プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

労働組合で尊厳を取り戻し「ネトウヨ」化回避を。『プレカリアート 不平等社会が生み出す危険な階級』(ガイ・スタンディング著/法律文化社)レビュー

 プレカリアートという言葉は、1980年代フランスの社会学者たちによって一時雇用の労働者を指して用いられた言葉ですが、現代ではその中に様々な意味を含むものとして用いられています。『プレカリアート 不平等社会が生み出す危険な階級』の著者ガイ・スタンディングは、ロンドン大学教授を務める経済学者です。ベーシックインカム推進派としても知られる著者が、プレカリアートを取り巻く社会情勢や今後の展望について、幅広く分析し見解を記しています。

形成「されつつ」あるプレカリアートという階級
 本書では、プレカリアートとは形成「されつつ」ある階級であるとされています。雇用や生活は極めて不安定で、特定の職業的アイデンティティに帰属する事が出来ない状況に置かれており、特に日本では、高い教育を受けたにも関わらずその能力に見合わない仕事や低い地位を強いられる若者が急増し、大きな不満を抱いていると分析しています。労働者の共同体の一員であるという連帯感を持たず、疎外感や自分が道具になっているという感覚を強く持っていることも特徴です。不平等・不安定から抜け出す手がかりを得られず、多くの国々で少なくとも労働人口の4分の1程度がこのようなプレカリアートになっているといいます。

プレカリアートユニオンという労働組合が現れたのは喜ぶべきこと」
 プレカリアートが出現した理由の1つには、グローバリズムの名の下にあらゆる者を商品化してきた新自由主義が挙げられます。労働は完全に商品化され、その価格競争の中で労働力は単なる数字として、その人間性を奪われ続けています。また、教育の商品化も同様に深刻です。教育の格差や教員の地位の著しい低下、効率性を重視するために教員のいない学校化を推し進めようという考えもあるということを本書は紹介しています。著者は、そんな格差が拡大し続ける国際情勢の中、「プレカリアートが独立して声を上げようという最初の試みの中から日本でプレカリアートユニオンという労働組合が現れたことは喜ぶべきことだ」とし、労働運動自体も旧来型の労働運動から変革していくことの重要性を説いています。

ネトウヨプレカリアート
 日本でも問題になっている「ネトウヨ」等とも呼ばれる排外的差別主義者は世界中に広がっており、彼らもまたプレカリアートであると著者は分析しています。仮に相当な教育を受けていたとしてもプレカリアートに陥ってしまえば、出口の見えない貧困、不安定な労働等を強いられます。プレカリアートは強い不満と怒りを感じていながらそれらを解消する具体的な術を持ちません。世界中でプレカリアートの怒りが排外主義と結びつき、かつてのナチスドイツのようなファシズムポピュリズムを掲げる政党への支持が急増しています。民主主義が薄まり、若者の投票率が少なくなり、そして右傾化が進んでいく。今の日本を見ても全く同じ兆候が見られることに戦慄を覚えました。

ベーシックインカムにより生存権保障を提唱
 著者は、プレカリアートの抱える問題を解決するための解決策の1つとして、ベーシックインカムの導入を提唱しています。生存のための労働から解放され、労働をよりよい生活のためのものと位置づけることで、プレカリアートをはじめとする労働者は、資本に対し対等に交渉をする力を得るのだといいます。

 極めて多角的・網羅的にプレカリアートを取り巻く様々な環境への分析、提言を行っています。本書には日本でのプレカリアートという言葉の使われ方は少し異なっていると記されていますが、不安定であり出口が見えないという点では変わりありません。私たちプレカリアートユニオンの目指す社会は、「ネトウヨ」等に陥ることなくプレカリアートが団結してその権利を勝ち取り、最後にはプレカリアートという身分そのものをなくしていくことだと信じています。

稲葉一良(書記次長)

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