労使関係の歴史と展望
人事専門誌『HRmics』に掲載された連載「原典回帰」を1冊にまとめたのが、『働き方改革の世界史』です。労働政策研究所長である濱口桂一郎氏と雇用ジャーナリストで上智大学経営学部客員教授などを務める海老原嗣生氏の共著による本書ですが、連載時は”マルクスなんてワンオブゼム労働イデオロギーの根源を探訪”というサブタイトルが付けられていました。労使関係論の世界的な流れを、集団的労使関係を軸に、さまざまな流派のさまざまな視点を踏まえ、幅広く体系的に解説しています。
「労働は商品じゃない」という誇り
本書の中でもっとも印象に残ったのは「労働は商品じゃない」という言葉の誤解についてです。会社はもっと従業員を大切にしろというニュアンスで使われがちなこの言葉ですが、みなさんは本当の意味を知っていますか?反トラスト法のいかなる規定も適用されない特殊な商品として、労働組合が労働条件を使用者と交渉する集合取引(団体交渉)が談合と見なされることのないようにAFL初代議長ゴンパースらが立法闘争の末に勝ち取った文言なのです。自らの手でハンドルを握り、労働条件を決定していくことへの誇りに満ちた言葉です。
日本的雇用慣行を目指す試みも
次に印象に残ったのは、アメリカなどで日本的雇用慣行こそが労使関係の理想型だという思想が一時大きく世を賑わせたということです。年功序列や終身雇用の取り組みは、日本以外の国々でも試みられ、そして失敗していきました。日本における「働き方改革」は、この日本式雇用慣行の失敗・崩壊による雇用情勢の悪化・雇用環境の変化にどのように向き合い、よりよく働くことができるかの試みだと考えられます。日本の雇用を理想とした諸外国の試みと失敗から学ぶことはとても有益に思えました。
本書では日本の著作を含み11冊の労使関係の古典を的確に要約し、集団的労使関係の歴史と展望について示しています。この本を読んで、あらためて労使関係のあるべきかたちについて考えを深めることができました。
稲葉一良(書記長)
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