プレカリアートユニオンブログ

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命の峻別に対抗する。『閉ざされた扉をこじ開ける 排除と貧困に抗うソーシャルアクション』(稲葉剛著/朝日新聞出版)

『閉ざされた扉をこじ開ける 排除と貧困に抗うソーシャルアクション』(稲葉剛著/朝日新聞出版)

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 日本社会の格差は広がり続け、貧困はいつ誰が陥ってもおかしくない問題となっています。今回は『閉ざされた扉をこじ開ける 排除と貧困に抗うソーシャルアクション』(稲葉剛著/朝日新書)のレビューをお届けします。著者の稲葉氏は長年にわたり生活保護の申請サポートなど、貧困支援の『現場』で活動をしてきた社会運動家です。住居の問題や生活保護の問題を中心に、貧困によって生存権が脅かされている実態に警鐘を鳴らしています。

排除される路上生活者
 この数年間、オリンピックに向けて都市部を中心に様々な公共インフラの整備が行われてきました。その裏で、例えば公園をリニューアルする際、そこで生活していたホームレスを行政がだまし討ちのように排除するなど、路上生活を営む人たちの生活が脅かされています。また、昨年の台風の際に台東区が行った、まるで命を峻別するかのようなホームレスへの避難所受け入れ拒否の問題など、日本社会は今、路上生活者たちの生存権を奪おうとしています。

差別による住宅確保困難層
 「住居の確保は自己責任」この考え方が、路上生活者だけでなく様々なマイノリティの生存権を脅かしていると著者は論じています。LGBTや外国人労働者、障害を抱えた人々などのマイノリティーが賃貸や家を買う時のローンの審査に通らない、という問題が現在極めて深刻化しているのだといいます。彼らの属性だけを持って「信用ができない」とでも言わんばかりに審査ではじく行為は、もはや差別以外の何者でもありません。

 住居の問題だけでなく、本書では生活保護にまつわる様々な問題についても光を当てています。生きる権利である「生存権」を奪いかねない深刻な問題であるにも関わらず、あまりにその実態について無知だったと読後に痛感しました。社会に覆い隠された見えない扉の奥を照らす良書だと感じました。

稲葉一良(書記次長)