家父長制は人類の常識?本能?歴史を紐解き家父長制の呪縛から解放される1冊
『家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか』(アンジェラ・サイニー著/集英社コモン)
「元始、女性は太陽だった」、女性解放運動の旗手、平塚らいてうが『青鞜』の創刊に際して寄せた言葉だ。多くの人が「家父長制は自然の成り行き」、「人の持って生まれた本能」、などと疑わず考えがちだが、それは果たして本当だろうか。
『家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか』はアンジェラサイニー氏の著書。筆者は科学ジャーナリスト、オックスフォード大学・キーブルカレッジ名誉フェロー。BBCやガーディアンなど英米の主要メディアに多数出演、寄稿する。主な著書は『科学の女性差別とたたかう』『科学の人種差別とたたかう』など。科学を通してジェンダー問題について研究・発信を行っている。本書は家父長制をテーマに世界の歴史を紐解いた1冊でありまるで有史の始めから家父長制が脈々と続いてきたかのような現代のジェンダー感に鋭いメスを入れる。
■勇敢でたくましく財産を管理していたスパルタの女性
「スパルタ」といって思い浮かべるのは屈強な男性による強い軍隊、過酷な訓練等だろう。日本でも「スパルタ式」などと厳しい訓練を例える。第五章「制限」で描かれるスパルタの姿は私たちの想像とは少し違ったものかもしれない。
スパルタの女性は外でよく運動をし、たくましく日に焼けている。本書引用されるアリストパネスの喜劇の台詞「この輝くような桃色の肌!そして鋼のような筋肉もすてき!正にスパルタの貴婦人。雄牛でも絞め殺せそうなあっぱれな体格ですわ」を読めば、当時スパルタの女性がどのような体躯であったかイメージが湧くだろう。戦争を何より重視したこの国で男が留守の時に女性が期待されたのは財産の管理である。一時期スパルタでは女性が土地の5分の2を所有していた程に経済的地位もあり、また勇敢であることが求められた。私たちの習ってきた歴史の授業では全く触れられていない一面だ。
■学者自身が家父長制以外あり得ない等と考えてしまう強烈なバイアスについて
また、本書の第一章「支配」では、家父長制は人間の動物としての本能に基づくものであるというバイアスについても語られる。1970年代社会学者のスティーブン・ゴールドバーグは「家父長制の必然」を出版しその中で、男性の生まれ持った攻撃性が結果として女性より多くの食料などを得ることにつながりそれが家父長制を生み出す旨の説を唱えている。有害な男性性とジェンダーバイアスに塗れた現代はこの考え方からアップデートが出来ていないのではなかろうか。当然、著者はこの説に異を唱え、本書の中で様々な歴史上の事実を取り上げ誤りを解き明かしていく。
家父長制は単に男性による女性への支配という一面のみならず、男性が男性を支配する際の、そして、国が他の国を支配するための装置にもなっているという点には注目が必要だろう。今の日本でも、家父長制によりジェンダーを問わず生きづらさが生じている。
ドラマなどで語られる過去の文明は家父長制の社会としてばかり描かれる。本書を読めば「農業が始まり女性が財産として管理されはじめた」などという家父長制の始まりについての説がいかに眉唾物かよく理解できる。家父長制の呪縛から逃れるきっかけとしてぜひ一度本書を読んでみて欲しい。
稲葉一良(書記長)
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