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炭鉱閉鎖が迫る町で、音楽を愛した炭鉱夫たち。『ブラス!』(マーク・ハーマン監督/イギリス/1996年)

炭鉱閉鎖が迫る町で、音楽を愛した炭鉱夫たち

ブラス!
(マーク・ハーマン監督/イギリス/1996年)


 映画「ブラス!」は、マークハーマン監督による1996年製作のアメリカ・イギリス映画です。1980年代、イギリスではサッチャー政権による炭鉱閉鎖により、多くの炭鉱労働者が職を失いました。映画の舞台になったのは、それから約10年後の1990年代、ヨークシャーの炭坑町グリムリーです。100年以上に渡り炭鉱夫たちにより脈々と続いてきた老舗ブラスバンドが、炭鉱閉鎖問題などを抱えながらもロイヤルアルバートホールでの演奏を目指します。ちなみに、原題の「Brassed off」は「怒った」や「困惑した」という意味のを持ちます。本作は、日常や暮らしにうんざりしながら、それでも音楽を愛した、炭鉱夫たちの闘いの物語なのです。
■グリムリーのブラスバンド
 物語は、グロリアが仕事のために町を訪れた所から始まります。宿主は、彼女がフリューゲルを持っていることに気づくと「夜間の練習は遠慮してね。炭鉱夫たちのブラスバンドが毎週練習しているから、ラッパを吹くならそこでやるといい」と伝えます。グロリアは勧めに従ってブラスバンドの練習に顔を出します。「他所者はお断りだ」、ブラスバンドのメンバーはそう伝えますが、実は彼女はグリムリーの出身で祖父はバンドの指揮者ダニーの親友で勇敢な炭鉱夫にしてバンドマンだったのです。グロリアは謙遜しながらも難曲「アランフェス協奏曲」のソロパートを見事に演奏し、瞬く間にメンバーの信頼を勝ち取っていきます。
■炭鉱閉鎖とそれぞれの事情
 グリムリーの炭鉱は、比較的採算のいいものでしたが、やはり時代の波には逆らえず、会社は閉山を計画していました。閉山に伴い、労働組合を無力化するために会社は期間限定の特別に好待遇な退職金を用意します。長年の生活苦もあり、組合内部も閉山に反対し闘うか、退職金を受け入れるかで割れてしまいます。バンドのメンバー達は心から音楽を愛していましたが、迫る閉山の危機や生活への不安から、バンドを辞めようという者もちらほら現れます。「闘うか」か「退職金」かの投票は、刻一刻と迫っていました。
■「音楽が全て」の頑固オヤジ「ダニー」
 勇敢な鉱山夫の孫で優れたプレイヤーでもあるグロリアの存在は、バンドにとってもダニーにとっても特別なものでした。炭鉱と生活に危機の迫る状況のなか、バンドきっての頑固オヤジである指揮者のダニーは、生活の事も炭鉱のことも一顧だにせず、ひたすらに音楽に情熱を傾けます。ダニーの指揮の下、バンドは町対抗のコンテストでの優勝を目指し練習を続けます。準決勝で渾身の演奏により優勝を決めたまさにその帰り、ダニーは肺病によって倒れてしまい、そのまま入院してしまいます。ダニーの入院中、決勝を控えた中で炭鉱の閉鎖が決定され、バンドもメンバーたちにより解散することが決定されます。
■バンドの解散、苦悩する「フィル」
 決勝に参加するには多額の参加費用がかかるということが、バンドが解散を決めた大きな要因でした。ダニーの息子のフィルは、バンドのトロンボーンプレイヤーでした。父の肺病がとても重く、場合によっては命さえ脅かすものであることは誰の目にも明らかでしたが、音楽は父にとってまさに人生そのものでした。長年の夢であった決勝の舞台ロイヤルアルバートホールでの演奏をバネに病気と闘う父にバンド解散の事実を伝えるのはとても酷なことです。
 また、フィルは、10年前のストライキに参加し職を失い、刑務所に入るなどして困窮した際の借金の返済に負われていました。そのため、退職金を求めて炭鉱の閉鎖に票を投じてしまったのです。彼は罪悪感や絶望感から首つり自殺を試みます。仲間に救出され父の入院する病院に搬送された彼は、待合室のベンチで父に真実を告げます。
 ここから物語は急展開を迎えますが、ラストは多くの炭鉱労働者が失業したことがテロップで示され幕を下ろします。音楽と生活、労働と人の尊厳について正面からメッセージを伝える、地味ながらもしっかりと心に余韻を残す作品でした。
 稲葉一良(書記長)

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