「絹と明察」と「絹とクミアイ」と石破茂
『写真記録・三島由紀夫が書かなかった 近江絹糸人権争議 絹とクミアイ』(本田一成著/新評論)
前首相である石破茂氏がその退任の直前の10月7日、連合大会に出席しストライキについて触れたことは記憶に新しい。石破氏は三島由紀夫を愛読していることで知られるが、近江絹糸争議を題材にした晩年の著書『絹と明察』に触れ「この争議において、女子従業員の方々が外出、結婚、教育の自由がないというような労務管理が行われとったわけでありますが、この是正、そういう方々の待遇改善、そういうものを組合が求めて全面的に勝利したというのを描いておるのが、三島の『絹と明察』という小説でございます。」などと紹介した。
今回は三島由紀夫の「絹と明察」について、近江人権争議とも呼ばれる大争議を闘ったゼンセン同盟(現:UAゼンセン)の貴重な写真資料を中心に争議の生々しい現場を伝えた本田一成氏による一冊『写真記録・三島由紀夫が書かなかった近江絹糸人権争議: 絹とクミアイ』を読んだうえの所感を伝えたいと思う。
■争議の様子をほとんど描かなかった三島
絹と明察は近江絹糸紡績(現:オーミケンシ)で起こった大規模な人権争議をモチーフにしている。労働者の人権を無視し様々な手法で労基法の目をかいくぐろうとする悪質な労務管理政策に全繊同盟の指導の下、多くの労働者が立ち上がりストを構えた闘いで、世論も味方をし組合は大勝利を収めている。
三島はこの争議を経営者である夏川嘉久次をモデルとした駒沢善次郎を中心にその心中描写に重きを置いた物語へと再構成した。時に肝心の争議があまり書かれていないという批判を受けることもある作品だ。本田氏による『絹とクミアイ』を見ると小説では知ることのできなかった当時の争議現場の活気や痛ましい会社側の暴力と兵糧攻め、そして、苦しい中でも明るく楽しく闘った先輩たちの軌跡が浮かび上がってくる。
■本質や中心は変わらず、問題は争議をするかしないかだ
三島が人権争議を題材としながら肝心の争議にさほど紙幅を割かなかった狙いは何か。現実の描写を減らし心情描写や価値観の描写に重きを置くことで抽象的でありながらも普遍的なエッセンスのみを残したのではないか。恐ろしいほど酷似しているのである、戦後の空気のまだ残る時代の「人権争議」と現代の労働者を取り巻く労働環境が。
この小説は父権主義的家族主義的経営思想の妥当を描いているが、駒沢の思想や内心は日々団交や争議で対峙する現代の悪徳経営者のそれと驚くほど一致している。彼らは口を揃えて「家族のように」、「労働者のためを想って」と自らの欲望を客観視できず主観的には本心から言う。私たちを取り巻く労働環境が再び「人権争議」が闘われた時代に引き戻されてしまっているのだということに驚愕する。ただし、決定的な違いがある。それはストをするかしないかだ。
石破氏の発言の真意はわからない。しかしながら、現代の労働現場での著しい人権後退をこの争議が闘われた時代と重ね、闘わない組合がその中心を占める連合の大会においてストライキの必要性を説いたのだとするならば、あらためてその退陣が惜しまれる。
一方、この小説で労働者たちが何の抵抗をしなければどのような結末が待ち受けているのかを考えると暗澹たる気持ちになる。労働者が闘わない未来は悲劇である。今の時代にこそ、人がリソースとしてではなく個人として尊重される職場を実現するための「人権争議」を全国で闘われなければならないと強く感じる。
稲葉一良(書記長)
労働相談は、いつでも、どこでも、プレカリアートユニオンLINE労働相談へ。
【労働相談は】
誰でも1人から加入できる労働組合
プレカリアートユニオン
〒160-0004東京都新宿区四谷4-28-14パレ・ウルー5F
ユニオン運動センター内
TEL03-6273-0699 FAX03-4335-0971
メール info@precariat-union.or.jp
ウェブサイト https://www.precariat-union.or.jp/
ブログ https://precariatunion.hateblo.jp/
Facebook https://www.facebook.com/precariat.union
twitter https://twitter.com/precariatunion
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCAwL8-THt4i8NI5u0y-0FuA/videos
LINE労働相談 https://page.line.me/340sctrx?openQrModal=true
