プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

放置されたアカデミックハラスメントと 教育システムの改善を求めて(多摩美術大学元学生/組合員による報告)

放置されたアカデミックハラスメントと 教育システムの改善を求めて

多摩美術大学の笠原恵実子教授の処遇については、団体交渉によって一応の勝利を得ることができました。プレカリアートユニオン機関誌の2019年8月号に掲載した多摩美術大学の元学生で組合員の報告をブログにも掲載します。

precariatunion.hateblo.jp

有志とともに要望書を学校に提出
 2018年2月、多摩美術大学彫刻学科学生有志による、大学と学科へ向けた要望書がホームページで公開されました。内容は、学生に対する教員の指導と学科のシステムの改善、学内で起きているハラスメント問題の対策についてでした。私はこの要望書に同意したうちのひとりで、有志の活動に深く関わっていました。
 この要望書の公開前も約一年に渡って、有志として大学とやりとりを行なっていました。私が活動に深く関わることになったきっかけは、2017年の初め頃、彫刻学科の学部・修士に在籍する学生数人から学科の状況を聞いたことです。私は当時博士課程に在籍しており(専攻は彫刻)、学部・修士とは違い彫刻学科の所属ではありませんでしたが、教員が学生の作品を評価する講評会では公開叱責もよくあるということ、また教員からハラスメントを受けた学生が何人もいると聞き、強い憤りを感じていました。私もその前の年に彫刻学科の教員の研究室で怒鳴られるなどのハラスメントを受けたことがありました。私も学部と修士の卒業生で、以前からハラスメントが起きていることは把握していました。しかし、私を含む卒業生たちがそれを黙ったまま卒業していったこともその一因だったのかもしれませんが、学科の状況は明らかに悪化していました。

 気に入らない学生を排斥、学科の不誠実な対応
 それ以降、ハラスメントの事例報告や、学科の改善を求める要望書を提出。そして、それにともなう話し合いなどを大学の学生課を通してやりとりを続けました。学部と修士の必修単位を採点するのは学科の専任教員であることや、できるだけ大学の中で解決してもらいたいと考えていたことから、学生の名前は伏せ、このような活動をしていること自体もできるだけ内密にしていました。しかし、こうした学生からの訴えがあったにもかかわらず、学科の状況はむしろ深刻化したようにも感じました。私がこのような活動をしていることが教員側に知られたためか、私が学科の施設・道具を使用する際の申請方法が卒業直前になって急に変えられました。(そもそも明文化されておらず、それまではなかったはずの)「ルール」が、以前から存在していたものとして突き付けられたのです。このようになるべくハラスメントと指摘されないようにしながら、かつ気に入らない学生を排斥するような出来事は私以外の学生にも起きました。同時に、学生と教員の間の立場にある彫刻学科の職員や、多数派ではない教員の方は、学生のために板挟みになり、私たち学生の知らないところで大変な思いをしていたことと想像します。大学の対応は、ただ私たちのような学生が卒業するまでの間をやり過ごしているようにしか感じられず、私たちは同意者の実名を添えて、要望書を公開することを決めました。

 動かなければ状況は改善しない
学生は、一定期間でかならず大学から去っていきます。私は2018年に卒業しました。現在私と大学との間に労使関係はありません。ですが、もしも2018年の2月に大学の外に向けてこうした内部の現実を訴えていなかったら、大学や学科はこうした学生からの訴えがあった事実すらも、ほんの数年後にはすっかりなかったことにしていたでしょう。公開した後の反応や、最近の大学における入試差別やハラスメントの報道を見て、こうしたことは多摩美術大学の彫刻学科だけではなく、社会の中のさまざまな場所において、形を変えて起きている問題であると感じています。一度に大きく変えることはできなくても、起きている問題について、そのつど考えて動かなければ、けして状況は変わりません。それどころか、ただ黙っていることはその状況を肯定し、加担したことにすらなると考えています。私は卒業生ですので、以前のように学生として大学や学科に対して直接何かを訴えることはできませんが、今の自分の立場でできることは何かを考え、実際に行動するために組合に加入し、お手伝いという形ではありますが活動を続けていこうと思っています。

多摩美術大学彫刻学科学生有志によるホームページ
http://urx.blue/TaLr
ここで要望書や大学と学生のやり取りを公開しています
T(組合員)
アカデミックハラスメント (アカハラ)とは 教育・研究機関における、権力を利用した嫌がらせ。研究妨害、昇任妨害、指導拒否や差別、退学・退職の勧奨などのことをいいます。