「殺されかけて」プレカリアートユニオンにたどり着いた仲間の抵抗と再生の物語も多数紹介。『縁辺労働に分け入る　フランシスコ教皇の警告』（浜矩子・雨宮処凛・清水直子著／かもがわ出版）

「殺されかけて」プレカリアートユニオンにたどり着いた
仲間の抵抗と再生の物語も多数紹介

『縁辺労働に分け入る　フランシスコ教皇の警告』（浜矩子・雨宮処凛・清水直子著／かもがわ出版）

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　労働の現場から人間性が奪い去られて久しい。女性・非正規労働者を中心に多くの労働者が縁辺化している。『縁辺労働に分け入る　フランシスコ教皇の警告』は浜矩子、雨宮処凛、清水直子による共著。当然に守られるべき基本的人権すら奪い去られ、孤立させられ、分断を余儀なくされる「ペリフ化」（縁辺化のこと。英語で縁辺労働をペリフェリー・レイバーと言うことから）された労働者の現状、背景を記し、どのようにペリフ化に立ち向かっていくかを記した１冊である。著者の１人でもある清水氏は言わずと知れた私たちプレカリアートユニオンの執行委員長。本書の第２章では組合の仲間のエピソードも多く紹介されている。
■縁辺化された女性の貧困、そして競争から「降りる」ことで分断と闘う人々
　第１章は、「『失われた３０年』の女性たち」と題して、非正規化が進む中、コロナ渦で更に深刻な貧困が浮き彫りになった女性の困窮に焦点を当てる。著者の雨宮氏は長く反貧困の現場で闘い、支援を行ってきた。コロナ渦で始まった「女性による女性のための相談会」に寄せられた相談や相談者が置かれた状況は本当に崖っぷちそのものであり読んでいて心を締め付けられる。本章は「寝そべり族」、「だめ連」、「ＮＯＬＩＭＩＴ」など、新自由主義社会によって強いられた競争から降りることで分断と闘う人々の様子で締めくくられている。
■労働組合として縁辺化と闘う
　第２章のタイトルは「プレカリアートユニオンに見る希望」。前述の通り、著者はプレカリアートユニオン清水委員長だ。プレカリアートとは不安定な労働者を意味する造語だ。これは現代社会ではそのまま縁辺化された労働者を指す言葉もいえるだろう。本章では、縁辺化され文字通り仕事や職場で「殺されかけて」組合にたどり着いた仲間の抵抗と再生の物語がいくつも語られる。
　労働組合が既得権者の既得権を守るためのものでなく労働者のセーフティネットとして機能し、ペリフ化にしっかりと抵抗していくことでしかこの国の労働者の安定は実現し得ないということが分かると思う。あらためてコロナ渦での非正規差別が労働者の命を全く顧みず危険に晒すものであったかも怒りと共に思い起こされる。
■反ペリフ化の旗手フランシスコ教皇の教えに見る人間らしい労働の条件
　第３章では浜氏がフランシスコ教皇の警告を読者に伝える。「人間労働の本質と今日的労働の人間性チェック」と題し縁辺化されない人間らしい働き方とはどのようなものかを伝える。フランシスコ教皇は人間の尊厳を損なう縁辺労働に強い関心を寄せ続け人間らしい働き方を実現するための労働のあり方を長く発信している。労働は神への賛歌であり、人間の喜びであるとする宗教観からも、人を人として扱わない縁辺化は大きな問題の１つなのである。
　反ペリフ化の旗手ともいえる、現ローマ教皇フランシスコの教えの中から、人間的労働の基準を策定することに決定的に関わると考えられる１７のフレーズを見いだし、それをモーゼの十戒になぞらえ「人間的労働の十戒」として人が人として扱われるための１０の基準を打ち立てる。本書の最後には、各章の著者３人が互いに問題意識を交流させ縁辺労働者が切り捨てられない社会への模索が行われる。
　今の世の中では、ちょっとしたことで仕事を失う。そして、そのことは場合により死に直結する。労働の現場に人間性を取り戻す取り組みが全国的に活発に行われ、多くの仲間がこれに集うことが重要だ。ペリフ化に徹底的に抵抗・対抗していくためにも私たち労働運動の果たす役割の大きさを再認識することができた１冊だ。
　また、縁辺化された労働者は人手不足と分断の罠により引き起こされる構造的なハラスメントに心を痛め自ら退職を選ばざるを得ない状況に追い込まれがちだ。ハラスメントのない人権が尊重される職場の実現にむけ特に力を注いでいきたいと感じた。