公民権法が制定されて60年近くがたった今なお、アメリカでは黒人に対する差別が公然と行われています。2020年5月に起こった、白人警官が黒人のジョージ・フロイドの首を圧迫し殺害するという痛ましい事件に端を発し、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動は一気に全米に広がりました。『世界を動かす変革の力』の著者アリシア・ガーサはBLMの共同代表です。
■黒人であり女性でありクィア
アリシア・ガーサは、比較的裕福な家庭で育ちます。周りは白人ばかりで黒人は自分一人、白人社会で求められる振る舞いを自然に身につけていたことも相まって、苛烈な差別とはほとんど無縁に生活してきました。大学に進学し、黒人フェミニズムと出会い、彼女は活動家への道を歩み始めます。自分が黒人であるということ、女性であるということ、クィアであるということから、運動のさまざまな問題点が彼女の前に立ちはだかります。運動のなかで彼女はそれらとしっかりと対峙してきました。
■常識や文化による差別の構造
本書で最も印象的だったのは、差別は常識・文化という形に落とし込まれ、為政者・権力者の支配のために戦略的に仕組まれたものであるという視点です。「夫婦同姓は文化だ」、「普通は異性を愛するものだ」、「非正規の待遇が低いのは当たり前だ」、など、日本でもさまざまな差別が文化や常識という文脈のなかで人々に擦り込まれています。実際に、差別論者の多くが文化や常識をもって被差別者を迫害します。大衆も文化や常識というものを疑いません。社会の右傾化は、弱者の権利を奪い、人々を分断し差別や貧困を激化させるものだと論じています。
世界中のさまざまな社会問題に立ち向かうには、人々の団結・連帯が不可欠です。本書は、10年近く地道な組織化を行い、運動を今日に至るまでに育て上げてきた若きリーダーからの力強い組織化に向けたメッセージです。
稲葉一良(書記長)
『世界を動かす変革の力―ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ』
(アリシア・ガーザ 著・人権学習コレクティブ 監訳/ 明石書店)