タイトルからお分かりのように、経営者に向けた合同労組対策の本です。著者は、ハラスメント対策の本同様、特に使用者側の労働事件を数多く取り扱う向井蘭弁護士です。なぜ労働組合がこの本のレビューをとも思えますが、経営側の弁護士が私たち労働組合をどう認識しているのかを知ることはとても有意義なことだと思います。
労組対策を網羅的に
本書は、著者の分析する合同労組の特徴や不当労働行為の説明に始まります。交渉中すべきこと、してはいけないこと等を解説した後、雇い止めなどの問題をケース別に分けて対策法を記します。最後に、労働組合との上手な付き合い方と称して、便宜供与の範囲やユニオンショップ協定についてを解説しています。経営者が私たちユニオンと向き合う際に考えるべきトピックはほぼ網羅しているといえる内容です。
概ね見方は正しい
「意外にも」というと角が立ちますが、書かれている内容の多くは正論です。なかでも、団体交渉の初期対応において絶対にしてはならないことを記した「初期対応で泥沼に陥る6つのパターン」は、多くの経営者がしてしまいがちな不当労働行為や誤った労組対策について、そのリスクを説明しながら丁寧に解説していて好感が持てます。
おや、と思う点も多々
例えば第3章の「団体交渉に勝つための交渉術」 というタイトル、これはいかがなものでしょうか。そもそも団体交渉の目的は健全な労使関係の構築であり、勝ち負けではありません。もし使用者が交渉術によって交渉に「勝とう」という考えで団体交渉に臨めば、問題が拗れてしまわないでしょうか。また、「勤務態度の悪い労働組合員への対処法」の内容ですが、労使紛争はいわば緊張状態です。その最中、使用者と意見を異にする労働者は往々にして「態度が悪い」と評価されがちです。使用者目線の一方的な排除は、返って問題を深刻化する行為です。どちらに問題があるのか、しっかりと見極めることが大切なのではないでしょうか。
労使の立場の違いから、問題の見え方は大きく異なります。一方的な「対策」だけではなく、労使の本来あるべき姿について踏み込んで論じると、より有意義な本になったと感じました。
稲葉一良(書記次長)
『会社は合同労組・ユニオンとこう闘え!』(向井蘭著/日本法令)