清水の駆け込み寺から砦へ[6]
プレカリアートユニオンの活動方針案は、毎年、抽象的なものではなく、できるだけ具体的な数、期限を入れています。
9月12日の定期大会で採択された2021年度の10項目の方針も同様です。
1、団結力の強い組織を作るため、単なる組織拡大ではなく、組織化を実現し、まずは2021年9月の定期大会までに、強く連帯した350人の組合員となることを目指す。
■組合員の人数を目標とすることを見直し
これまで私たちは、組合員の人数の目標を掲げて方針にしてきましたが、この方針を修正します。無秩序は組織拡大は、組織を脆弱にしてしまうことから、単なる組織拡大ではなく、本来の組織化を行い、500人、1000人の組織になっても維持できる態勢を作りながら組織を大きくしていきます。
労働組合の主旨が腹落ちしないまま、サービスの提供を受けるお客さんのように組合に関わったり、自分の問題解決を組合や役員にお任せしたり、自分の問題解決のために一時的に組合を利用するという組合員が増えてしまうと弱い組織になってしまいます。
私たちは、今、非常に力強い活動をしています。ということは、自由に労働者を解雇したい、労働者の生活を顧みることなく労働条件を引き下げたいと考える利己的な経営者や経営者側で利益を得る人たちからは、煙たい存在になりかねません。
ですから、私たちは、自分たちを守る力を高めながら、組織の人数を増やすことにしました。1000人の組織になることありきではなく、まずは1000人の組織になれるような力をつけることを先に実現します。組合活動を担える柱となるリーダーを育てる。組合のコアの活動を担う三役や専従、執行委員会役員、その周りに、役員以外でそれぞれの立場で主体的に組合活動に取り組む組合員によるチーム活動を強化し、組合活動の担い手を数多く育てていきます。
2、相談、交渉、解決、組織化を担える次世代の専従を2021年9月の定期大会までに新たに1人育成する。
■労働の野戦病院でさらなる若手を育てる
2019年9月の定期大会以降、専従となった30代で2019年9月当時書記次長、現在書記長の稲葉一良さんが、労働相談だけでなく、徐々に交渉を担えるようになり、街宣活動などのアクションでは中心的な役割を果たしています。
プレカリアートユニオンは、2012年に結成し、8年半になりますが、労働相談を受けて、組合員とともに会社と交渉を行い、裁判や労働委員会の対応を含む争議を解決するのは、主に清水が行うという状態が続いていました。これまで私たちは、交渉、解決できる担い手を増やすために様々な試みを続けてきました。日々、予想外の事態に対応し続ける必要があるユニオン、合同労組は、労働の野戦病院とも言われます。
なかでも私たちのような活発な活動に取り組むユニオン、合同労組の専従は、現状では過酷な仕事です。ある程度の法的な知識、交渉力、胆力、精神力、体力、話を聞く力、文章力、コミュニケーション能力、フットワークの良さ、成長し続ける力、やり続ける力などと、真摯にこの活動に取り組む熱意と正直さ、誠実さ、利己的ではないこと、チームとしての利益を最大限に考えられること、などが求められます。できる限り、意志と力のある人が、やってみよう、と思える待遇を実現したいですが、大企業のようなそれではありません。待遇は改善しつつありますが、実は不安定なもので、活動の意義や主旨を理解して身を投じていただくことが、現状では必要です。
次世代の専従、といっても、実は、40代の清水でも、労働組合のなかでは若手と言われます。30年から40年前に、有能で豪腕なオルガナイザーが中心になって結成された個人加盟のユニオンは、次世代の、交渉して解決できる担い手を育てきれずにいるところが数多くあります。私たちは、他のユニオンから見れば若手である清水より若手の専従を、稲葉書記長以外にあと1人育てる、ということを方針に掲げました。
次世代の専従を志す方は、ぜひ声をかけてください。簡単な仕事ではありませんが、仕事だからと給料のために我慢して意に反することをする、という種類のストレスは、ありません。一方で日々の活動は、現世で見返りを求めるものではなく、天に徳を積んでいるようなつもりでいただいた方がよいと思います。
もちろん、アクションや団体交渉を担える仲間も増やしていきます。
3、2021年9月の定期大会で、執行委員会役員の3割を男性以外の性自認の人が参画するよう、組合活動に多様な仲間の参画を進める。
■多様な仲間の視点を組合活動に生かす
今でも労働組合の主流は、大企業の正社員の男性が中心を担っています。労働組合はまだまだ男社会です。大きな労働組合の意志決定に関わっている圧倒的多数は、男性です。
たまたま、プレカリアートユニオンの執行委員長は私で、性別は女性です。だからといってプレカリアートユニオンのジェンダーバランスがとれているわけではありません。私は、それなりの心身の強さを持って、活動に没頭できる条件に恵まれた、ある種の強い女です。私が女性として組合の代表を務めていることに意味はありますが、それだけでは足りません。
多様な視点を組合活動に生かしていくため、多様な組合員の力を高めて、役員を務められるようにバックアップをしていきます。
4、街宣車の老朽化を受けて、現在使用中の街宣車の車検有効期間である2021年7月22日までに適切な中古車1台を購入し、改造する。
■10人乗りの中古車を改造の予定
プレカリアートユニオンは、多いときで週3回など、頻繁に街宣行動、アクションを行っています。暑い季節の街宣活動は、熱中症対策も必要で、移動を街宣車にすることも多く、街宣車の稼働率も上がっています。
この組合のメインの街宣車が、老朽化してしまいました。支出を抑えるため、10人乗りの中古車を購入し、改造する予定です。
5、毎月、街宣活動などアクションの情報共有とスケジュールを作成する争議団会議と、組合員どうしが交流してつながりを作るユニオンカフェ&バーを開催し、アクションに常に5人が参加できる態勢を作り、新入組合員へのオリエンテーションを行いながら、組合員、役員の結束を固め、組合活動への参加を促す。
■オリエンテーションを行いアクションの態勢も強化
加入の段階で、助け合いの組織である労働組合の主旨を理解していただくよう、争議団会議などをオリエンテーションの場として活用していきます。
6、非正規労働者の雇用形態による格差是正に取り組み、「パートタイム・有期雇用労働法」を活用して、基本給、手当、一時金、退職金、福利厚生などの格差是正を要求し、それらの職場の取り組みについて、1年間で最低3件の情報発信を行う。
■労働組合の仲間として正社員が格差是正に協力する
日本の非正規労働者は、正社員との間に大きな格差があり、雇用形態による差別が横行しています。
プレカリアートユニオンの静岡支部・クローバー分会では、介護事業所で働くパートと正社員からなる23人の組合員が、会社に対して未払い賃金の支払いと、パート労働者の格差是正のため、賞与の支払いを求めて集団訴訟を行っています。
労働組合として、正社員も非正規労働者も一緒に格差是正に取り組むことができることで、裁判を有利に進めることができます。パートには賞与を払わなくてもよい、退職金を払わなくてもよいと開き直っている会社は数多くあります。そんな会社で働く労働者に、格差是正を求めることができる、労働組合があれば正社員と協力して差別をなくしていける、ということをお伝えしていきます。
7、日本の労働関連法規を遵守せず、違法な解雇などを行う外資系企業で働く労働者の相談を受けるチームを作り、多言語での情報発信を進める。
■本国の社長宛に送ったメールで迅速な解決も実現
外資系企業で不当解雇をされたある組合は、「外資あるある」で済ませたくない、外資系企業だからといって日本の法律を守らない違法な解雇を繰り返させたくない、と闘って、争議を解決しました。
外資系企業は、日本の労働組合法も理解せず、団体交渉でも誤った対応をしがちです。
そんな外資系企業で働く仲間の困難に対応するため、労働相談、交渉、情報発信を多言語で担えるチームが必要です。
実は、ある外資系企業で、日本法人の担当者が労使紛争を隠蔽して、本国の担当者に報告していないということがあったため、本国の社長宛に、主旨の説明をし問題解決を求めるメールを英文で送りました。すると、半日後に本社の交渉担当者から返事があり、zoomなどでの話し合いの結果、解決に至るということがありました。
組合員のなかで、街宣活動などのアクションにはなかなか参加できないが、翻訳ならできるという方がいらっしゃいましたら、ぜひ、名乗りを上げてください。
8、労働組合の意義、1人から加入できる労働組合、ユニオン、合同労組の存在や解決力について周知し、労働組合に関する誤解を払拭し、相談や加入のハードルを下げるための情報発信として、Youtubeの番組を最低1ヶ月に1回配信する。
■個人加盟の労働組合の実態を知ってもらう
多くの相談者は、プレカリアートユニオンのような個人加盟のユニオンの存在を知らなかった、または、会社で労使一体化している御用組合に加入していたことがあるため、労働組合なんて力になってくれないと諦めていた、と言います。また、企業内組合が、個別の労働問題には取り組まないか、かえって会社の味方をされて弾圧されてしまったということも。なかには、ユニオンの悪宣伝をする人もいます。
そこで、あらゆる労働組合に関する誤解を払拭し、どういう人が、どんな活動をしているのか、理解をしてもらうための宣伝を行います。
9、2023年9月までにオーガナイザー育成担当の専従スタッフを1人配置するための準備をする。
■オルガナイザー育成専門の専従が必要
組織化を担う専従を育成するだけでなく、専従を始めとするオルガナイザーを育成することを担当する専従を配置できれば、組合の担い手をより多く育てられるようになります。
例えていえば、前線でやりあっている状態で、交渉の担当を担いながら、育成担当の仕事をするのは、限界があります。
オーガナイザー育成担当の専従を配置して、組合の担い手をより多く育てます。
10、2023年9月までにプレカリアートユニオンが運営するケアハウスを開設するための準備をする。
■安心して働き利用できるケアハウスを
静岡支部・クローバー分会の仲間は、介護事業所の9割以上を組織化しています。きっかけは、利用者への虐待をやめさせたい、ということでした。劣悪な労働条件で、人手不足の状態で、余裕がないなかで介護の仕事を行っていれば、しわ寄せは、利用者の身体拘束といったかたちで、より弱いところへ向かいます。
クローバー分会では、待遇の改善を勝ち取りながら、利用者への虐待をなくしました。
経営者が儲ける分を働き手に分配しながら、安心して働くことができ、利用者によりよいサービスを提供できる、障がいの有無やセクシュアリティに関わらず誰でも入居できるケアハウスを開設する準備を引き続き進めます。
今年度は、以上の10項目の方針を実行していきます。
そのためにも、専従が行っている活動を近日中にリストアップし、見直しと分担を進めていきます。方針を現実のものとするため、ぜひ、ご意見、参画ください。ともに頑張りましょう。
清水直子(執行委員長)