プレカリアートユニオンブログ

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偏見、差別・貧困と闘いバレーダンサーに。スト中の炭鉱で、労働者の琴線に触れる物語。『リトルダンサー』(スティーヴン・ダルドリー監督/2000年/イギリス)

偏見、差別・貧困と闘いバレーダンサーに。
スト中の炭鉱で、労働者の琴線に触れる物語

リトルダンサー』(スティーヴン・ダルドリー監督/2000年/イギリス)

 『リトルダンサー(原題:Billy Elliot)』は2000年に公開されたイギリスの映画です。「僕がバレエ・ダンサーを夢見てはいけないの」がキャッチコピーの本作は、まだバレエは女性がするものという偏見が強かった時代、炭鉱町の少年が、様々な壁を乗り越えバレエダンサーを目指す物語です。英国アカデミー賞を初め世界中の映画祭で受賞し、制作費500万ドルの20倍近い1億ドルの興行成績を上げるに至りました。監督はスティーブン・ダルドリー。舞台出身のスティーブン監督にとって初の長編映画ですが、大胆で自由な発想の演出は、作品をよりドラマチックに彩っています。
■炭鉱町でボクシングを習うビリー
 主人公の「ビリー・エリオット」は、炭鉱夫の父と兄を持つ心優しい少年です。母とは幼くして死に別れており、祖母と父兄と暮らしています。ビリーは他の男の子たちが皆そうするように、ボクシングを習っていました。ボクシングは人と殴り合うスポーツです。ビリーはどうしても、人を殴る事への抵抗が拭えず、結果、いつも負けてばかりいました。そんななか、ふとしたことがきっかけで隣でやっていたバレエダンスのレッスンに参加することになり、次第にその魅力に魅せられていきます。
ジェンダーや階級、様々なバイアス
 当時のイギリスでは、バレエ・ダンスというのは上流階級の「女の子」が習う習い事でした。炭鉱町の男は「男らしく」なければならず、また、階級にそぐわない趣味を持つことはよしとされていませんでした。当然、ビリーがバレエを習うことに対して、父も兄も猛反対します。
 町は炭鉱閉鎖の問題で大きく揺れていました。ビリーの父も兄も炭鉱夫で、労働組合の組合員です。組合は炭鉱閉鎖に反対しストライキを行っていたため、ビリーたち一家の生活はとても苦しいものでした。ボクシングのレッスン料もそんな苦しい家計の中から父が何とかひねり出していたものなのです。ビリーの父は、ボクシングの熱烈なファンでしたし、「人並みの暮らしをさせて立派な”男”に育てなければ」という子どもへの強い思いもあったのだと思います。ジェンダーや、階級、様々な先入観と偏見がビリーの行く手を阻んだのです。
■女装趣味の友人マイケル
 そんなビリーにとって、良き理解者となったのが少し”変わった”友人、マイケル。女装が趣味で、お姉さんの服を内緒で着たり、お化粧をすることが好きな少年でした。マイケルは、そんな自分の趣味や好きなことを恥ずかしがったり、否定しません。周りの人々が、「労働者階級」でなおかつ「男」であるビリーが、バレエ・ダンサーになることを夢見ているということに対して、奇異と否定の眼差しを向けるのに対して、マイケルはビリーの背中を押そうとさえします。好きなことを好きとはっきり伝えるマイケルの存在に、ビリーは励まされ、勇気づけられます。
■開花するビリーの才能
 ビリーは、周囲の反対にもめげず、隠れてこっそりとバレエの練習を続けます。ビリーの先生であるウィルキンソン夫人は、そんなビリーにバレエの才能を見いだします。ウィルキンソン夫人はビリーにオーディションを受けさせようとしますが、ストにより家族の生活が苦しいことを知っているビリーは、それに従うことができません。
 クリスマスの日、ビリーの父は母の形見であるピアノを燃やしてしまいます。ビリーは外に飛び出し、踊り出します。ビリーの父は、踊る我が子の姿に才能を感じ、希望の光を見いだします。「ビリーを俺たちのようにしてはいけない」父の強い決意、組合の仲間たちのカンパによって、とうとうビリーはロイヤル・バレエ・スクールを受験することになります。
 「労働者に芸術がわかるわけがない」「バレエなんて男らしくない」、といった差別と偏見に満ちたものの見方は、残念ながら、今なお根深く残っています。最後はプロのバレエ・ダンサーになったビリーですが、この物語は、「当たり前」という言葉の下、世の中に溢れている差別と偏見、貧困との闘いの物語でもあります。みなさんも、まず周りの「当たり前」を疑うところから始めてみませんか。
 稲葉一良(書記長)

movies.yahoo.co.jp

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