講演:鴨田哲郎(弁護士)
〈講演後、対抗手段のための相談〉
講師プロフィール かもた・てつお 旬報法律事務所。早稲田大学法科大学院教授。1951年生。1978年弁護士登録(東京弁護士会)。2002年から2007年まで日本労働弁護団幹事長。
日時:2015年1月24日(土)18時
場所:ユニオン運動センター会議室
東京都渋谷区代々木4-29-4西新宿ミノシマビル2F
参加費:無料 ※カンパは歓迎
主催:全国ユニオン(全国コミュニティ・ユニオン連合会)
問い合わせ:TEL03-5371-5202(全国ユニオン)
TEL03-6276-1024(プレカリアートユニオン・清水)
※会場地図http://www.precariat-union.or.jp/about/index.html#accessmap
最寄り駅の京王新線初台駅から会場までの道順→京王新線「初台駅」東口を出てエスカレーターを上がるとオペラシティの中庭に出ます。成城石井の左手の石段を上がると大きな交差点のはす向かいに吉野家が見えます。吉野家側に交差点を渡り、吉野家とサンクスの間の遊歩道に入ってください。遊歩道を直進し、滑り台とブランコを過ぎて間もなく右手の階段を下た左手の建物が「西新宿ミノシマビル」です。回り込むと入口があります。
運送業界で、適正に残業代を支払わない固定残業代制の悪用が拡大し、長時間・過重労働を慢性化させる原因となっている。仕事の種類や乗っている車の大きさ、無事故手当など、残業代の性質がない手当を時間外賃金だということにして、残業代を支払わないというやり方だ。これらの固定残業代制の悪用を指南する弁護士や社会保険労務士も存在する。労働時間は延びる一方、賃金は下がり続ける運送業界では、人手不足も深刻だ。運送業界を健全に存続させるためにも、労使が力を合わせて運送業界の労働条件の引き上げることが必要。日本の流通の根幹を支えるトラックドライバーが、仕事に見合った賃金を得て、健康を維持し、将来の展望を持って働けるようにするため、田口運送判決も活用しながらトラックドライバーの固定残業代制悪用問題についての対抗手段を考え、業界全体を対象にした取り組みにつなげたい。
※田口運送判決 プレカリアートユニオンの組合員を含むドライバー4人が、田口運送株式会社に残業代を請求した裁判で、2014年4月24日に、横浜地裁相模原支部(小池喜彦裁判官)が、原告の主張を認め、同社に2年分の未払い賃金と同額の付加金の支払いを命じる判決をだた。同裁判所は、「各種手当てによって時間外賃金を支払ったとはいえない」「待機時間も労働時間」と判断している。その後、2014年7月25日、東京高等裁判所で地裁判決に沿った内容で原告ドライバーが勝利和解を実現。その後の訴訟も和解が模索されている。
【参考】
残業代ゼロは労働時間を短くしない!残業代不払いは長時間労働を蔓延させる!
トラックドライバーの訴え/2014年7月16日
梅木隆弘(プレカリアートユニオン田口運送・都流通商会支部書記長)
私は、中堅の運送会社のグループ会社でトラックを運転するドライバーです。日々、みなさんにおなじみの冷凍食品やアイスクリームなどを運んでいます。運送会社の過当競争の結果、私の賃金は、20年前のほぼ半分になっています。私は、1日12時間、13時間労働は当たり前で、グループ会社で働くドライバーは1日16時間労働、長いときで20時間以上の、過労死ラインを軽くオーバーするような労働を強いられています。
18歳で普通免許をとってから継続的にではなく、途中違う仕事をしたりしながら約20年近くこの仕事をやっています。トラックのドライバーの多くは、真夜中に起き、重い荷物を積み込み、事故を起こさないよう注意をはらいながら配達時間を守り、お客様に商品を届けるといった社会的責任の強い仕事です。仕事の魅力はほかよりは高い給料でした。
しかし、小泉構造改革の頃、規制緩和され、零細事業者が増大するなかで、荷主からの買いたたき、過当競争がすすみ、ドライバーにしわ寄せされてきました。以前は、トラック1台分の荷物をどこに運ぶという具合に運んでいたのが、荷主が、強い立場を背景に、何個を何時にどこへ運ぶと注文をするようになり、倉庫の前で荷下ろしのトラックが並ぶという、道路が倉庫代わりに使われるようなことになりました。また、倉庫の人手を減らし、ドライバーが荷下ろしだけでなく、荷物整理までさせられるようになりました。労働時間は長くなる一方で、売り上げが減ったからと、手当が減らされるようになりました。
多くの中小、下請けの運送会社では、ドライバーの残業代が支払われていません。多くの会社で運送料金や配送回数が反映される給与のシステムになっているため、以前は、労働時間に応じた給与の支払いをしなくても、十分な収入を得ることができたのです。しかし、買いたたきにより運送料金がギリギリまで下がり、手当が削減され、12時間から16時間は当たり前という長時間の労働時間に見合わない給与になってしまったのです。
その上、顧客から商品管理のリスクを負わされた運送会社は、商品事故の弁償金を、ドライバーの給与から天引きするようになりました。運送会社は、かつては、輸送する商品にかけていた損害保険をコスト削減のためやめてしまいました。取引先も、商品事故の分を見込んで商品の発注をしていたのですが、今や商品管理のリスクはドライバーにつけ回しされ、商品事故の天引き問題は、この5、6年で顕著になっています。
このままでは、日本の流通の底が抜けてしまう。そう思って、私や仲間の組合員は、田口運送とグループ会社の都流通商会を相手取って残業代請求訴訟を起こしました。田口運送や都流通商会は、仕事の種類や乗っている車の大きさ、無事故手当のような手当の総額が時間外賃金の総額だと主張して、残業代を支払っていません。同様の仕組みが運送業界には広がっています。このたび、プレカリアートユニオンの組合員を含むドライバー4人が、田口運送株式会社に残業代を請求した、2010年11月に提訴した裁判で、2014年4月24日、横浜地裁相模原支部は、原告の主張を認め、同社に2年分の未払い賃金約4300万円と、判決後、同額の付加金の支払いを命じる判決をだしました。同裁判所は、「各種手当てによって時間外賃金を支払ったとはいえない」「待機時間も労働時間」と判断しました。
原告の組合員が、雇用主である田口運送を相手取って未払い残業代を請求する裁判を起こしたのも、単に個人の残業代請求を目的にしたものではなく、ドライバーの待遇改善を目指したのと、自分より下の20代のドライバーが社内にほとんどいなくなってしまったことへの危機感もありました。
トラックドライバーが割に合わない待遇になっているため、運送業界に入る若い人が減っています。その上、若い世代の車離れが進み、免許制度が変わったことにより、普通免許を取得しただけでは中型車を運転することができなくなりました。さらに、普通免許を取得する人の多くが、マニュアルではなくオートマチック車の免許を取得しており、トラックの運転ができる人も減っています。市場が正しく動いているならば、需要が高まれば給与が増えるはずですが、そうはなっていません。
私は、月400時間労働に従事して、労災で心筋梗塞を発症し、生死をさまよった経験をしています。変動残業代制と呼ばれる、残業代ではない、基本給より高い手当を払って残業代を払ったことにする仕組み、つまり、残業代の不払いは、長時間労働と裏表の関係にあります。労働者をただ働きさせるからこそ、高速道路の料金を惜しんで、長時間労働をさせるのです。残業代を払わなくすることは、決して、労働時間の抑制にはつながりません。労働時間を短くしたければ、労働時間を厳しく規制すればよいのです。
私たちの仲間が、変動残業代制という残業代を支払わなくするおかしな仕組みを裁判で問い、勝利判決を得て、和解しようとしています。もし、残業代ゼロが合法化されてしまったら、こんな闘いもできなくなってしまいます。残業代ゼロは労働時間を短くしない、残業代の不払いは長時間労働をまん延させることを強く訴えます。