「被害者中心主義」をどう乗り越えるか 現代韓国フェミニズムの論点
『被害と加害のフェミニズム #MeTOO以降を展望する』(クォン・ヒョンヨン著/解放出版社)
2016年江南駅での女性殺人事件以降、韓国のフェミニズムは急速に盛り上がり、広がりをみせ「かつてないほど大衆化」している。『被害と加害のフェミニズム #MeTOO以降を展望する』は編者でもあるクォンキム・ヒョンヒョンに加え、ハン・チェユン、ルイン、チョン・ヒジンの3名と文壇内の性暴力告発者を支持・連帯する『参考文献なし』準備チームによる著書。著者は皆自身がフェミニストだと考えている。翻訳は影本剛、ハン・ディディ。持続可能な運動のため韓国のフェミニズム運動・研究・議論を振り返り「どんな困難があったのか、何が足りなかったのか、何をもっと志向すべきだったか」にフォーカスして記された1冊である。
■本書の構成と論点について
本書はフェミニズムの全体を1冊で論ずる構成となっているため、まずは本レビューでも各章毎の扱うテーマの大枠を紹介したい。第1章では二次加害と「被害者中心主義」の問題について、第2章では家父長制が強く根付く文壇での性暴力と連帯のあり方について論じている。第3章では「マイノリティは被害者なのか」と題してアウティングやカミングアウトについて歴史から紐解き現在生じている様々な問題に言及する。第4章では、ゲイ/トランスパニック防御について解説されている。
この言葉は、男性アイデンティテイを脅かしたとして殺害行為の抗弁としても使われてきた。異性愛者の男性が「女性」だと思って付き合っていた相手が、生まれたときには男性の性別を宛がわれていたことを後で知りパニックで殺害にいたるケースなどがこの飯能の典型例である。第5章ではフェミニズムにわつわる政治的論点を論じ、2名の訳者による解題へと続く。
■「本人が嫌だと言ったらセクハラ」問題についても言及した解題
字数も限られるのでレビューではハン・ディディによる解題から取り上げたい。「本人がいやだと言ったらセクハラ」の問題である。これの誤りやその弊害については、今日様々に議論され、また、日々労働相談の現場でも感じるところだ。まさに被害者中心主義の負の面をもっとも端的に表した例示だとすら感じていたが、解説を読みハッとさせられた。
当時の背景を考えれば、「コミュニケーションとして」、「親しみをこめて」などの言い訳が正当化されがちで、周りからもそんな言い訳は通用しないと指摘することが困難だったであり加害者側の言い訳を封じるためにこのような例示がなされることは非常に効果的だったということだ。背景の権力構造や社会情勢からするとここがスタートラインであったことは当然なのである。日本のセクハラとの闘いも「当事者中心主義」から始まっているのだと気づかされた。
第1章では、被害者が権力化され新たな権威となってしまったことが批判的に書かれている。これを解題においてハン氏は「新しい道徳主義」になってしまったことへの批判とし、この弊害としてのTERFのトランスバッシングや第5章で語られる政治化への流れに言及し、SNSでの被害性を訴え大衆に承認されることによる自己実現といういびつな傾向により、事実よりも歪められた真実が力を持つ状況を危惧する。
トランプキャンペーンの「我々(白人男性)は被害者だ!」というプロパガンダがまさにこれである。フェミニズムという視点で読んでいたのだが、読み終わることにはそれだけでなくSNS社会のリスクや怖さ、様々な社会構造についても考えを巡らせた1冊であった。
稲葉一良(書記長)
【労働相談は】
誰でも1人から加入できる労働組合
プレカリアートユニオン
〒160-0004東京都新宿区四谷4-28-14パレ・ウルー5F
ユニオン運動センター内
TEL03-6273-0699 FAX03-4335-0971
メール info@precariat-union.or.jp
ウェブサイト https://www.precariat-union.or.jp/
ブログ https://precariatunion.hateblo.jp/
Facebook https://www.facebook.com/precariat.union
twitter https://twitter.com/precariatunion
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCAwL8-THt4i8NI5u0y-0FuA/videos
LINE労働相談 https://page.line.me/340sctrx?openQrModal=true
