プレカリアートユニオンブログ

労働組合プレカリアートユニオンのブログ。解決報告や案件の紹介など。

男性正社員の既得権守る労働組合がセクハラに加担。映画『スタンドアップ』(ニキ・カーロ監督/2005年/アメリカ)

 「スタンドアップ(原題NorthCountry)」は、ニキ・カーロ監督による2005年アメリカ製作の映画です。1988年に行われた世界初のセクハラ訴訟を元にした作品で、主人公はシャーリーズ・セロン演じるジョージー・エイムズ、炭鉱で働くシングルマザーです。この作品は、単に法廷闘争について描いた作品ではありません。何故セクシュアルハラスメントが起こってしまうのか、どうして深刻化してしまうのかにも踏み込んだ、社会派ドキュメンタリーの一面もある作品です。
 ■夫の暴力に耐えかね、炭鉱で働くジョージー
 物語の舞台は、カナダからもほど近いアメリカ中西部の北、ミネソタ州のとある炭鉱町です。主人公のジョージーは、夫からの暴力に耐えかね故郷である炭鉱町に戻ってきます。彼女は、暴力を振るう夫の力に頼らず、自分自身で2人の子どもを養っていこうと決心します。ジョージーが選んだ仕事は、父と同じ炭鉱の仕事です。就職を決めると、ローンを組み中古の家を買います。当時のアメリカは女性の社会進出が急速に進んでいました。従前、男性が行っていた労働にも多くの女性労働者が参画していった時代です。将来への希望に満ちあふれたジョージーの一家でしたが、実際に働き始めてみると深刻な問題と向き合わざるを得なくなります。
 ■元恋人からの執拗なハラスメントにより退職
 それまで、炭鉱で働くのは男たちの仕事でした。時代的にも少しずつエネルギーシフトなどで炭鉱は下火になっていく中、多くの炭鉱で働く男性が「女性に仕事を取られる」と、危機感や強い不満を抱いていました。そんな中、炭鉱で働いていた少数の女性労働者たちは深刻なセクシュアルハラスメントを受けていました。ハラスメントの魔の手はすぐにジョージーにも及びます。同僚として働くボビー・シャープは、高校時代のジャージーの恋人でした。彼は、ジョージーに対し執拗にハラスメントを加えます。行為は性的な嫌がらせだけではなく、首を絞めるなどの暴力にまで及び、ジョージーは働き続けることが困難になってしまいます。
 ■性被害者を苦しめる「セカンドレイプ
 ハラスメントにより仕事を続けることが出来なくなってしまった事に対し、ジョージーは裁判で賠償を求めます。法定で彼女を待っていたのはいわゆる「セカンド・レイプ」でした。性暴力・性犯罪の被害者が被害を公にするその過程で、被害者に対する偏見や誤解から二次的な被害を受けてしまうことです。裁判所での調査を行っていく中で、「男性に対してだらしがなかった」と言いふらされ、更には「自分から誘った」等など、被害を受けた彼女を、それらの言動は追い打ちのように傷つけていきます。
 ■「男性」「正社員」の既得権を守る組合の問題点
 炭鉱の歴史は、労働組合史においても決して避けて通ることのできない重要なものです。当然、ジョージーが働いていた炭鉱にも労働組合はありました。当時の組合は、組織率も高く、ストライキなどで会社としっかりと闘うことのできる組合でした。なぜ、強い組合がありながら、こんなにも深刻なハラスメント被害が生じてしまったのでしょうか。
 原因は、組合自体にあります。日本でも、労働組合は長らく「正社員」の「男性」「日本人」労働者のためのものでした。最近になって、ようやくその傾向が少し変わりつつある程度です。「男性正社員の既得権を守る組合」と化していた労働組合により、ハラスメントの行為者は守られ、逆に被害者のジョージーが悪者であるかのようにされてしまったのです。
 その後ジョージーがどのように闘っていくのかは、ぜひ皆さんの目で確かめてみてください。この映画で扱っている問題はDV、シングルマザーの貧困、女性差別、セクハラ・パワハラ、そして男性中心の組合と実に多岐にわたります。強調したいのは、現在に至るまでそのどれもが解決していないということです。
 稲葉一良(書記次長)

movies.yahoo.co.jp