プレカリアートユニオンブログ

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職場を作り出す取り組みも提言。『棄民世代 政府に見捨てられた氷河期世代が日本を滅ぼす』(藤田孝典著/SBクリエイティブ)レビュー

 「就職氷河期世代」には、およそ1971年~84年生まれで、団塊ジュニア世代、ポスト団塊ジュニア世代が該当するといわれています。バブル崩壊後の社会情勢の影響により、就職において極めて困難な状況であった世代を指します。氷河期世代は、その後も雇用政策に翻弄され、自己責任であると再チャレンジへの道を閉ざされ続けてきました。著者の藤田孝典氏は、「棄民世代~政府に見捨てられた氷河期世代が日本を滅ぼす~」において、これらの氷河期世代は現代の「棄民」であると論じています。

「正社員」になっても埋まらない溝
 就職氷河期世代が大学や高校を卒業し、社会に出ようとしていた時期は、企業が極端に求人を絞ったタイミングでした。有効求人倍率は1を割り込み、1993年から2004年まで毎年8~12万人が就職できない状況が続きました。新卒で正社員として就職できなかった氷河期世代は、派遣や非正規など、いわゆるフリーターとして働き始めます。著者は「秋葉原通り魔事件」や「年越し派遣村」の影響で氷河期=非正規というイメージが出来上がってしまっているが、実際には、例えば大卒ならば35歳以上で正社員になるなど「後から正社員」になる者が多いと指摘しています。ただし、これらの「後から正社員」は新卒採用の正社員との待遇格差が大きく、経済的事情から世帯形成が困難な状況に置かれています。

長生き「してしまう」リスク
 また、氷河期世代は年金による老後の収入も期待ができません。極度の少子高齢化等による深刻な財源不足により年金制度そのものに大きな問題があることに加え、非正規で働き続けた期間などから無年金・低年金である者が少なくないのです。加えて、介護保険料は右肩上がりで上がり続けます。貯金が全くできていない世帯が全体の4分の1にもなる氷河期世代ですが、更に平均寿命が延びることにより長生き「してしまう」ということが大きなリスクになってしまうのです。更に、近年ギグエコノミーの急速な拡大により雇用はますます不安定化しています。

凄惨な犯罪と「無敵の人」
 「無敵の人」というネットスラングがあります。守るべきものを何一つを持たず、自分の命にさえ大した価値を感じられない人はある意味では「無敵」であり、そのような人に犯罪を思いとどまらせることは難しいということを表しています。ここ最近日本で起きた凄惨な事件で、40~50代の棄民世代が加害者・被害者として関わっているケースが多いといいます。練馬区で、引きこもり状態の当時44歳の我が子を殺した元事務次官(当時76歳)は、必ず殺害するという強い意志を持って犯行に及びました。背景には、就職に失敗し引きこもってしまった息子からの深刻な暴力行為などがあったといいます。多くの犠牲者を出した京都アニメーション放火事件を起こしたのもまた、当時41歳の男性でした。

労働組合・協同組合が希望
 著者は、これらの世代に対して政府が行っている支援プログラムは「やっている」感を演出するだけのもので、実際に十分に機能しているとは言い難いと指摘しています。給与所得を上げることが難しいならば、問題解決のために支出を減らす扶助を行い可処分所得割合を高めることが大切であると主張します。更にシェアリングエコノミーによって家賃負担を下げ、社会の共有財産を増やしていくことで、一人ひとりが最低限の生活に必要とされるコストを減じることができ、生活の安定につなげることができます。そして、互助共助の精神による協同組合、労働組合の実践により地域社会を支えていくことが大切だといいます。

 本書では、このほかにも様々な視点から「棄民世代」を救う為の考察がされています。棄民世代の問題を放置すれば、日本社会は破滅を免れません。「人が人らしく働いて生活できる社会」を求め、私たちが日々活動をしていくことの大切さを、改めて強く感じました。

稲葉一良(書記次長)

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