プレカリアートユニオンブログ

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ユニオンVSブラック企業。『まんがでゼロからわかる ブラック企業とのたたかい方』(佐々木亮、大久保修一著、重松延寿まんが/旬報社)ブックレビュー

ユニオンVSブラック企業。『まんがでゼロからわかる ブラック企業とのたたかい方』(佐々木亮、大久保修一著、重松延寿まんが/旬報社

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 「引越社」事件はガイアの夜明けでも取り上げられ、その年の視聴率トップを記録するほどの反響でした。『ブラック企業とのたたかい方』(旬報社)は、アリさんマークの「引越社」事件をモチーフにした完全オリジナルマンガです。労働者がブラック企業と対峙する際に必要な知識や、労働組合を通じての闘い方をわかりやすくコンパクトにまとめています。本書は主人公「カズマ」が会社に迫られた不当な弁済金返済のために結婚資金に手を付けようとし、「そんなこと、できない」とATMの前に崩れ落ちるという衝撃のスタートを切ります。

力関係を背景にした様々な労働者搾取
 「労働者の権利は労働法によって守られている」、法律について書かれた本や条文を読む限りでは日本の労働者は手厚く保護されているようにみえます。果たしてその実態はどうでしょうか。残業代の不払い、一方的な賃金減額、違法な弁済金制度、不当な解雇にイジメ、パワハラ…、会社は労働法などお構い無しに労働者を様々な方法で搾取します。マンガで、カズマは会社からの不当な弁済金の請求に苦しみます。従業員は会社の利益のために働いています。そのため業務中の事故は会社が利益をあげるために当然に受容しなければならないリスクと考えられています。過失の程度により例外的に一部を従業員が負担するという判断がなされることもありますが、弁済金とは本来基本的に会社側が全額負担する性格のものです。このような不当な搾取がまかり通ってしまうのは、使用者と労働者には雇う側、雇われる側と歴然とした「力関係」があるからなのです。この「力関係」が対等ならば、会社はそうそう不当に労働者から搾取することはできません。私たち労働者は会社と対等かそれ以上の力を持たなければならないのです。

ユニオン=垣根を超えて団結する労働者
 会社と対等かそれ以上の力を持つ、果たして本当にそんな事ができるのでしょうか。「労働基準法」は使用者(会社側)と労働者の力関係を是正するために存在しています。しかし、実際にこの労働基準法だけを武器に会社に闘いを挑んでも、1人の力ではほとんど成果を上げることができません。例えば、不当解雇の場合、多くの労働者は労基署に相談に行くのだといいます。しかし、労基署は法律の違反を取り締まるところで不当解雇が「不当」であるかどうかの判断をすることはありません。結局、話を聞くだけで追い返されてしまうケースがほとんどなのです。会社での不当な待遇を改善したい、不利益な扱いを撤回させたい、そんなとき労働者が取るべきなのは、1人ではなく団結して会社と向き合うことなのです。私たちユニオンは、労働者が業種や会社の枠を超えて団結して助け合う互助団体です。カズマも「プロレタリアートユニオン」という労働組合に加入し会社に対して闘いを挑んでいくことになります。

労働組合に与えられた闘う力
 労働組合には団体交渉権が認められています。これにより会社は労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合、話し合いに応じることが義務付けられます。そして、その話し合いを誠実に行う義務を持ちます。また、労働組合には争議権が認められています。通常であれば、威力業務妨害や、名誉毀損に問われるような行為も労働組合の正当な権利の行使と認められる範囲においては罪に問われることはありません。社前での街頭宣伝行動やビラまき、そして、場合によっては大規模なストライキで会社を機能停止させ使用者に問題の解決を求めていくこともあります。労働組合には会社と闘う力が与えられているのです。

不当労働行為
 会社との闘いの中、カズマは突如として懲戒解雇を言い渡され、裁判を経て復職を果たすも、今度は営業職からシュレッダー係への配置転換を命じられます。通常、会社はその適正な行使の範囲において「人事権」を行使することができます。特に配置転換では、会社に広範囲の裁量が認められています。では、会社がカズマに行った配置転換は人事権の正当な行使と言えるのでしょうか。答えはNOです。物語ではこのことが裁判でも争点となり、会社は裁判官からも相当に厳しい評価を受けます。また、組合活動への報復として従業員に対して解雇や嫌がらせをすることや、組合の力を削ごうと脱退を働きかけたり、組合に加入しないよう呼びかけたりすることは、労働組合法により明確に禁止されており「不当労働行為」と呼ばれています。労働組合は不当労働行為が行われた場合都道府県労働委員会に「不当労働行為救済申立」を行い、審査の結果不当労働行為と認定されれば労働委員会から「救済命令が出されます」。

裁判をするから組合はいらない?
 物語の中では先に挙げた不当解雇や配置転換をめぐる裁判闘争が描かれていますが、同時に組合での争議行動も行われています。「裁判をするなら組合活動は不要なのでは」という声を聞きますが、これは大きな誤解です。一般的に、会社は労働者個人と比べ遥かに大きな経済的アドバンテージを持っています。会社に裁判をズルズルと引き伸ばされてしまった場合、労働者は資金が尽き、もしくは体力切れに追い込まれ、結果として不本意な結果に終わってしまうことも少なくありません。会社側に裁判の引き伸ばしをさせないためには、会社側にも引き伸ばすことで大きな損害損失が生じる状況を作り出さなければなりません。労働組合団体行動権を行使し、会社に早期解決への圧力を掛ける必要があるのです。裁判任せにしてしまうようでは、勝てる闘いも勝てないのです。

ひとりひとりがしっかりとした知識を
 シュレッダー係への配置転換は人事権の濫用であるとして、カズマは営業職に戻ることができました。しかし、彼の闘いはまだ終わっていません。会社には弁済金の問題がまだ残っています。カズマは仲間とともに不当な弁済金制度を撤廃させるために闘い続けていく決意を新たにし、物語は終幕します。この本では、ストーリーの中に、その間の解説に、闘うための武器が至るところに散りばめられています。私たち労働組合が会社と闘う時、その主人公は組合役員や専従役職員ではなく、問題に直面した当該組合員自身です。団結は個を否定するものではありません。主体性を持ったひとりひとりが結束して、問題に向かうことで、より強い力を得ることができるものなのです。ひとりひとりの力を高め共に様々な労働問題に立ち向かっていきたい、これが本書を読み終えての素直な感想です。

稲葉一良(書記次長)