に臨んでいなかった可能性が高い。引き継ぎをしっかりやっているのかどうかを聞いても、帰って来たのは、包括的に引き継いでいるという答えのみであった。自分たちの部署の、いわば組織防衛をしようということを考えていたとしても、相手がどう出るかを予想した理論武装は必要である。そのためには、最低限、関連資料を読みこむ作業が少なくとも必要である。しかしそれをやってきた形跡がまったくうかがわれなかった。手元に関係資料も用意していなかったと記憶する。この点も、課長2名は、人権部の仕事などどうでもよい、真面目にやらなくてもよいと考えていることをうかがわせる。

■5、軽んじられる都民の権利
 ごくごく当たり前のことであるが、東京都民は、まともな行政施策に接する権利を持っている。担当職員が、自分の職務を重要と考えない、適当に仕事をしておけばよい、と考えているとすれば、そうした権利を侵害されていると言ってもいい。もちろん、前項で述べたような人権部職員が職務に誇りも持たず誠実に取り組んでいないという推測が外れている可能性もあるだろう。
 しかし、5・12メールについて、人権部は一度も、「内容に問題がある」とも「このようなメールを送る職員がいたことを遺憾に思う」とも言っていない(小池知事の名前が出ていることは稚拙な表現であった、とは言っているが)。そのレベルの(中学校の教科書に書いている朝鮮人虐殺を事実とするのは問題だというような)、見識、人権感覚の持ち主であっても十分に都庁人権部職員はつとまる、なんら直すところはない、という見解を1ミリも変えていないのである。その程度の職員でよい、という認識の下で、人権施策を続けることは、都民の権利を軽んじていると言えるのではないだろうか。
 また、7月9日の会見で、人権部の課長2名は、吉村幸子人権部長が都議会で何を言ったか述べてくれと求めたのに対して、「一字一句覚えていない」「意図がわからない」として、頑なに述べることを拒んだ。せっかくの? 吉村人権部長の都議会総務委員会での答弁について語らないというのは、個人的に上司のことを嫌っているというような理由ではなく(もちろん、たとえ本当にその上司を嫌っていたとしても、それを述べない理由にはならない)、1923年に無実の朝鮮人が虐殺されたという話を絶対にしたくないためであろう。その史実を認めないためには、たとえ公開されている資料でも―吉村人権部長の答弁自体は現在のところ、インターネット上の都議会のサイトで読むことができる―自分たちに都合が悪いとなれば隠したい、というのが、人権部職員の態度なのである。
 付言すれば、これは人権部職員に限ったことではないようだ。8月5日、外村は、東京大学教職員83名の連名による、東京都知事に史実を認めて被虐殺者への追悼メッセージを出すよう求める要請文を提出した。それを受け取りに来た、東京都庁政策企画局秘書課長に、朝鮮人虐殺に関連して、都議会で人権部長がどのような答弁を行ったかを聞いたが、「答えられない」という言葉が返って来た。下々の者には情報をなるべく伝えない、自分たちが言いたくないことは聞かれても言わない、という態度が、おそらく東京都庁全体に蔓延しているのだろう。こうした姿勢に疑問を持たない職員が幹部を務めているなかでは、都民が情報にアクセスする権利は、今後大幅に制限されていくだろう。


■6、今後の展望と対応方策
 このような東京都の人権行政は改善されるだろうか。《In-Mates》上映中止事件をめぐる、謝罪や説明、上映会の再設定は勝ち取られるであろうか。
 当面、無理であろうという悲観的な見通しを持つも者も多いだろう。なにしろ、朝鮮人虐殺事件について、「様々な説がある」と言い続ける政治家が、東京都の首長である。参考までに述べると、都人権部と飯山らとの会見は7月9日、つまり都知事選投票の2日後に設定された。知事選の結果が違っていれば、人権部の課長たちの言動も異なっていたかもしれないし(そうであること自体がおかしいのだが)、当然、小池都政が続くということを人権部幹部たちも頭に入れて飯山らへの対応を考えているのであろう。
 ただし、人権部としては、これまで述べて来たような批判に何か反論ができるわけではない。5・12メールが、あまりに酷いものであることは明白で、それが東京都の人権行政に対する信頼を損ねているということに対して、“そうではない”とはさすがに言えないであろう。なので、人権部としては、ともかく「終わったこと」と言い続けて、《In-Mates》上映中止事件が風化していくという戦略を取るほかないはずである。
 とすれば、東京都の人権行政をまともなものに戻そうとする人びとの側は、粘り強く、この問題を風化さず、人権部の姿勢がおかしいことを問い続けていくほかない。これはかなり、徒労感を伴う、消耗な作業である。いまのところ、プレカリアートユニオンほかの尽力で、当事者の飯山は、孤立感を感じず、力強く闘っている。そのような飯山を中心に、より多くの人が人権部はおかしいという声を挙げ続けることが何より重要である。
 また、そのことが、心ある職員の認識を少しでも変えていくことにつながるのではないかと信じたい。7月9日は、最初に机を揃えにやってきた、たぶんヒラの職員と思われる、若い人権部職員とも外村は少し会話することができた。この方によると、人権部職員は、人権部についての報道等に目を通しているそうである(そうでないと困る)。なので、個々人が、《In-Mates》上映中止事件についての関心を持続させる、たとえばSNSで粘り強くこのことについて伝える(まだまだ知らない人もいる)、そのことで、マスコミ等が“この問題は終わっていない”ということを何かの機会に伝えるような状況を作り出していくべきである。
 ついでに言えば、都庁のヒラ職員たちは、そうしたSNSの情報等を見て、確かにそうであると感じる部分があれば、出来る範囲で職場の上司に伝えてほしい。“こんな仕事、やってられるか”“中間管理職はもう少し、ヒラのことを考えて、仕事がしやすいように上に伝えろ”というのは、重要かつ当然のヒラ職員の権利であり、任務といってもいいだろう。やりがいのある、人間らしい仕事ができるような都庁の職場であることを、もちろん、市民は望んでいるのである。FUNIが述べた「オレは在日コリアンという立場を選べないで生まれた、お前らは公務員という立場を選んだ、だからお前ら、公務員としての仕事を全うしてくれ」という叫びを、都庁職員ひとり一人が受け止めてほしい。それなくして、(都庁舎を照らすプロジェクションマッピングのようなものはあったとしても都民ひとり一人が安心して暮らせるという意味での)、東京の明るい未来はない。

 

 

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