主婦パートの闘いに光を当て非正規差別の病根を照らす１冊
『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった！』（渋谷龍一著／旬報社）
正社員と非正規の格差は深刻だ。その根底には家父長制に基づく性別役割分担による女性差別が大きく横たわっている。非正規労働者が４割にも達し老若男女様々な労働者が低賃金に喘ぐ。非正規差別は女性差別。この言葉の意味を真に理解できる労働者は意外にもそう多くない。『女性活躍「不可能」社会ニッポン～原点は丸子警報器主婦パート事件にあった～』は労働ジャーナリストの渋谷龍一氏による１冊。非正規労働者への賃金差別に関する判例として有名な丸子警報器事件を中心に様々な非正規女性労働者の闘いに光を当てる。
■「主婦パート」は未熟な労働者か
主婦パートと聞いてどのような労働者を想定するだろうか。家事の片手間の空いた時間に誰にでもできる簡単な仕事を行う労働者、といった見方は今や完全に誤りである事を示すことから本書は始まる。主婦パートのほとんどが、正社員経験があり、結婚などを機に正社員から離れると再び正社員としての就職が難しい日本の雇用慣行などが原因で非正規に留め置かれているのが現状だ。課せられる責任も決して軽いものではなく、労働力として基幹化されているにも関わらず賃金は正社員のそれと比べ驚く程低い。
■企業にとってのうまみが作り出す相場感
この状況に使用者側は随分と昔から気づいていた。有能で熟練した労働力を「コスパよく」使い捨てにできるうまみに味を占めた経営者は、その享受できるうまみを基準に相場感を持つに至り、女性は家、男性は外（職場）という性別役割分担意識も相まって不当な労働条件の改善は行われず、非正規労働は確固たる身分制度となった。
■坂さんの闘い、丸子の闘い
同じ責任で仕事をしているのにこんなに待遇が違う。本書の特徴は法的な論点だけでなく信条や背景に踏み込み立ち上がった女性達の闘いの実態を克明に記した点だろう。丸子警報器主婦パート事件（この闘いは正社員と非正規の強い団結を生んだ）と共に名古屋銀行と闘い画期的な労災認定を勝ち取り、正社員か要求を長きにわたり闘い名古屋ふれあいユニオン、女性ユニオン名古屋を創設し女性労働者の権利のための闘いを続ける坂喜代子さんの闘いや本人達のメッセージが収められており会社の手段を選ばぬ不当労働行為の数々に一歩も退かず力強く闘う姿には胸が熱くなる。
「これ以上働くと社保に入らないといけないから何とか調整したい」。そんな声が賃上げにさらにに歯止めを掛けている。企業はこれを悪用し、ますます主婦パートを基幹化し賃金を留め置く口実にするだろう。本当にこのままでいいのだろうか。私たち労働組合が非正規の賃上げにしっかりと取り組まなければ格差の解消は行われない。春闘を正社員だけのものにしない非正規労働者の格差是正に積極的に取り組むことなく安心して働ける社会は実現しない。
稲葉一良（書記長）
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