プレカリアートユニオンブログ

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労働者の団結とプライドが奪われた情景を描く。『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』(ジェームズ・ブラッドワース著/光文社)レビュー

『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』(ジェームズ・ブラッドワース著/光文社)

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 日毎に世界中に広がっていく新自由主義と賃金格差。本書は、イギリスのジャーナリストである著者のジェームズ・ブラッドワースが、アマゾン、ケアワーク、コールセンター、ウーバーなど様々な「低賃金」で「過酷」な仕事に潜入し、その体験と洞察を綴ったルポタージュです。

 生活の全てを破壊する労働
 まず、著者はピッカーとしてアマゾンの倉庫に潜入します。賃金は低く、生活していくのもギリギリです。また、仕事内容も過酷で、常に歩き回る仕事のため、1日で軍隊の訓練のような長距離を歩くことになるそうです。更には雇用も不安定で、いつクビになるのか皆ビクビクしながら働いているそうです。それらからくるストレスに生活習慣の乱れ、仕事により、彼は文字通り生活の全てを破壊されていきます。

 ケアワークでも奪われる人間性
 著者はケアワークでも働くことになります。ケアワークとは所謂、訪問介護の仕事です。低賃金で全てが「数値化」「合理化」された労働環境では、定められた1日の訪問先を回るためには、ごく短い決められた時間の中で、1軒の訪問先を「処理」しなければなません。その結果、訪問先でのトラブルにも十分に対応できず、日々のノルマを達成するため、虐待や不正が蔓延します。仕事に最大限の数値的な効率を求めた結果、労働者から人間性までもが奪われてしまうのです。

 普通に働いて普通に生活することの難しさ
 その他にも彼は、コールセンターにウーバーの運転手など、様々な仕事に潜入します。全てにおいて、企業の利益至上主義により、労働者が人間ではなく使い捨ての道具に、さらには単なる数字・数値に追い込まれてしまっているのを感じました。サッチャー政権が、労働組合の団結と労働者のプライドを奪い、その結果現代イギリスは人間らしく普通に働いて普通に生活していくということが極めて難しくなってしまった情景が本書で描かれていますが、「普通に働いて普通に生活していくこと」が難しくなっているのは世界共通の問題だと思います。企業側の姿勢を正し、監視する私たち労働組合の力が今こそ試されているのだと切に感じました。

 稲葉一良(書記次長)