プレカリアートユニオンブログ

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山田結婚相談所 第1話 「非正規は結婚できないって本当ですか。山田先生。」

プレカリアートユニオンは、「非正規雇用でも有期雇用でも職場で仲間を増やして労働条件の維持向上を行う。仕事作りも視野に入れ、働いて、希望すれば、一人につき一人は子どもを育てて生きていけるだけの収入を確保する。」ということを目指しています。なぜ、非正規雇用は、なかなか結婚できないのでしょうか。塾講師を経験した後、基金訓練を受けて求職中の道用和男さんが解説します。

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山田結婚相談所
第1話 「非正規は結婚できないって本当ですか。山田先生。」

道用和男

 11月のよく晴れた日の午後、客もなく、暇をもて余している山田結婚相談所の山田のところに友人の木下藤吉郎が浮かない顔して現れた。木下は29歳、独身だ。

木下:このあいだ同窓会があったんですよ。それで小学校のときの先生に「木下、いつまでも派遣やってると、結婚できないぞ」って言われたんですが、本当ですか、山田先生。

山田:「できない」とまでは言えないが、部分的には当たっているね。厚生労働省の統計で正規従業員男性と、非正規従業員男性の婚姻率を比較してみよう。非正規従業員ってのは正規従業員でない人、つまり派遣社員契約社員、パートタイマーのことだね。
25〜29歳では正規従業員の婚姻率は34.4%で、非正規従業員は14.8%。30〜34歳では正規が59.2%、非正規が30.3%。つまり正規従業員は、非正規従業員の2.3〜2倍の割合で結婚しているんだ。言い換えると非正規従業員は、正規従業員の半分しか結婚していない。
 もし男性全員が結婚したいと思っているなら、「結婚していない」ではなくて「結婚できていない」と言ってもいいだろう。実際、厚生労働省の調査によると18〜39歳の未婚者は、全員ではないが94%が「いずれ結婚するつもり」と答えている。

貧乏男性は結婚できない

山田:ところで木下くんの年収はいくらだい?

木下:最近は仕事が少なくて140万くらいなんですが、貧乏人でも結婚くらいはできるでしょう。カッコが良ければ。

山田:いや実は貧乏人が結婚することは非常に難しいんだ。政府研究機関の調査によると、男性低所得者は婚姻率が低いことがわかっている。たとえば25〜29歳の婚姻率つまり結婚している人の割合のことだが、これを見てみると年収400〜499万円の男性は43.9%、年収600〜699万円の男性は57.6%なのに対して、年収100〜149万円の男性で結婚している人は15.3%しかない。
 年収400万円または600万円の男性は、年収100万円台の低所得男性の実に2.9倍から3.8倍の割合で結婚している。つまり低所得男は年収400万円男の約3分の1、年収600万円男の約4分の1しか結婚できないということだ。

社会規範が結婚の障壁となっている

木下:何でこうなるんですか。先生。

山田:「男性は家計収入の責任を負うべきだ」と女性が考えているからだよ。でも木下くんも「男には妻子を養う義務がある」とか「男は外で仕事。女は家を守るべき」、なんてことを口にしたことがあるんじゃないか? 実は女性に限らず男性も、つまりこの社会の多くの人々がそう思っているんだよ。これを社会規範というのだが、日本は性役割に関する社会規範が強い社会なんだ。
 たとえば「夫は収入を得る責任をもつべきだ」に対する賛否を内閣府が調べたのだが、日本での賛成の割合は、フルタイム労働に就いている妻が84.6%、パートタイム労働に就いている妻は96.5%、パートタイム労働就業の妻をもつ夫が96.6%だ。
 一方スウェーデンでは、フルタイム労働に就いている女性の14.0%、フルタイム労働に就いている男性の17.6%しか賛成していない。8割を超す多数派が「夫は収入を得る責任をもつべきだ」という考えに反対している。日本社会は性別役割分業規範が非常に強固な社会ということがわかるだろう。

未婚女性が男性に求める年収はいくら?

木下:で実際、女性は年収がいくらだったら結婚を考えてくれるんですか。
 山田:へぇ、木下くんが結婚に熱心だったとはね。それでは我が山田結婚相談所が総力を挙げて行った調査結果を披露しよう。調査地域は青森県および東京都で、対象者は25〜34歳の未婚の男女だ。まず女性に「結婚相手の男性に対して期待する年収はいくらですか」と尋ねた。その答えはこうだ。
 青森県では53.4%の女性が年収400万円以上を男性に求めている。東京都では66%の女性が年収400万円以上を、39.2%の女性が年収600万円以上を男性に求めている。こうしたことがわかったんだ。

木下:400万とか600万とか、キビシイなあ。

女性の結婚難の原因は?

山田:木下くんにとっても厳しいが、こうした希望を持っている女性たちにも厳しい現実が待っている。つぎは未婚男性が現実に得ている年収について見てみよう。
 青森県で400万円以上を稼いでいる未婚男性は、全体の2.6%しかいないんだ。東京都では年収400〜600万円を稼ぐ未婚男性は19.5%、年収600万円以上を稼ぐ未婚男性は3.5%だ。ここから女性たちにとっても結婚相手を見つけるのはかなり難しいってことがわかる。
 女性たちの求める経済的条件と、実際にその条件を満たしている男性の割合とを比較してみよう。まずは青森県だが、53.4%の女性が年収400万円以上の男性を求めているのに対して、年収400万円以上を稼ぐ男性は2.6%しかいない。男性と女性の人数が同じだとすると(実際には未婚男性のほうが少し多いのだが)、競争率は約21倍だ。
 東京の場合は、約4割の女性が年収600万円以上を男性に求めているが、この条件にあう男性は3.5%で、競争率は約11倍だ。しかもこの経済的条件を満たした男性の中から、恋愛感情を抱くことができる人を探し求めるわけだから、大変だ。(つづく)

参考文献
厚生労働省 2006 『平成18年版 労働経済の分析(労働経済白書)』
内閣府 2005 『平成17年版 国民生活白書
労働政策研究・研修機構 2005『労働政策研究報告書2005』
山田昌弘 2007 『少子社会日本』岩波新書