プレカリアートユニオンブログ

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アーツ前橋の契約不履行事案と「敷居を踏む Step on the Threshold 」展にかかる公開質問状 

2024年6月26日

東京藝術大学長 日比野克彦

 

アーツ前橋の契約不履行事案と「敷居を踏む Step on the Threshold 」展にかかる公開質問状 

 

 群馬県前橋市の美術館「アーツ前橋」で2019年に開催された企画展「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX 未来を考えるための教室」[会期:2019年7月19日〜9月16日、以下「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX」]をめぐり、アーツ前橋側が記録集の発行を一方的に中止し、山本高之氏への業務委託料の一部が未払いになっていた件で、当時のアーツ前橋館長(現・東京藝術大学教員)が契約不履行に関わったことについて、昨年、アーティスツ・ユニオン[※1]は、貴学に再発防止とともに、山本氏の名誉回復に努めることを求める意見書を送付しました。

 

 本事案に関して、山本氏は、契約不履行を認めた前橋市和解契約を締結していますが、和解の過程で山本氏が要求した前橋市による再調査結果には、元館長が主導し、前橋市に対して虚偽の報告を行ったことが記されています。一般公開された山本龍前橋市長の謝罪文[※2]にも、元館長が重要な証拠を提出せず、公文書の中で事実とは異なる経過説明を行ったことが明文化されています。

 

 とくに、日付の改ざんを含む虚偽報告により、記録集刊行の未実施をアーティストの責任としたことは、きわめて深刻な過失であり、元館長の貴学への職場復帰に際しては、大学として本件を公に説明する社会的責任があると考えます。

 

 また、この契約不履行事案に加えて、アーツ前橋では、2019年末から2020年初頭までのあいだに、県内の作家2名の遺族から借用した作品6点を紛失するという事案が起きています。貴学ではこの事案について、2023年3月2日に、「キュレーション教育プログラム検討委員会報告書」を公開しました[※3]。これは、2021年10月11日に発表された「アーツ前橋の事案に対する当研究科の対応方針」において示された、「東京藝術大学における検証委員会の設置」[※4]を受けてのものであると思われます。

 

(2)東京藝術大学における検証委員会の設置

 

 今回の事案を考えるために東京藝術大学内に、検証委員会を設置し、この問題について大学としても検証を試みます。すでに前橋市を中心に「アーツ前橋作品紛失調査委員会」が調査を行い、現在では「アーツ前橋あり方検討委員会」などが将来を考える上であらためて今回の事案を検証しています。また、新聞やウェブメディアでも、取材を踏まえたさまざまな検証が行われています。一方で、住友教授からは市に対して意見書が提出され、両者の見解に齟齬が見られることも事実です。東京藝術大学の検証委員会は、こうしたこれまでの検証や両者の主張を踏まえた上で、教育研究機関として私たちがこの事案をどのように理解すればいいのか、学内外の専門家などの聞き取り調査を通じて明らかにしたいと考えています。(「アーツ前橋の事案に対する当研究科の対応方針」より)

 

 この前橋市と元館長の見解の齟齬とは、作品紛失後の隠蔽とも取れる工作についてのものです。貴学は「アーツ前橋の事案に対する当研究科の対応方針」において、本件の検証を行うと発表しました。しかし、「キュレーション教育プログラム検討委員会報告書」では、本来行うはずであった検証ではなく、キュレーション教育の内容検討へと論点がずらされ、隠蔽をめぐる見解の齟齬については、うやむやにされたままとなっています。

 

 アーティスツ・ユニオンは、作品紛失事案における最大の問題は、紛失後の対応だと考えます。隠蔽が事実であるならば、元館長が関わる貴学のキュレーション教育においては、本件への深い反省とともに、同様の問題が起こらないようにするため、厳密な教育を行う必要があることは明らかです。

 

 くわえて、アーツ前橋での元館長らのハラスメントが、前橋市によって認定されています[※5]。大学という場で同様のハラスメントが繰り返されないよう、どのような防止対策に取り組むのかも、あわせて社会に発信されるべきであると考えます。

 

 また、2024年6月10日付けで、うらあやか氏が「「敷居を踏む Step on the Threshold 」展における住友文彦氏のクレジット消去に関する意見書」[※6]を公開しました。ここでうら氏は、元館長が関わった学内展示において、元館長の名前が伏せられたことをめぐり、同展に参加した作家の立場から問題を指摘しています。

 

 うら氏の「学生に虚偽を働かせる教育が「主体性」の名の元に行われているのではありませんか」[※7]という指摘に、アーティスツ・ユニオンも賛同します。これは貴学において「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX」展をめぐって行われた虚偽報告や改竄への反省と、再発防止をふまえたキュレーション教育およびハラスメント対策が軽視され、それらの実践が適切に行われていないために起きた出来事ではないでしょうか。

 

 「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX」展における虚偽報告および改竄と、作品紛失事案における隠蔽にも取れる工作は、根を同じくするものです。「キュレーション教育プログラム検討委員会報告書」において貴学は、「前橋市による住友氏への「訓告」処分を重く受け止めることにとどめ、前橋市、アーツ前橋、そして住友教授の間でなされるべき事案であると判断した」としました。しかし、「敷居を踏む Step on the Threshold 」展をめぐって提起されている問題に鑑みれば、貴学の判断が誤っていた可能性があるとは言えないでしょうか。

 

 これまでの貴学の対応が、うら氏や「敷居を踏む Step on the Threshold 」展の参加作家が安心して展覧会に関わることを阻害したばかりか、学生や教職員にとっての精神的な負荷になっていることは、想像に難くありません。

 

 あらためて、このようなことが二度と繰り返されないよう、これまで芸術家や芸術に携わる多くの専門家の育成を担い、国際的な信頼を築いてきた貴学に、主体的に再発防止の取り組みを実施することを要請するとともに、2024年7月10日までに以下の質問への回答を求めます。



質問 1

当時のアーツ前橋館長(現・東京藝術大学教員)が「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX 未来を考えるための教室」をめぐる契約不履行に関わったことについて、貴学の見解をお答えください。

 

質問 2

上記に関する再発防止について、具体的な取り組みをお答えください。

 

質問 3

「アーツ前橋の事案に対する当研究科の対応方針」の「(2)東京藝術大学における検証委員会の設置」に書かれている、元館長と前橋市の見解の齟齬をめぐる貴学の調査結果はどのようなものであり、いかなる検証が行われたのか、お答えください。

 

質問 4

アーツ前橋での作品紛失事案における隠蔽にも取れる工作について、貴学の見解と、同様の問題への防止対策についての具体的な取り組みをお答えください。

 

質問 5

前橋市によって認定されたアーツ前橋における元館長らから学芸員(当時)へのハラスメントについて、貴学はどのように再発防止に取り組むのか、具体的にお答えください。

 

質問 6

うらあやか氏による上述の意見書を適切に検討し、うら氏が求める「失敗を失敗として認識できる機会を作るのも、学生が安心して学ぶことができる教育機関の要件と考え、本件についてGAおよび学生とシェアし改めて振り返りを行う機会を持つことを希望します」に対して、貴学の見解と、具体的な取り組みをお答えください。



※1 アーティスツ・ユニオンはプレカリアートユニオンアーティスト支部として2023年1月に結成されました

※2 https://www.artsmaebashi.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/b0ff228b158d994e149fd5b6e318edff.pdf

※3 http://ga.geidai.ac.jp/2021/10/11/10267/

※4 http://ga.geidai.ac.jp/2023/03/14/11899/

※5 https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/arts-maebashi-harassment-news-202312 

※6・7 https://urayaka.jimdofree.com/ikensyo/

 

 

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