プレカリアートユニオンブログ

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山田結婚相談所 第2話 「どうして女性は高い年収を男性に期待するんですか。山田先生。」

プレカリアートユニオンは、「非正規雇用でも有期雇用でも職場で​仲間を増やして労働条件の維持向上を行う。仕事作りも視野に入れ​、働いて、希望すれば、一人につき一人は子どもを育てて生きてい​けるだけの収入を確保する。」ということを目指しています。なぜ​、非正規雇用は、なかなか結婚できないのでしょうか。塾講師を経​験した後、基金訓練を受けて求職中の道用和男さんが解説します。

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山田結婚相談所
第2話 「どうして女性は高い年収を男性に期待するんですか。山田先生。」

山田結婚相談所の所長、山田のところに、派遣で働く友人の木下(29歳、独身、年収140万円)が、浮かない顔をしてやってきた。木下は、自分は結婚できないのではないか、と悩んでいる。

「独身女性は、夫候補に父親並みの収入を期待する」

【木下】でも、年収400万円とか600万円とか、そんな金額じゃなければ、男はたくさんいますよって言いたいんだけどなぁ。「男性に期待する年収」ってのを下げれば、たくさんの男たちの中から選べるし、だいたい「好きだ。一緒にいたい」っていう感情から始まるのが結婚だと思うんだけれどなぁ……。
 どうして女性はこんなに高い年収を期待するんですか。先生。
【山田】彼女たちが何を考えているのか具体的なところまでは分からないけれど、現実の生活からわかることが三つほどある。一つは独身女性の生活水準が高いことだ。
 若い独身女性の多くは親と一緒に暮らしている。たとえば25〜29歳の独身女性は、その81.8%が親と同居している(国立社会保障・人口問題研究所2005年『結婚と出産に関する全国調査』)。彼女たちは住居や食事などの基本的な生活条件を親に提供してもらっているよね。ということは、父親の年収がわかれば、彼女たちがどの程度の生活をしているのかがわかるというわけだ。
 20代女性の父親はだいたい50〜60歳くらいだろう。国税庁の統計によると50〜54歳の男性サラリーマンの平均年収は649万円、55〜59歳では599万円となっている(国税庁『平成22年分 民間給与実態統計調査』)。親と同居するってことは、娘・息子にしてみれば、年収600万円クラスの生活を享受できるってことなんだ。
【木下】なるほどねえ。だから結婚してもいいっていう条件が、この金額になるわけなんだ。「パパが提供してくれる生活と同じ生活ができるなら、結婚してもいいわ」ってわけね。
【山田】いや、実はパパ提供分にさらに上乗せがあるんだよ。親元に住んで勤めている女性のことを考えると、食費や家賃がかからない上に、もらった給料をほぼ自由に使えるメリットがある。
 たとえば小遣いの金額だが、20代未婚女性は56.5%が月7万円以上の小遣いを使っているが、同年代で月7万円以上の小遣いがある既婚女性は、その6分の1の9.5%しかいない(日経産業消費研究所,1998年)。つまり独身女性の現在の生活水準は非常に高い。だから将来の「結婚生活に対する期待水準」も高くなっていると思うんだ。
 そのうえ炊事・洗濯など、家事・雑用は母親がやってくれる。こんな豊かで快適な生活が送れるんだから、そこから出てきてビンボーな結婚生活に入るっていうのは、なかなか難しいだろう。
 夫候補に400万円以上とか600万円以上の年収を期待するのは、若い男にとっては厳しいだろうが、彼女たちにしてみれば、生活水準の切り下げ、よくっても現状維持っていう倹(つま)しい期待しかしてないのよって言いたいかもしれないね。

「独身女性は、子育てに対する期待水準も高い」

【木下】そうかぁ、そういうことかぁ。うーん。じゃあ、二つめの理由は?
【山田】二つめの理由はたぶん、子育てに非常にお金がかかるってことだろう。『国民生活白書』によると第1子の0歳から21歳までの22年間分、つまり大学卒業までの育児費用は1,302万円だそうだ(内閣府『平成17年版 国民生活白書』)。
【木下】なんかちょっと少ないって感じですね。もっとかかりそうですよね。
【山田】うん。この金額には学費も入っているそうだが、少ないと感じるね。子供を高校までしか行かせなかった家庭と、大学まで行かせた家庭が混じっているということかな。
 まあ仮にそうだとして、大学生にかかる費用を見てみよう。日本学生支援機構によると、下宿している私立大学・学部生の学費と生活費の1年間の合計は238万円で、4年間だと952万円になる。自宅通学の国立大学・学部生だと1年間で105万円、4年間で420万円だが、それでもかなり高い(日本学生支援機構「平成20年度 学生生活調査」)。
 というわけで、子育てにはべらぼうに金がかかるんだ。このことを独身女性たちも強く意識しているんじゃないかな。
 それに自分が受けた教育以上のことを、自分の子供にもしてあげたいと考えるのは、親の人情としてわかるだろ、木下くん。
【木下】そうですねえ。僕は大学まで行ってるんですが、たしかに子供を持ったら大学まで行ってほしいって思うでしょうねえ。まあ、その子が望んだら、ですけどね。
【山田】そうだろ。何でもいいんだが、たとえばピアノを習いたいと子供に言われたときに、できることなら習わせてあげたいと親は思うだろ。母親自身も子供の頃ピアノを習っていたら、なおさらそう思うだろう。
 つまり親にしてもらったこと以上のことを、できれば自分の子供にもしてあげたいと、多くの女性が思っていると思うよ。
 言いたいことは、子育てにかかる費用が非常に高いので、独身女性たちの「子育てに対する期待水準」も高くなる。だから結婚相手に期待する年収も高くなるということなんだ。
どうだい木下くん。「好きだ。一緒にいたい」という気持ちとsome moneyだけでは結婚生活は成り立たない、年収400万円・600万円くらいは必要よ、という彼女たちの考えはわかるだろ?
(つづく)

参考文献:山田昌弘 2007 『少子社会日本』 岩波新書