労働組合は差別・排外主義にどう立ち向かうべきか――全国ユニオン春闘セミナー(安田浩一さん講演)報告
2025年12月6日、新宿で開催された全国ユニオン「2026年春闘セミナー&討論集会」の第1部として、ノンフィクションライター/ジャーナリストの安田浩一さんが「労働組合は差別・排外主義にどう立ち向かうべきか」をテーマに講演しました。安田さんは冒頭、自身は「実務者」ではないと断りつつ、長年の取材で見てきた風景を共有することで、差別と排外主義をなくすために「私たちができること」を一緒に考えたい、と語りました。
1 「外人だから」で人権が削られる――技能実習の現場が映すもの
安田さんの話は、2005年12月、岐阜県の縫製工場の技能実習生(当時は「研修生」)取材から始まります。中国から来た女性たちは、崩れそうな平屋の寮で、深夜まで働き、夜12時を過ぎてようやく食事をとる生活でした。取材は「社長が寝た後の時間に来てほしい」という彼女たちの希望で、深夜に行われています。
象徴的なのは、食卓の写真に全員がダウンジャケット姿で写っていることです。隙間風が入り、暖房設備もない。人が暮らす最低限の配慮がない環境が、当たり前のように放置されていました。さらに、雇用契約書に記載された時給は「1時間200円」、残業が「300円」など、当時の最低賃金から見ても異常な水準でした。加えて「訴えたりストライキをしてはいけない」「携帯電話を購入してはならない」といった条項まであり、権利の否定が契約として書き込まれていた、といいます。
極めつけは、同居・結婚・妊娠につながる行為まで禁止する条項です。働くのは「中学生ではない」大人の女性なのに、人格そのものを管理対象にする――この非人間性を安田さんは強く批判しました。では、なぜこうしたことが「まかり通った」のか。安田さんは、経営者の側にも「追い詰められた構造」があることを示します。7500円で売られるブラウスを1時間かけて作っても、工場に入る手数料は「700円」。単価を上げてほしいと直訴しても、大手から返ってきたのは「海外移転」か「廃業」という冷酷な選択肢でした。
その結果、「1時間200円で働ける労働者がいる」と持ちかけられ、技能実習生に依存して操業を維持する――搾取のバトンが、弱い立場へと渡されていく構図です。安田さんは、経営者に同情はしないとした上で、制度と産業構造が「差別する側」を作ってしまうことの危険を指摘します。労働者を安価な労働力としてしか見ない雇用が、偏見と差別を増幅し、人格を守らない状態を常態化させる――ここに、労働運動が向き合うべき根があります。
2 露骨なヘイトから「日常の空気」へ――社会の深部に浸透する排外主義
安田さんは、2013年前後に各地で行われた排外デモにも触れます。千葉・船橋、新大久保などで、差別を扇動するプラカードを掲げて練り歩く集団が現れ、ネット上の言説が街頭に持ち出されていった時期です。
しかし安田さんが「いま本当に怖い」と語るのは、むしろデモが減ってからの社会です。分かりやすい“ワッペン”を付けた集団ではなく、喫茶店や飲食店、日帰り入浴施設などで、いかにも普通の人が排外的な言葉を口にする瞬間こそが、暴力として迫ってくる――。差別が「特定の人たちのもの」ではなく、社会の中に広く浸透してしまうことの恐ろしさが語られました。
3 デマが差別を“正当化”する――「在日特権」言説の仕組み
排外主義の燃料として使われるのが、統計や制度をねじ曲げたデマです。安田さんは、街頭で配布されたビラの例を示し、「差別されているのは日本人だ」と装いながら、実際には外国人差別を煽る言説が拡散していく過程を説明しました。
生活保護をめぐる虚偽(受給者の大半が外国人であるかのような主張)に対して、世帯主ベースでは大半が日本国籍の日本人であることを挙げ、いかに“もっともらしい嘘”が社会の認識を汚していくかを指摘しています。
ここで重要なのは、デマが単なる誤情報にとどまらず、差別や排除を「正義」「被害回復」の形に見せかける点です。労働現場でも、地域でも、同じ構図が起きます。攻撃される側を“特権者”に仕立てることで、加害が免罪され、連帯が切り崩されるのです。
4 ヘイトクライムは「誰かの話」ではない
安田さんは、差別が現実の暴力へ転化する事例も紹介しました。川崎で多文化共生施設を運営する女性のもとに繰り返し脅迫状が届き、差別的な嫌がらせが現実に起きていること。さらに、京都・宇治のウトロ地区で起きた放火事件(2021年)が、ネット情報を信じ込んだ若者による“ヘイトクライム”であったことを、裁判の場面も含めて語っています。
そして「今年の風景」として、埼玉・八潮のパキスタン料理店で、店や店主がネット上の中傷や嫌がらせにさらされ、不安と怒りを抱えている現実が語られました。マイノリティ当事者は、社会の空気の変化を誰より早く感じ取る――この言葉は、私たちの足元で何が進んでいるのかを突きつけます。
さらに、パキスタン人経営の中古車販売店への攻撃や、外国人をわざと怒らせて切り取った映像を拡散する手口など、差別が娯楽化・商売化していく危険も指摘されました。また、神奈川・藤沢で行われた「モスク建設反対」の住民説明会の取材にも触れ、施設建設そのものを口実にして「外国人に土地が奪われる」「子どもの学力が下がる」といった偏見が“地域の不安”として語られてしまう場面が描かれました。
5 労働組合が担うべきこと――職場から、地域から、分断に抗う
安田さんの講演は、特定の「処方箋」を示すものではありませんでした。けれど、取材の積み重ねが示した結論は明快です。搾取と差別は、別々に存在しているのではなく、絡み合いながら強まります。低賃金と権利剥奪を“当たり前”にする制度が、差別を温存し、差別がまた搾取を正当化する。だからこそ、労働組合が担うべきは、賃金や労働条件の改善だけではなく、「誰かを排除して成り立つ改善」を許さない運動の組み立てです。
職場では、外国籍労働者・移民ルーツの仲間が置かれがちな孤立をほどき、相談にアクセスできる導線をつくること。交渉の現場では、「国籍」や「属性」で権利に差をつける会社の論理を許さず、同じ労働者としての権利を前提に据えること。そして地域では、デマや恐怖の言説に抗し、事実に基づく対話を積み重ねること。差別と排外主義が「日常の空気」へと溶け込むいま、労働組合には、沈黙しないための言葉と実践が求められています。
講演後の討論では、各ユニオンが春闘総括と次年度方針を持ち寄り、現場の経験を交差させました。春闘は賃上げだけの季節ではなく、分断に抗い、連帯を広げ直す季節でもあります。私たちプレカリアートユニオンも、職場と地域を往復しながら、差別と排外主義に対して「労働運動として」立ち向かう実践を、いっそう強めていきます。
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