炭鉱の危機に立ち上がった女性たちの実話
映画『フラガール』(李相日監督/2006年・日本)
映画『フラガール』は、2006年に日本で制作された実話をモデルにした映画作品です。監督は李相日、主演は松雪泰子、国内の様々な映画祭で賞を受賞をしました。蒼井優、岸部一徳、富司純子等の迫真の演技も物語に深みを与えています。
■「こんな手ぇした18歳って、どうだべさ」
舞台は1965年のいわきの炭鉱街、蒼井優演じる紀美子が友達の早苗からフラダンサー募集の話を聞き、一緒に応募しないかと誘われる所から物語は始まります。「こんな手ぇした18歳って、どうだべさ」と早苗は荒れてひび割れた両手を出し、こんな生活を抜け出したい、チャンスを掴みたいと訴えます。人目を忍んでひっそりと話しをする2人は、すぐに大人に見つかって追いかけられてしまいます。なぜ、フラダンサー募集の張り紙の話をして追いかけられてしまうのでしょうか。その理由は、実はとても深刻なものでした。
■ハワイより炭鉱だ!!怒る炭鉱労働者達
炭鉱では、大幅な人員削減の話が出ていました。黒いダイヤとも言われた石炭ですが、石油へのエネルギーシフトの波には勝てず、赤字により経営に大きな影響が出ていました。また、映画の舞台になった1965年、日本は前年の東京オリンピックの好況から一転、不況に陥っていました。そんな、先行きの見えない世の中を反映してか、国内では空前のハワイアンブームに沸いていました。
会社は、この波に乗り、赤字化した山を救い失業者を1人でも減らすために山から出る温泉資源などを利用して、ハワイアンセンターを作る計画を打ち出します。ハワイアンセンターには多額の資金が投入されるため、「そんな金があるならば俺たちの雇用と仕事を守れ」と労働組合はハワイアンセンターに猛反発していたのです。
■前途多難なフラガールたち
なかなか周囲の理解を得られないまま、山を守る起死回生の一打として常磐ハワイアンセンターの開設準備は進められていきます。岸部一徳演じる吉本紀夫はハワイアンセンターの館長です。この町で育った炭鉱娘達を立派なフラダンサーにして町の暮らしを守っていきたいという強い気持ちから、本場のハワイでフラダンスを学び、プロのダンサーとして東京で活躍していた主人公の平山まどかを指導者として招聘し、フラダンサーを募りました。説明会には多くの炭鉱娘が訪れましたが、ハワイアンダンスのビデオは炭鉱で育った彼女たちにとって刺激の強すぎるものでした。
「裸踊りだ」等とみんな恥ずかしがり逃げてしまい、紀美子、早苗を含め残ったのは4名だけでした。加えて、初日早々平山は酷い二日酔いで現れます。彼女は母親の借金を背負いお金が必要だっただけではじめからろくに指導をする気などなかったのです。
■生徒も教える側も成長する
はじめは「炭鉱娘にフラは無理」などと突き放した態度をとっていた平山でしたが、紀美子や早苗の熱意に動かされ、彼女たちを真剣にダンサーとして育てるようになります。厳しいレッスンに耐えながら、メキメキと腕を上げていく4人の姿を見て、いつしかフラガールの人数も増え段々と世の中の注目も集め始めます。はじめは田舎の炭鉱町が気に入らずふてくされていた平山も、指導者として人間として彼女たちとふれあうことで着実に成長していきます。しかし、背景の問題は何も解決していません。映画は、その後、炭鉱夫達との対立やまどかを追って東京からやってくる借金取りなど様々な障害を乗り越え成長しながらフラガール達が常磐ハワイアンセンターでのショーを成功させる迄の道のりをドラマチックに描き出します。
この作品は、単純なエンターテイメントとして楽しむこともできますが、背景にある社会問題や労働問題に焦点を当てることで、様々な一面が見えてきます。フラダンスに反対する母に対して早苗が言った「おらの人生はおらのものだ」という悲痛な叫び、そしてそれの想いが昇華されたラストの圧巻のダンスソロには凄みさえ感じました。
稲葉一良(書記長)
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